第二一話
「一体、何があった?」
青龍は落ち着いた沙羅に問い掛けていた。
朱雀は無言で彼の傷を治している。
「分からない…分からないの…私…」
いつの間にか高く昇った太陽が六人をきつく照らしていた。
「まあまあ、そーんなに沙羅ちゃんを責めなくてもいいじゃない?」
深刻な空気をぶち壊すような呑気きわまりない声が弓道場に渡った。
「…お前が何でここにいる」
青龍は明らかに嫌そうな顔で言った。
異常なほど明るいその声の主。それは…
「白虎!!」
朱雀はらしからぬ声を上げた。
また、沙羅はその後の人物の名を呼んだ。
「沢!何でここに?」
「嫌ね、白虎がやっぱり修行しに行こうって言うから」
今日の沢は、男子にしては長い、背中までかかる髪を結わずに流していた。
「それで?何があったか教えてくれるかな?」
白虎は満面の笑みで言った。
「ごめんなさい。本当に分からないんです。私、どうかしちゃったんでしょうか…」
沙羅が不安げに白虎に視線を送ると、彼は右手を沙羅の瞳の前にかざした。
「我の右手には紅い紐。我の左手には黒い咏。神の右目・人の左目。八九の珠・神聖心眼」
白虎の体全身から光が溢れ出す。
かと思えば、それらは一気に沙羅の身体に入り込んだ。
「な…っ…」
さすがに沙羅も驚いたが、体が動かない。
「んー…」
白虎は沙羅の目の前にてをかざしたまま、瞳を伏せる。
「ん…青龍、こりゃあ天后殿に一度見てもらう必要があるな…」
「天后に?」
「ああ。変なモノに見込まれてるかもしれないな…」
「で。何であんなに半強制的に神界に連れて来られなきゃいけないのよ」
沙羅は今、神界の朱雀の部屋にいた。
朱雀は審神に話しをしてくると言って、部屋を出たきり十分ほど帰ってこない。
「良いじゃないですか。ここは、とっても落ち着きますし」
和美は妙に和んでいた。
いや、元々そういうおっとりとした性格なのか。
すると、朱雀が部屋に戻って来た。
「お帰りなさい」
和美はにこやかに言った。
「お二人はまず、着物に着替えて下さい」
そう言って二人は渡された着物を見た。
「あの…これ、着方分からない…」
沙羅が朱雀に言うと、彼女はああ、と言った。
「ごめんなさいね。六合を呼びましたから」
しばらくすると、一人の少女が部屋に入って来た。
「はじめまして、青の姫君。私、十二神将の六合と申します」
六合の背丈は沙羅とあまり変わらず、歳も同い年ぐらいだろうか。
六合は手際よく、沙羅に着物を着せた。
「わ…すごい……」
沙羅の着物は薄い緑色に、薄桃色の花柄。袖には薄い青。
夏用の腰掛けは薄い黄色に、朱色で縁取ってあった。
薄めの色で統一された沙羅の着物は昔、朱雀が着ていた物らしい。
引き換え、和美は背丈が小さめなため、子供用の着物だった。
明らかに和美は嫌そうだった。
「じゃあ、沙羅さんは青龍の部屋に行って下さいね」
朱雀は華やかに笑って見せた。
「はぁ…」
曖昧に頷いて朱雀の部屋を出た。
相変わらず、神界の外には薄く霧がかかっていた。
「夏だっていうのに、ここは肌寒い…」
自分が今着物であることに少し感謝した。
しかし、朱雀の部屋からだいぶ離れた所で気がついた。
「あー…っと…青龍の部屋ってどこだろう…」
審神の屋敷は異常なほど広い。
朱雀に聞いてから行くんだったと、今更後悔する。
すると、一人の青年が近くの部屋から出て来た。
「あっ…あの、青龍の部屋ってどこですか?」
思い切って尋ねると、彼は穏やかに笑った。
「貴女はもしや、青の姫ですか…?」
「はい…」
「そうでしたか。私は大陰と申します。以後お見知りおきを」
「はあ…」
「それでは恐縮ながら、私が青龍殿の部屋にご案内致します」
大陰はそう言って歩き出した。
しばらく廊下を歩くと、離れのようなものがあった。
「あそこです。ここからはお一人で…」
大陰は深々とお辞儀をすると帰っていった。
「なんか、青龍て変わり者なのねぇ…」
と、一人ごちると本堂と離れを繋ぐ渡り廊下を歩いていった。
「あの…青龍…?」
閉じた襖の前でその名を呼ぶが、返事はない。
7月24日
3000人突破!!
いつも、こんな駄目小説を読んで下さっている方々。
本当に有り難うございます!!
これからは、ちょっとラブラブを目指してみます。
次回、ちょっと期待してみて下さい…