羊を数えて
夜中に体が重くなり唸された。
そしてべちべちと俺の頬を叩く何か。
重い瞼を開かせながら俺はその何かを掴んだ。
「むっ」
聞き飽きたその声は妹のもので、俺の妹はこの深夜に俺の部屋で俺に馬乗りになり、俺の頬を叩き続けていた。
俺の意識が覚醒するまでの数秒、妹は不機嫌そうな顔をして一言「眠れないんだけど」と言った。
知らねぇよ。
俺は眠い、お前に起こされたせいで。
寝返りを打ち妹を振り落とすと、頭から行ったらしく唸っている。
無視だ無視。
「………お兄ちゃんに犯されそうになったって言ってやる」
立ち上がり部屋を出ていこうとする気配を感じ取り、俺は直様起き上がり要件は何だと問う。
妹は満足そうに振り返り俺の机から椅子を引き座った。
「寝れないのよ」
偉そうに無い胸を張ってそう言う妹。
だからなんだよ、俺にどうしろと。
俺が聞いても何とかしろと言ってきて拉致があかない。
俺様なの?嬢王様なの?この子。
何か方法を考えろと言い出す妹。
面倒くさい。
俺は少し待ってろと言いホットミルクを入れてきてやる。
するとコイツはあろうことか眉を寄せて「子供扱いしてんの?」と睨んでくる。
人がせっかく…。
何のかんの言ってるくせにホットミルクは全部飲みやがるし。
「それ飲んだら部屋戻って寝ろよ」
俺がそう言って布団に潜り込むと妹は俺の服を掴む。
そして寝るまで付き合えと言い出す始末。
お前が寝るまで待ってたら俺が寝れないだろうが。
どこまで自分勝手なんだ…。
俺の布団に潜り込み始める妹。
え、俺はどこで寝ればいいの。
毛布を一枚床に投げられたところを見ると、俺は床で寝るのか俺の部屋なのに。
「…………寝れないんだけど」
少しは寝る努力をしてからそういうことを言って欲しい。
「羊でも数えてろ」
カーペットの上で毛布にくるまる俺。
不服そうな声音で聞こえてくる羊を数える声。
「羊が一匹、羊が二匹」
延々と聞こえる羊を数える声。
………百まで言ったけど、行ったけど。
俺も眠くなってきた。
それでも鼓膜を震わすのはお経のように羊を数える声。
何かイライラしてきてないだろうか。
三百まで数え終えると時間的にどれくらい経っただろうか。
いきなり起き上がり枕を俺の顔面にぶつけてくる。
「いってぇ?!」
鼻を押さえて妹を見れば「寝れないし」と威圧的な態度。
そもそも百まで数えて寝れなかったら諦めるよな。
ベッドの上で布団をかぶり直しながら「大体、羊を数えて寝れるなんて迷信だから」とのこと。
なら数えんなよ。
睡眠のsleepと羊のsheepを掛けて、羊を数えると寝られるなんて話が出来上がったのだと妹は語る。
ならなんで数えたんだよ、お前。
取り敢えずこれから話しかけるなと言った妹は俺に背を向ける。
いや、もう本当に自分勝手だ。
お兄さん泣きそう。
俺は目を閉じて心の中で羊を数えてみた。
さっさと寝ないと明日が辛い。
…こうして夜は更けていくのであった。