第十話
「終わっ…たぁー」
純が大きく伸びた後、隣にいた玄武が純に言った。声ならぬ声で。
『純、沙羅殿を呼んで屋上に行くぞ』
「分かった」
純はいつになく真面目な表情で頷いた。
「沙羅、青龍。屋上行くってよ」
沙羅は椅子から立ち上がり友達にトイレに行くと断って、教室を出た。
「あれ…何だったんだろう…」
屋上への階段を上る際、擦れ違った少女がいた。
「え……?」
その娘はすれ違い様に声を上げた。
「先輩…?」
「んぁ?」
純は振り返った。
「お。和美じゃねぇか」
「和美?」
沙羅は聞き返した。
「ああ。俺、剣道部だろ?その後輩」
彼女の背丈は沙羅より少し小さかった。多分、愛美と同じ位だろう。
そして、髪は短い。
しかし、和美には二人のやり取りさえ聞こえないようだった。
「どうした?」
純が和美に尋ねると、彼女は常人には見えない者を指差した。
「あの…この人達は…?」
「「!?」」
二人は驚いた。
「お前さん…私達が見えとるんかい?」
玄武は階段を一段下り、尋ねた。
「見え…?何…」
明らかに和美は動揺していた。
「どういうこと!?普通の人には見えないんじゃないの?」
沙羅は青龍に向かって聞いた。
「この娘が普通じゃないって事だろう」
青龍は腕組をして言った。
「あの…先輩…」
「お前って幽霊とか見たことあるか?」
「はい?」
「どういう事よ!?」
沙羅は思わず青龍の胸元を掴んだ。
「おい…」
「何で今まで見えてなかった人がいきなり見えるようになるのよ!?」
「とりあえず、手離せ」
青龍の言葉に、沙羅は勢いよく手を離した。
「っわ!ごめ…っ」
「まぁ、その娘連れて愛美サンのお話聞きゃあいいがな」
「愛美っ!?」
連れて来ていないはずの愛美がいつの間にか背後に立っていた。
「俺、頭ん中限界…」
純は頭を押さえて言った。
「行きましょうか、屋上に」
愛美が言うと、和美は尋ねた。
「まっ、まな…私は?」
「勿論、一緒よ」
「―――で?」
沙羅は自分の疑問を口にした。
「どういう事。この和美ちゃんとか言う子、何で青龍達が見えるの?」
「簡単な話しです。沙羅さん、貴女も今日まで霊なんて見た事なかったでしょう
?」
「でも、この子は何も知らないのよね…」
沙羅は戸惑いの眼差しを青龍に向けた。
「和美」
彼は少女に向かって、決定的な言葉を口にした。
それと同時に愛美に目配せしてた。
すると、五芒星のペンダントを和美に渡した。
それを受け取った和美は不安そうな顔をした。
「俺がこれから言う事を復唱しろ」
「…え?」
「分かったな?」
青龍は厳しい目で彼女を睨んだ。
「はい…」
青龍は呼び出しの言霊を唱えた。
『朱の鮮血と謳われし彼の女神よ、我に焔の力を遣わせよ。守陣・朱雀!!』
和美が復唱し終わった途端、熱風が吹いた。
そう思ったら紅に白が混ざった光りと共に、火神・朱雀が現れた。
「あ…わ…」
和美は言葉を完全に失っていた。
「よくも、余計な事をしてくれたわね…青龍」
朱雀は青龍を恨めしげに見た。
「仕方がないだろう。四神が揃わなければならないのだから」
青龍はうんざりしたように言った。
しかし、和美は動けずにいた。
「あ…った…」
そんな彼女に、朱雀は優しく微笑んだ。
「こんにちは、和美様。私に見覚えはないかしら?」
「え?」
和美は目を丸くして考え出した。
しばらくして、和美は大きな声を出した。
「ああっ!!あなた、私が事故に会った時…に…」
すっかり思い出した和美は朱雀に頭を下げた。
「あっ、あの時はありがとうございましたっ!!」
「和美様…ご無事でなによりです」
その様子を見た沙羅は青龍の袖を引っ張った。
「ん?」
「どーゆーこと!?」
「お前…少しは勉強しろ」
青龍は呆れ顔で言った。
「ちょっ…!!あんたねえ!私だって今日四神…とか言う存在を知ったのよ!?それ
なのに、勉強しろはないでしょ!?」
沙羅は青龍に激怒した。彼はただ目を丸くして聞いていた。
「なん…」
「それなの…に…」
青龍の袖を引っ張っていた手の力が抜けた。
その刹那、沙羅の全身から力が抜け、前に倒れた。
「おい…!?」
青龍は咄嗟に沙羅の体を受け止めた。
「ごめ…何か体が怠い…」
「今日は疲れたんじゃけぇ…ゆっくり休むが一番じゃ」
玄武は沙羅に優しく言った。
「ん…」
沙羅は青龍に体を預けたまま、寝息をたてはじめた。
「寝てやがる」
「しょうがねぇだろ」
純は青龍に言った。
「こいつはもともとストレスに弱いんだ。大きなショックとかアクシデントとか
。すぐに体力を使っちまう」
純はすうすうと寝息を立てる沙羅を見て言った。
十二神将の戯れ、読んで下さった方居ますでしょうか?
神人な恋人と関連してますので、良かったらそちらも…