第十九話
再び家に帰った沙羅は夕食を断り、部屋にこもった。
「私…どうしたらいいのかな…」
ベッドに倒れ込むと、目をつむる。
暗闇に引き込まれた。
聞こえる…
『何が…?』
声が…
ほら…
何か言ってる…
『沙羅……』
誰?
私の知っている人…?
違う…
『おいで…』
「…っ!?」
沙羅は確実なその声に目を見開いた。
鼓動が早い。
あれは…
鬼だった…?
仮面を被っていた。
暗闇の奥の方に…
限りない恐怖。
尽きる事は無い…
「私…」
胸に手を当ててみるが、自分の闇は見えない。
「明日から夏休みだ…いつも以上に戦いとか多くなるんだろうな…」
深いため息。
不安な心。
沙羅はまだ、自分に打ち勝つ術を知らない。
明るい…
沙羅は眩しさで目を覚ました。
時計に目をやれば、まだ5時。
もう一度寝てもよかったのだが、なんだかそれも躊躇われたので止めた。
家族を起こさないようにそっとベッドから降りると、カーテンを開けた。
眩しい朝日が目に刺さった。
「ぅん……っ」
大きく背伸びをすると、窓の下に目をやる。
「んな!?」
思わず出てしまった自分の声に驚きつつ、再度確認。
「な…」
そこにいたのは紛れも無く、純と和美。
勢いよく窓を開けた。
「どうしたの!?なんかあっ…た…」
大声で叫ぶ沙羅に、純は右手の人差し指を自分の口に当てて見せた。
「あ…」
今は早朝だと気付き、口に手を当てた。
ちょっと待ってて、と二人に言って、沙羅は適当に動きやすいワンピースに着替
えた。
長い髪も、低い位置で一つに束ねる。
「よ…っと」
沙羅は窓に足をかけた。
「ちょっと待て…」
純は目をむいた。
だが、沙羅は平気な顔をして謡った。
「立秋・飛翔空海」
沙羅は驚く二人をよそに、二階の窓から飛び降りた。
立秋はゆっくりと沙羅を地面に降ろす。
「ん。立秋、上出来」
人型に戻った彼女を見て、沙羅は微笑んだ。
「おはよ、純、和美」
二人を振り返り、再びにこりと微笑んだ。
すると、立秋が沙羅の髪を引っ張った。
「ん?」
『馬鹿でしょう、貴方!!こんな些細な事に霊力を使って!!もったいない』
「あら心外。こんな些細な事でも修行よ」
そう言った沙羅に対して、もう、と言いながら立秋は沙羅の中へ戻っていった。
そんなやり取りの中、呆然としていた二人を見て言った。
「こんなに朝早くどうしたの?」
「あ…ああ、夢ん中で早朝から修行したほうが霊力が上がるって玄武が言うから
」
純はしどろもどろに言った。
「ふぅん…じゃあ、沢も誘った方がいいわよね?」
「沢さんは…白虎さんがあまり関わらせたくない、と言っていました」
「そう…」
沙羅は少し残念そうに言った。
「そんじゃ、愛美ん家に行ってみっか」
純の言葉に沙羅は、あれ、と頭を傾げた。
「愛美ちゃんに連絡してあるの?」
「ん?ああ。一応な…」
「ふ…ん…」
「朝早くからごめんね」
「いえ。弓道場にはいつでも行けるので」
愛美と共に弓道場に向かった。
途中、純は自分の胸に手を当てぼそりと呟いた。
「来い、玄武」
すると、純の隣に黒い光が舞った。
「…え」
沙羅は思わず目を見張る。
純の横には玄武が歩いていた。
「純…あんたいつの間に永昌破棄なんて…」
「あぁ。俺、相当玄武を呼び出してっから」
沙羅の隣にいた和美も一言だけ唱えた。
「来て、朱雀」
玄武と同じように、朱い光が和美の隣に降りた。
「和美まで!?ひどい…私だけおいてきぼり…」
「つべこべ言わず早く青龍を呼べ」
純の言葉にむっとしつつも、長い言霊を唱えた。
「東の地に馳せし龍神よ、蒼の色を持つ神よ、四神の主である我に神を使わせよ。出陣・青龍」
「まったく…まだお前は永昌破棄もできないのか」
青龍は馬鹿にしたように言った。
相変わらずの無表情にうんざりしたが、図星なので何も言い返せない。
「それでは修行、頑張ってください」
愛美はそう言って家に帰った。
「何か久しぶりな気がするね、青龍」
自分よりも背の高い青龍を見上げて言った。
「ああ、そうだな…」
「ほれほれ。今日は実戦に入るぞ。説明をよく聞いておくんじゃ」
7月22日
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ちょこっとのぞいてってください。
青龍達います。