第二八話
まさか…
彼女の本当の狙いは…
「貴様…なぜまともに攻撃してこない…」
青龍は恨めしそうに睨んで言った。
すると、亜桔は楽しそうに笑った。
「そうねぇ…なぜかしら?」
次の瞬間、青龍達の目の前から消えた。
「!?」
油断は、なかった。
決して目は離さなかった。
しかし、嫌な予感がして沙羅を見た。
「……っ…せ…」
沙羅の近くには、朱雀も和美もいた。
気付いていなかったのか。
亜桔は一瞬で沙羅の背後に回った。
「沙羅っ!!」
急げ。
俺の本能が告げた。
しかし……
「掛かったわね…」
亜桔の声。
人形の亜桔。
衝撃が腹部を貫く。
「く……っ…」
口から、生暖かいモノが顎に伝わる。
衝撃は激痛に変わる。
「青龍ッ!?」
白虎の叫びが聞こえる。
自分の体が地面にたたき付けられるのが分かった。
「馬鹿ね…」
頭上で、亜桔が馬鹿にしたように言い捨てた。
意識が曖昧に、なる。
「『オニ』は一人ではないのよ」
「…っ…か…」
口で呼吸をしようと思い、咳込む。
血が肺に入ったようだ。
「哀れね…神ともあろうものが…」
「立夏ッ!!」
「!?」
沙羅の怒りが爆発した。
「…っ」
立夏の攻撃は確実に亜桔に当たった。
朱雀に治してもらったとはいえ、まだまだ痛む。
しかし、それすら感じない。
「あなた…」
切られた頬の傷を拭いながら、沙羅を睨んだ。
「…っ…許さない!!」
和美に支えられて辛うじて立っている沙羅だったが、霊力は膨れ上がっていた。
「何を…した…?」
沙羅の足元には、切れたペンダント。
それは、霊力をコントロールするためのもの。
それを自ら切り捨てた。
「許さないだと…?自分で立っている事もままならないのに」
和美に支えられ、ふらつきながら。
しかし、それでも亜桔をしっかりと見据えていた。
「じゃあ、正々堂々と戦いましょうか」
亜桔は勝ち誇ったように笑った。
「何が正々堂々よ!!」
和美は亜桔に向かって叫んだ。
すると、足からがくりと力が抜けた。
「っ…!?」
「わっ!!」
和美に支えられていた沙羅もその場に崩れ落ちた。
「なぜ今までこんなに隙があったのに、四神が私に攻撃出来なかったのか分から
なかったの?」
「………」
「『束縛』よ。立ち上がらずにどうやって戦う?」
馬鹿にしたように沙羅を見下す。
しかし、沙羅は薄く笑って言った。
「だったら立たなければいいのよ」
そうして、叫ぶ。
「立秋っ!!立夏!!」
二つの光が沙羅を取り巻き、宙に浮かせる。
――同時召喚――
それは、霊力を全開にしているから出来る事。
「立春、立冬」
季立を全員召喚し、使うなど今までなかったせいか…
こんなにも季立の召喚というのは腕を使うものなのか。
沙羅は亜桔を睨んだまま、立春を見ずに言った。
「立春、青龍の傷治せる?」
『無理だな。専門外だ』
「じゃあ、幻影で痛みを和らげる事は?」
『出来るが…幻影が切れた時にキツくなるだけだぞ』
「それでもいい。お願い」
『分かった』
立春は青龍の元に行った。
後は、目の前の忌まわしい鬼を倒すだけ。
「どうやら、あなたと私の術は類似しているようね」
「似ている…?」
亜桔の言葉に沙羅は聞き返した。
「ええ。私もあなたもかまいたちを使う」
「違うわ。立夏はかまいたちなんかじゃない」
「同じ事よ」
「違う」
沙羅は冷静に言い放った。
立秋も沙羅の霊力が開放されたせいか、調子がいいようだ。
「立冬っ!!薄氷流水!!」
黄色い光が亜桔めがけて放たれる。
「…っ!?」
予想外の攻撃に、亜桔は身をよじる。
「立夏・風化集結っ!!」
洞窟内の空気が変わる。
沙羅に従い、刃と化す。
「残念ね…正々堂々とした戦いは私の勝ちよ」
「く……ぁ…っ」
亜桔は最期のあがきとも言える大量のかまいたちを連発させた。
「立夏っ!!」
それすら薙ぎ払うように無数の刃が亜桔を襲う。
同時にすさまじい爆風と爆音が、鳴った。
「……っ!!」
風に吹き飛ばされそうになるが、立秋が沙羅を支える。
しばらくすると、風も砂埃もおさまった。
「ありがとう、立秋」
お礼を言ったあとで、地面に下りる。
終わった、と一息つく間もなく、立春の声が耳を裂く。
『馬鹿野郎!!何していやがる!!青龍の息が止まりかけてるぞ!!』
8月1日
ブログの方に神恋の短編小説をのっけました。
暇だったら行ってみてください。
http://sizinnoyakata.jugem.jp/
しつこいようですが、もっかいのせときます。