NeoAGR
一流の執事、江戸の悪魔の続きのお話です。
とりあえず、これで完結させます。
「…やっと見つけた。」
スーツ姿の女性が古びた社の前に立っている。
「…ここを探すのに、どれだけ…」
スーツ姿の女性は涙ぐんでいる。
「…ここで、感傷に浸る人間が俺以外にいるとはな…」
男の声が社の近くからするが姿は見えない。
「…っ!!貴方っ…!!」
女性はハッとして辺りを見渡した。
「…俺と貴女の住む世界は、全く逆です。追われる側と追う側…
そこは、しっかり理解していますよね?…お嬢様。」
男の口調が途端に優しくなった。
「…もう、お嬢様なんて呼ぶ人は貴方ぐらいよ…嵩虎さん…」
女性は声の聞こえる方に話しかけた。
「俺の事をそう呼んでるのも貴女だけではすよ。
NeoAGR…
Neo Aiternative Grim Reaperのボス…霧崎嵩虎を…ね。」
嵩虎は、社近くの大木寄りかかって掛かる様に立っていた。
「貴女が…警察が…俺達の周りを嗅ぎ回っているのは…
"警察という組織の為"?
それとも…"親父を殺された名家の娘…湊ひかり…自分自身の為"どっちだ?」
嵩虎は静かにそして、闇に住む人間として質問をした。
「…どちらかと言えば"私自身の為"かしら?"あの日の真実"を私に教えてくれる人は、誰も居なかったわ…貴方を含めて誰一人としてね。
10年前のあの日、お父様が殺されて…貴方や玄斗、家に居た使用人のみんなは、名家の娘じゃなくなった、私の側から消えていった…」
ひかりの目は、強く鋭く
嵩虎を見ていた。
「…真実を知るために…俺と玄斗を追う為に、警察官になってことだな。」
嵩虎は、大木に寄りかかったまま、話を続ける。
「そして、独自に調べを進めていって、この社にたどり着いたって…所か。」
「そうね。警察庁も警視庁もお父様のしたことについては、
"知らない…と言うより、教えたくない"みたいなの…だから教えて?」
ひかりは嵩虎が居るであろう、大木へじりじりと近づいていく。
「…それは、デートのお誘い…だと嬉しいんだけど?」
嵩虎はまだ大木に寄かかっている。
「…警察官である私と、犯罪者である貴方が居れる訳無いでしょ!?」
ひかりの足が止まった。
「お嬢様は素直ですから。こんなにも、
やすい挑発にものってしまう。…あの頃となにも変わってないんですよ。素直で従順だったあの頃と…ね。
従順になるものが湊家なのか、警察って組織なのか。それだけの違いしかありません。」
ダークスーツ姿に皮製の黒い手袋をした、嵩虎がひかりの前にツカツカと近づいてくる。
「…っ!!そんな事は!!」
「じゃあ何故ですか?
逮捕すべき人間が近くに居るのに貴女は手錠に全く手をかけない。…こんな絶好のチャンスはありませんよ?」
嵩虎はひかりの目の前で歩みを止めた。
「警察の犬にもなりきれず、闇に染まろうともしない。
これ以上、俺を失望させないで下さいよ。貴女はもっと
俺を恨んで憎んでいいんですよ。
…10年前の事件の後
この場所で玄斗が"自ら死ぬのを知っていた"のに、止めなかったことを。」
そう言って、嵩虎は至近距離からひかりの腹部めがけて強い蹴りを入れた。
「…うぐっ!!」
ひかりは声にならない声をあげた。
「…大丈夫ですよ。致命傷にはなりませんから。」
うずくまっているひかりに嵩虎は
「すぐには動けないと、思いますが…念のために。」
とスーツの胸ポケットから取り出した、小さなピルケースから薬の様なモノを取り出してひかりに無理やり飲み込まさせた。
「…俺の組織が作ったこの薬は、速効性が高いんですよ。」
ひかりのまぶたが重くなっていき、ひかりの視界はどんどん狭まっていく。
ひかりが、飲み込まされたのが睡眠薬だと気付いた頃には、嵩虎の姿はその場所にはなかった。
時間軸としては、
作中でも言っていますが、
一流の執事の作中の事件から10年後です。
嵩虎さんは、今後他の作品に出るかもしれません。