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次の異世界 7


 さて、そんな過保護能力がアップしたゼノファーは、あまり酒を好む人ではないらしい。

 煙草も体に悪いから吸わない。ギャンブルも好きじゃないし、仕事に忙殺される日も珍しくない。

 そんな男が独身で、つまり出費が明らかに少ないとなるとどうなるか。




「……バラ風呂かぁ……」

「いらない。いらないからね」


 私の為の出費が半端なくなる。



 本人がいらないと言っているのに、化粧品やレターセットなども買っていくのはどうなのだろうか。確かに化粧品は女性に必須だし、レターセットも携帯のメールがないこの世界では必要なのかもしれない。

 だが、私は聖剣で体の時間は止まっているし、手紙を書く相手もいないのだが。そこんところどうなのだろう。



 最後には日用品(家具は既に置いてあるから除外)が二人で持ち帰れない位に膨らみ、私が龍化して運ぶのは危ないというよく分からない理由で業者に頼む事となった。



 お昼を適当に食べて、買い物も満足にいってご満悦なゼノファーが、



「今度は服だね!」

「ええ~」

 まだ買うの~? という意味で抗議するが、聞く耳を持たないゼノファーさん。

 嫌がる私をなだめつつ、だがしっかりと足は進む。二人の手はしっかりと握られていて、到底離れて迷子になることは無さそうだ。




「『キャラメリア』っていう、女性の衣服をオーダーメイドする店があるんだ」

「なんか美味しそうな名前だね」

 きっと、可愛らしい女の子たちがたくさんいて、店内も可愛らしいものばかりなのだろう。



 とは、誰が思ったのか。






「……らっしゃい」

 ゴツくて渋い男の人が出てきて、私のキャパシティーは一瞬にして満杯になった。



 …………可愛らしい白とピンクの店に、鍛冶屋で甲冑作りそうなおっさんがいる。




 初老に入るだろう位の年齢のその人は、じっと私たちを見下ろした。



「その嬢ちゃんか」

「はい。可愛らしいものをお願いします」

 いやいやいやいや。

 無理っしょ。この人がオーダーメイドするの? 間違いなく厳つい甲冑が出来上がるよ!! 白銀の物々しい甲冑が!!



 混乱する私をよそに、その初老のおっさんは店のカウンターに向かって声を張り上げた。




「ラン!! 仕事だっ!!」

 ああ、なんだ違う人が作ってくれるのか。

 ああ良かったぁ~と人知らず胸を撫で下ろしていると、『は~い』という声可愛らしい声と共に少女が躍り出る。



 黒髪のおさげ。黒い瞳。低い身長に丸いメガネをかけた……。



「に、日本人……?」

 どう見ても日本人の少女がそこに立っていた。







 おさげの少女は少し目を見張って、でもこちらよりは驚いていないようだった。



「珍しいわね日本人の異界人なんて!! この子でいいの?」

「ああ。ちゃっちゃとやるぞ」

「ち、ちょっと待って!!」

 可愛らしいお店に厳ついおっさんがいた事でキャパシティーが満杯になったと思ったが、彼女を見て更にぎゅうぎゅう詰めになる。



「なんで、あなた、日本人なのになんで……?」

 確か、登録の時の男が言っていた。『人間を使い魔として召喚出来ない』と。

 私は例外として、だったら何故ここに日本人が……? と混乱する私に、少女はあっけらかんとした顔をする。



「ぇ、あなたも異界人なんでしょ?」

「異界……、なにそれ」

「他の世界からこの世界に迷い込んだ人の事よ」

「……」

 説明を、という意味を込めてゼノファーを見上げる。視線に気づいたゼノファーが、まるで幼子に言い聞かせるように囁いた。



「あのね? この世界は他の異世界と繋がりやすいらしくて、時々別の世界から迷い込む人がいるんだよ。まぁ、言語も何故か喋れるようになってしまうから、異界人だからという差別は無いんだけど」

「……ちょっと待って。ちょっと待ってよ?」

 つまり、彼女はこの世界に迷い込んだだけで、私のように召喚されたわけじゃない、ということか。



「じゃあ、帰る方法とかないの?」

「残念ながら、どうやら一方通行みたいで。その方法は無い」

「でも、話も伝わるし、私は困ってないわよ。仕事も楽しいし、みんな優しいし」

 快活に彼女は笑う。偉いなぁ、としみじみと思ってしまう自分がいた。



「他にも、異界人は……? あ、使い魔も召喚出来るの?」

「いるわよ。私はここに来て2年経つけど、一人フランス人の人に会ったわ。

異界人は使い魔は召喚出来ないわよ」

「そう、なんだ……」

「さ、それより早く寸法測るわよ!! 私は高木 蘭。このおじさんはワイルさん。よろしくね」

 見た目にそぐわず活発な少女は、グイグイと私をカーテンで区切られた脱衣所らしき場所に押し込む。




「さ、さっさと脱いでね」

「お、おおう……」

 絶賛混乱中の私は蘭にされるがままだ。素早い動きで彼女は私の衣服を剥がしていく。



「う~ん、正に幼女体型ね。歳は?」

「じゅ、19……」

「わぁ~合法ロリ!! 仕事は?」

「使い魔……。この首輪が証拠だけど……」

「ええ!? じゃ、もしかして一緒にいた人がご主人様!?」

「(コクコク)」

「うわ、うわぁ!! ワイルさん聞いた!? どうします、ここはブルマですかね!?」

 ブ、ブルマ!? ようやっとさっきの話を理解し、頭のキャパシティーが増えた所にまた情報が押し込まれる。

 何故そんなマイナーな衣服を。と反論する前に、『バカ野郎!!』というワイルさんの怒声がカーテン越しに聞こえてきた。



「ここは主人の兄ちゃんに希望を聞くに決まってんだろ」

 おお、ワイルさんは常識人のようだ。そうだよ。なんでブルマ。もっと普通のワイシャツとかズボンとかだよね。

 すると、またカーテン越しに厳ついワイルさんの声が聞こえる。




「俺はネコミミメイドに一票だ」

「ワイルさぁん!!!」

 悲しいかな。厳ついおっさんは2年という歳月の間にすっかり日本文化に染まってしまったらしい。

 流石日本文化。人を選ばない。




「ああその手があったか!! 流石ワイルさん!!」

「スカートは長いのじゃなく、短いのだぞ。ガーターベルトも付けろ」

「白? 黒?」

「黒だ!! レースふんだんにな」

「アイマム!!」



わ、ワイルさぁん!!!

 残念! 残念過ぎるよワイルさん!! 白か黒かと聞かれて黒と即答する辺り残念過ぎるよワイルさん!!


 これほど泣きたくなったのは何時ぶりか。

 てか主人の意見を聞けとか言っていた癖に全然ゼノファーの意見を聞いていないじゃないかワイルさん。

 くううと涙を堪える私に、恐る恐るといったゼノファーの声が聞こえてきた。




「あの、使い魔と言っても軍に使えているんで、一着この国の軍服をお願いします」

「ロリに軍服着せるとか!! ロリに軍服着せるとかっ!!!」

「落ち着けラン!! タイトなミニスカとネクタイだ!!」

「アイアイサー!!」

「もう止めてぇワイルさぁん!!!」




 腐ったミカンを腐っていないミカンの箱に入れると、腐っていないミカンの腐敗が早まるらしい。

 そんな腐ったミカンの方程式が何故かパッと頭に浮かんだ。




 まぁ、本人たちが楽しいなら何も言うまい。




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