第六話
しばらく花畑の中を歩くと御殿のようなものが現れた。
「すご…」
大きな門の前には門番と思われる少女が二人、立っていた。
「玄武と青龍じゃ。門戸を開けよ」
すると、右側の少女が沙羅に問うてきた。
「貴方は…青龍の媛ですか?」
「えっと…」
何と答えたら良いのか分からず、口ごもる。
「そうだ」
そと問いに答えたのは青龍だった。
「先ほどいらっしゃいました玄武の帝と共に神界をお救い下さい」
「あ…っと…」
正直自信のない沙羅は俯く。
「頑張るわ」
沙羅はそれだけ言った。
ギイィ…ときしんだ音を立てて、門は開かれた。
その先には、誰かが立っていた。
「ん…?」
霧のような物でよく見えない。
「よくいらっしゃいました。審神がお待ちです」
そう言って恭しく頭を下げた女性は、とても美しかった。年は二十歳ぃらいだろうか。
綺麗な黒髪だった。彼女は腰まである髪を流したままなので、動くとさらさらと揺れた。
身なりは青龍や玄武とよく似ていて、朱色の切り袴を纏っていた。
「おぉ。お前が出迎えとは、なかなかじゃの」
玄武はからからと笑った。
よく笑う人だ、と沙羅は独りごちた。
「そんなことはどうでもいいでしょう」
顔つきは優しいものの、口調は厳しい。
「あら。随分と可愛らしいお媛様を選んだこと」
青龍の後ろに隠れるようにして立っていた沙羅はおずおずと前に出た。
「初めまして、青龍のお嬢さん。私の名前は朱雀よ」
「朱雀って」
沙羅は慌てふためいたような表情を青龍に向けた。
「ああ。四神の一人だ。お前の守護は…西だったか?」
「あら、ものすごく残念。大はずれ。私の守護は南よ」
少し怒ったような声で言った。
すると、玄武が口を挟んできた。
「おぬし…まさか私の守護も忘れておらんだろうな」
「ああ?お前は北だろ」
「青龍!何で私のだけ忘れてるのよ!!」
そのやりとりを聞いていた沙羅は吹き出した。
「何だ?」
青龍は訝しそうに聞いた。
「だって…神様なのに、中学生と変わらないなって」
すると、三人は少し頬を赤らめた。
その時、背後から罵声が飛んだ。
「遅いぞ!!」
声を上げた張本人は齢30くらい。男性で仁王立ちだった。
「審神様がしびれを切らしている!早くせよ」
沙羅はクイクイと朱雀の袖を引っ張り耳を貸すように促す。
それに従い腰を少し屈めた。
「ん?」
「あの人は?」
沙羅は少しつま先立ちになり、朱雀の耳に小さく尋ねる。
「ああ。あれは審神様が一番に気に入っている人。神ではないわ」
朱雀はそう言って背筋を伸ばした。
「じゃあ、行きましょうか」