第二七話
ここから流血注意です。
苦手な方は回れ右ですよ。
良いですか?
後悔はなしですよ。
「あなた…亜…桔…?」
眼前に居たのは、頭に角が生え、背には翼のある、白馬。
「ペガ…サス…」
見た目はそう。
だが、しかし…
「違う!!ペガサスは神…よ…」
そこまで言って、気がついた。
そうだ…
亜桔達鬼は、神と認められなかった者達だと。
「そうよ。私は審神に、人形ではないがために神と見なされなかった!!今でこそ
人形をとれるようになりましたが、あのお方だって…あのお方だって、元は審神
に並ぶ程の力をお持ちだわ!!」
鋭い叫びに、沙羅は唖然とした。
最早、誰が悪いのか分からなくなってきた。
「だから、どうしてもあなたの力が必要なの。解る?」
「分からないわ!!」
「黙れ!!」
沙羅は本能的に生命の危機を感じた。
「っ…あ!?」
ついに、痛みに耐えられなくなった沙羅はその場に膝をついた。
今の一撃は、両腕の感覚が一瞬麻痺するぐらいとてつもなかった。
しかし、次の瞬間には激痛に変わっていた。
「く…は…っ…」
自分の体重を支えられなくなり、洞窟の壁によっ掛かった。
大量の血が流れ出るのが分かる。
「これで、あなたはもう季立を出せない。おとなしく私と一緒に来なさい」
「嫌よ…」
執拗に腕を狙ったのはそのためか、と沙羅は一人ごちた。
呼吸が苦しくなる。
目の前も、霞み始める。
「私は…諦め…ない…」
沙羅は途切れ途切れに珠を紡いだ。
「十七の…珠…回…復…」
しかし、傷は全く良くならない。
むしろ痛みが増したようだ。
「しょうがないお嬢さんね…」
白馬の瞳は悲しいほどに、冷たかった。
「本当は、両腕を切り落としてもよかったのだけれど…そうしたら、季立が使え
なくなってしまうものね…」
「…っく…」
白馬は再び人形に戻り、怪しげに微笑む。
ゆっくりと沙羅に近づきながら問い掛ける。
「協力していただけますね…?」
「…っ……」
その時
「沙羅っ!!答えるな!!」
ほぼ、叫びに近い声が飛んだ。
「…?」
働かない頭で必死に考える。
なぜ、今彼がここにいるのか。
眼前も霞み、定かではない。
だから、幻かもしれない。
「沙羅っ!!」
「沙羅先輩!!」
続けて二人の人に名を呼ばれた。
「動かないで…」
沙羅の首に刀を向けながら、亜桔は静かに言い放った。
「貴様…沙羅殿を人質に取るつもりか!?」
玄武は怒りを表にした。
「人質…?そんな意味を成さないことを私がすると思うの…?」
口元だけで薄く笑った亜桔は更に続けた。
「この子を人質に取った所で、あなた達四神が死ぬ訳でもないのだし…そうね、
あなた達の動きを止めるくらいだったら使えるけれど」
四神、そしてその主は全員身構えた。
何か来る。
その場の空気が変わった。
亜桔は再び妖化をした。
「なっ!?」
純、和美、沢は驚いて声を上げたが、四神はいたって普通だった。
「本性を表しおったな…」
「まったく、往生際が悪い鬼だ」
玄武と白虎は半ば呆れ声で言う。
「青龍、私と和美様は沙羅さんを助けて手当てするわ。あなたは戦前に加わって」
「分かった」
青龍は龍矛を握ると、玄武の横に並んだ。
「いくぞ」
白虎の掛け声と共に、四神は四方に散った。
「目くらましのつもりか!?」
洞窟中に亜桔のかまいたちが飛び散る。
「玄武っ!!」
しかし、純はそれに怯む事なく攻撃する。
そんな中、朱雀と和美は沙羅に駆け寄った。
「沙羅さん!!」
「先輩、大丈夫ですか?」
和美は心配そうに沙羅の顔を覗き込んだ。
「…ん…なんとか……」
無理矢理に笑って見せるが、出血の量が多すぎて頭がくらくらした。
「待っててください。今すぐに治療します」
朱雀は沙羅の腕に、両手を当てた。
沙羅には一つひっかかる事が頭の中にあった。
どうして始めは自分を人質に取っていたのに、やすやすと手放したのか。
「まさか…」
わーー。
やってしまったよ。
これから本題です。