曼珠沙華の忍び
女忍者(くの一)の話。
曼珠沙華のかんざしを付けた忍び と 狐のお面を被った忍びの話
流血シーンあります。
製作キーワード
【忍者×彼岸花】
「…曼珠沙華の忍びよ、狐面の忍びを排除せよ。」
静まりかえった部屋で男の声がする。
曼珠沙華のかんざしを付けた くの一は襖を隔てて、
主にコクりと頷いた。
「越後屋…アンタも物好きだね。狐面を追えだなんて。」
「お互い様であろう…。安心しろ、しっかりと報酬は用意しておいてやるぞ。」
主とくの一は会話が交わし終わると、
風の音と共に襖に映った影は消え去っていた。
「…さてと。報酬分の働き…しますか。」口元を布で覆った姿になり
くの一は夜の町を音もなく走りはじめた。
世は戦乱の世が静まりし 江戸
光と闇 正義と悪 生と死 が都
江戸には入り乱れていた
狐面の忍び
その標的の事は曼珠沙華のくの一が良く知る人物である
曼珠沙華の忍び 本名を千という。
千は、"里を抜けた"忍びであり、
狐面の忍びは千が里に居た際の師匠である、くの一の異名である。
千が十の頃に里の禁を犯し里を抜けた"抜け忍"となった時より、狐面の忍びは敵となった。
千は忍びとしての才があり尚且つ、
里秘伝の術を記した巻物を盗み外の世界へ持ち出すという、
禁を犯した千を
里の人間は野放しにしてはいない。
幾度となく里からの刺客を退けてゆくうちに、
十五になった今では、暗殺の技術も身につけ秘伝の術をも習得し始めていた。
「さてと…同じ闇に潜む人間。どうやって誘き寄せるか…。」
潜伏場所としている山中の庵の中で策を練っていた。
女相手に色仕掛けは通じない。
男相手であれば、くの一の得手一つでもある色仕掛けが通用するが、
女相手では意味がない。
ましてや同族
相手の潜伏先の人間に仕掛けた所で見破れる。
「あの術を使うには、危険が伴う…けれどやる価値はあるか。」
そう言って、秘伝の術が書かれた巻物を懐から取りだした。
策が出来れば後は実行に移すのみ。
狐面の潜伏先を調べ上げた所、
ある幕府の側近の男へとたどり着いた。
狐面の忍びは、仮の名を桔梗として昼は女中として
夜は側近の用心棒としての生活をしていた。
その事がわかると
忍び装束に身を包み、
千は珍しく白色の曼珠沙華のかんざしを選び狐面の忍びを誘き寄せる為の準備をはじめた。
まず里から盗み出した巻物に記してある秘伝の術を使い
側近の用心棒の中でも末端に位置する者から
心を操り同士討ちさせた。
それを知った側近の男は桔梗へと事態の収束を命じる。
側近の男の周りには、桔梗がこの悪事の首謀者ではないかと
疑う噂がではじめた。
千の主が取り入る事で側近の男も噂をすんなりと受け入れた。
「…これだから、越後屋の仕事は刺激的だからいい。」と、主と側近の男の会話を隠れて聞いていた千…いや
曼珠沙華の忍びはほくそ笑んだ。
後は桔梗の主を拘束 監禁しておけば他の使い物にはならない用心棒を差し置いて、
狐面の忍びとして現れる。
秋の夜長
薬で意識を失った手足を縛られている
側近の男を廃寺に運び込んで準備は整った。
「…"狐を誘き寄せる餌"になってもらいますよ?
"狐の飼い主"さん??」
そう言ってクナイを構え側近の男に迫ろうとした瞬間
廃寺の戸がギギィと開いて月明かりが廃寺に差し込んで来た。
「私の周りを嗅ぎ廻っていたのは、主の命令??
それとも…"貴女自身の感情"かしら??」
そこに立っていたのは、狐面の忍びだった。
「…さぁ。どちらかは、わかるんじゃないですか??
狐さん…貴女ならばね。」
男に構えていたクナイを狐面に向けた。
「…相も変わらず口が達者なのね??」そう言って狐面もクナイを構えた。
「…そんなに、焦らないで下さいよ。"師匠"ッ!!」
二人が同時に間合いを詰め戦闘が始まった
キンッキンッ!というクナイがぶつかり合う金属音で、側近の男の意識は戻っていた。
「桔梗っ!!この状況を説明しろ!!」
じたばたと男は暴れ始めた。
「…煩いなぁ。邪魔しないで頂きますか?"狐のご主人様"??」という言葉と同時に暴れる男の頬をクナイがかすめ、壁に突き刺さった。
「大丈夫ですか??ご主人様!!」と狐面がクナイを曼珠沙華へ向けながらも
男へと駆け寄ろうとする。
「…一流の忍びである貴女が、
ご主人様へここまでご執心とは…可笑しいですね。」
と言い終わるとパーンと乾いた音と共に、男が倒れ込んだ。
倒れた男に息の根が無い事は明らかだった。
「…流石極秘に入手した最新型ですね。命中率が違う。」と鉄砲を眺め始めた。
「鉄砲の音が大き過ぎた様ね…。大勢の気配がするもの。…貴女これで、終わりよ??」そう言って、狐面はたち去ろうとしたが…
「…さて。何のことやら??忘れて居ませんか??この巻物の事??」
それは、千が里から盗み出した秘伝の術が書かれた巻物だった。
「…この中にはねぇ…狐さん。人の心を操ったり、幻術を見せる術が書いてあるんですよ。」
「…っ!!これも全て幻術だって言うの??」
「残念。貴女には、幻術は掛けていません。
のご主人様が死んでいるのは…事実です。」
「…貴女には効きそうになかったから。…でもね。」
そう言って、千は曼珠沙華のかんざしを
狐面の忍び装束の襟に挿した。
「ご主人様を討ったのは、その狐面か!!成敗してやる!!」
と刀を持った男の用心棒達が廃寺に流れ込んでくる
「…貴女って女はッッ!!」
状況を理解したのか狐面は小刀を駆使して用心棒達に応戦していく。
「…この男達には通じるみたいなの。だからこの男達は…私の忠実なる家臣って訳。
…それでは、さようなら。"狐面の忍び"」
そう言って、曼珠沙華の忍びは用心棒達の間を縫って廃寺を後にしていった。
その後
廃寺には、
変わり果てた姿の狐面の忍びの姿があり、
胸元の曼珠沙華は血で赤く染まっていた。
ちなみに…
曼珠沙華とは、彼岸花のことですね。
白の曼珠沙華(彼岸花)の花言葉は「想うはあなた一人」「また会う日を楽しみに」というものがあるそうです。
赤の曼珠沙華(彼岸花)の花言葉は「情熱」「再開」「悲しい思い出」だそうです。
私は彼岸花が何故か好きなのでこんな話を書いてみました。