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theme/assort  作者: 星崎 唯
3/4

攻略対象外の先生に懐こうと思います。+チョコレート

お題【A】攻略対象外の先生に懐こうと思います+

  【B】チョコレート(バレンタイン以外)

あらすじキーワード:現代/学園/先生と女生徒/乙女ゲーム/


前半→初対面~本編の間ぐらいのお話です。仲良くなる前なので里衣が若干トゲトゲしてます。

後半→前半よりあと。本編中~完結前ぐらいのお話。*で区切ってます。


「攻略対象外の先生に懐こうと思います。」本編はhttp://ncode.syosetu.com/n1277cs/

 きゃっきゃ、うふふ。お菓子を手にした女子生徒は楽しそうだ。

開けたままの教室のドアの向こう、廊下側から女子生徒数人の話し声が聞こえた。

「先生これあげる」

 女生徒の声。それに対する男性の声。

「ごめんな。生徒から物は貰わないんだ」

 真面目だな。

 なにを渡されたのか分からないけど想像はつく。先程、女生徒達が教室の前を通り過ぎるとき

お菓子を持っていた。キャンディーか、チョコレートか、はっきりと見えた訳ではないけれど、よく見かける学生が買いやすいお菓子だった。

 軽く想像してチョコレートが食べたくなった。


それそうと、この問題を解かないと。

 集中しようと姿勢を正したとき、教室に向かってくる足音が聞こえた。



 ガラッ。

少しだけ開いたままだった教室のドアが、片方で重なるように開かれる。

明るい髪色が顔を覗かせた。ばちりと、目が合ってしまった。

羽ケ崎先生だ。


 髪色が相変わらず明るい。地毛だと言っていたけど、私は若干疑ってる。

真面目は取り消す。多分、体のいい断り文句だったのだろう。


 私は先生に、なにか言われるのだろうか。偶然視線が合ったにしては間が空いた。

「帰らないのか?」

羽ケ崎先生の問い。それに対する小森 里衣の答え。


「帰らないですね。帰れないとも言いますけど」

「帰れない?」

 おぉ、食いついた。さらりと流されると思ったのに面倒なことにも首を突っ込むんですね。

じゃあ、先生だし聞いてみよう。


「先生、この問題の解き方、知ってますか」

 ぺらりと、プリントを見せて問題の箇所を指差した。

数学教師が出した宿題プリント。

最後の遊びのような問題を理解できない。問題が分かりにくい。

 一問空白にして帰ることはできる。

けれど、最後まで解かないとなんとなく負けたような気分になる。

いい印象を抱いてない教師の宿題だから尚更。


「あぁ、これか」

 簡単に応答がきた。


「知ってるんですか?」

「前になにかで見たことがある」

 私が先生の言葉をじっと聞きながら

首を傾げていると、先生が思わずといった風に、くすりと笑った。


 問題はこうだ。

食べても減らないチョコは可能なのか証明せよ。

下に図形も載っている。一ダースのチョコレート図形Aと、一ダースに一粒が足された図形B

が並んで描かれている。


 食べても減らないチョコ。初めて見たときは思わず二度見した。

なんて夢のようだろう。と心が躍るけど実際は違う。問題の結論だけは知っていた。


「描いてみるか」

 先生が黒板に白い線を引く。線、線、四角。ふたつの長方形が横に並んで描かれた。

一呼吸おくと、チョークを握り直して私を見る。

「小森、問題だ。どこが違うと思う?」

 先生は楽しそうに微笑んだ。


「……どこって、全然違いますよ」

 言いながら机から立ち上がり先生の隣に立つ。

適当にピンクのチョークを手に取り、黒板に書かれた長方形ふたつの間を点線で結ぶ。

「面積が違います」

「そうだな」

 私の答えに満足したように頷く。私が答えているのに、どうしてそういう顔をできるのだろう。

まるで自分が正解したかのような嬉しそうな顔だ。

表情に感化されたのか私も少し楽しくなってきた。


「先生、実演しましょうか」

 制服のポケットから顔を覗かせていた板チョコを取り出して、笑った。


 黒板が見えるように、適当に一番前の席を教壇に引っ付けて座る。

机の上にチョコレートと、ペン、定規、ハサミ、問題のプリントを置く。

図工でも始まりそうで、なんだか可笑しくなった。

チョコレートの商品名が書かれている包み紙を取り外し

銀紙を破こうとして、ふと手が止まる。

 包み紙の裏が真っ白として綺麗だった。


 銀紙に包まれたチョコレートを机の隅に置いて、白い包み紙を手に取る。

ペンと定規を使ってチョコレートと同じ形の長方形を描く。

ハサミで長方形を切り取る。

そして、プリントを見ながらa点とb点にペンでしるしを付けて定規で結ぶ。

他の線も引いて、繋がった線をまたハサミで切る。

 バラバラになったチョコレートに見立てたピースを、最初に切り取られた後の

空洞に並べていく。同じ面積ならパズルの様にぴったりとはまる筈だ。

増えたのならその分がはみ出る。

 しかし、僅かに余白があった。増えたように見えたそれは形を変えた余白部分だった。

 解答終了。チョコレートは増えることも減ることもしない。



「そうだ、先生。教えて頂いたお礼にチョコレートどうですか?」

「小森」


 断られる空気を感じたので、告げられる言葉を先に口にした。

「分かってますよ。生徒からものは貰わないんですよね」

「……いや」

 明らかに止めようとしている声色だったのに、

先生の口からは予想していなかった言葉が出た。

「食べたかったんだろ?」


「どうして、そう思ったんですか」

「実演すると言ったのにチョコレートを割らなかっただろ」

 否定するところがない。気付けば笑い声が出ていた。

「好きですよ。好き」

「そうか」

「……先生、教師向いてますね」

「それは、有難う」


 皮肉のつもりで言ったのだけど、お礼を言われてしまったので笑顔を返した。

「羽ケ崎先生が数学の担当だったら楽しめたのかもしれませんね」

 返事はない。この言葉への返事はいらない。

 机の上の物を片付け、鞄を持つ。教室のドアまで歩くと振り返った。


「有難うございました。さようなら、羽ケ崎先生」





「あ、お帰りなさい。羽ケ崎先生」

 歴史準備室で待ちながらコーヒーを淹れていると、用事を済ませた先生が戻ってきた。

「……ただいま」

 私の顔を見てなにか言いたそうに眉を寄せる。

「小森……」

「なんですか、羽ケ崎先生」

 聞きながら板チョコをひと欠片、口の中に入れた。

「一応聞くが……、俺以外の人が入ってきたらどうするつもりだったんだ?」


 彼の言葉で机の上に私が置いたチョコレートを見つめる。

私が持ってきた。先生を待っている間イスに座り食べ始めたので置いてある。

「チョコを隠してイスから立ちます」

「それで?」

「わぁ。羽ケ崎先生に用事ですか?私も聞きたいことがあって来たところなんですけど、

いないですねーって、言います。あとはその時の状況でここで待つか、帰るか決めます」


 私が言い終えると、先生は言いたそうの顔のまま瞼を重くした。

「上手に振舞えるようになったな」

 褒めているのに棒読みですよ。

 

「大丈夫ですよ。先生の足音覚えましたから」

 違う人が来たら直ぐに対処するので先生には迷惑かけないですよ。

用もないのに来るなとでも言われるのだろうか。用事がないか聞きにきた用ならあるのですが

……。

 あれ、先生の表情が変わった。不思議そうに私を見ている。


「なんですか?」

「好きだな、と思って」


 私というか、チョコレートを見てたのか。

「好きですよ。羽ケ崎先生も食べます?」

 食べないんだろうな、と思いながらも欠片を差し出す。

 目の前の映像がスローモーションで流れる。私の指先から先生の掌にチョコレートが落ちる。

チョコレートは羽ケ崎先生の口の中へと消えていった。


「先生、生徒から物は貰わないんですよね?」

「あぁ。言ったな」

「これ……」

「落ちてきたから食べた」

 そんな理由つけなくても食べてくださいよ。


「先生って面倒な生き物なんですね」

「小森」

「だって他にどう言ったらいいんですか」

「他にあるだろ。色々」


 大袈裟に考える動作をして真面目に少し考えてみる。

「理由がどうであれ、私からの物を貰ってくれたので――、もしかして先生に好かれてますか?」

 窺うように見れば、満面の笑みで頭をぐりぐり撫でられた。

「先生、答えは?」

「まぁ、正解にしておこうか」

「ということは、正解じゃないんですね」

「直ぐに答えを出さなくてもいいだろう。ほら、コーヒーでも飲んで落ち着け」

 どこか楽しそうな笑顔を見ると――羽ケ崎先生、私コーヒー苦手なんですが。とは言えなくなってしまった。

お話に出てくる問題は、食べても減らないチョコで調べたら出てくる有名な問題です。

リクエスト有難うございました!


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