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次の異世界 5

 ツェザール帝国憲法第5条:使い魔が主人の命令により、また自身の生命を脅かされているわけでも無く、無闇に他人を傷つけた場合、これを罰金または懲役を課する。





「知らねぇよっ!!!」

 私は思わず牢屋で叫んでいた。だって、まだ初日だよ? そんな異世界の事柄も知らない私が、そんな法律知っている筈が無かった。だからこれは不可抗力なのであってだから誰かこの牢屋から出して下さい!!



 散々だ。魔王に勝ったらまた異世界に飛ばされ、殴っただけで牢屋行き。大体私は人という定義じゃないの? 人型だけど駄目なの?

 くっそ~、と人っ子1人いない中、1人寂しく牢屋の端っこに座り込んだ。 四角く切られた灰色の石が四方八方を囲み、頼りない蝋燭の明かりが鉄格子と私を照らす。ほの暗い、ともすれば骸骨となった死体が出てきそうな、そんな不気味な雰囲気のする牢屋だ。





 そして何時間か経った後、微かに物音がした。キィ、という扉が開く音だ。釈放? 釈放か? と出口の方を見つめると、暗闇の中から1人の男性が現れた。

 金髪碧眼の、



「ご主人様!!」

「……えと、その呼び方止めてくれたら嬉しいんだけど……」

 主人に忠誠を誓う飼い犬よろしく鉄格子に張り付いて声を上げたら、我がご主人様ゼノファーは苦笑いを浮かべた。

 そのまま近づいて、鉄格子の間から私に手を伸ばし、私の頬を手の甲で撫でる。



「まだ登録もしてないし、殴っただけだから罰金だけで済んだよ。昼休みだから、迎えに来た」

「ぅ……、ごめん」

 罰金……、という事はお金を払ったんだろう。一体幾ら? と聞きたいが、私は無一文だしこっちの物価すら知らない。ここは出世払いと言うことで……と申し訳なく思っていたら、ゼノファーはクスリと笑った。




「使い魔の面倒をみるのは当たり前だから、そんな顔しなくていいよ」

「……うん」

「じゃあ、牢屋から出よう」

 彼が持っていた鍵によって、私は解放された。シャバの空気はいいなやっぱり……。

 ソロソロと牢屋から出た私の手を握って、ゼノファーは進む。




「じゃあ、登録しに行こうか。隊長に警備はいいから先に登録しろって言われたんだ。ギャラリーは……、多分、多いけど、何か言われても絶対手を出しちゃいけないよ?」

「……ゼノファーは、悔しくないの?」

「……悔しい、けど。馴れたって言った方がいいの、かな」

 自嘲気味に笑いながら、ゼノファーは呟く。



「俺は、ずっと使い魔が召喚出来なかった。この軍隊に入れたのも、俺の治癒魔法のおかげだし……」

「治癒魔法……?」

「うん、治癒魔法は誰にでも使えるものじゃなくて、だからこの軍隊に選ばれた。だけど、元々治癒魔法は女性に宿る事がほとんどで、治癒魔法を使える女性はみんな第二騎士団に所属されるんだ」

「じゃなんでゼノファーは第三騎士団なの?」

「……第二騎士団は、男性は入れないんだ……」

「………」

 なるほど。治癒魔法が使えるけど、第二騎士団は男性は入れないから第三騎士団に入隊したのか。



「戦争はずっと起きてないから、この力を使う機会もほとんど無いし、普通5歳の子供でも出来る事が俺には出来ない……」

「出来なかった、でしょ?」

 ジトッとした目で見上げると、私のご主人様はキョトンとした顔をした。




「今は、私がいるでしょ。任せなさい、絶対周りからの虐めを無くしてやる」

「で、でも、使い魔のレベルは主人のレベルに比例するから……」

「大丈夫っ!! こう見えても、ちゃんと強いから!!」


 ふん、と自信満々に言ってのけると、ゼノファーはクスリと笑った。



「(俺としては、初めて召喚した君には怪我して欲しくないんだけどな……)」










「橘 芹花。芹花が名前です。性別女、歳は19」

「えぇ、19!?」

 隣でゼノファーが素っ頓狂な声を上げた。



「なに、19じゃ不満?」

「い、いや、てっきり15かそこらだと……」

「まぁ、それは色々事情があって……「こら、私語は慎め」」

と、目の前に立つ男性が諫めた。その手にはカルテのように纏められた紙があり、サラサラと私の情報が書き込まれていく。




 登録、と言われてどんなものかと思ったのだが、だだっ広い屋外だった。訓練所だろうそこではギャラリーもたくさんいる。中には誹謗中傷の声も聞こえてきたが、私はまた逮捕されない為にも無視をした。



「種族はゴブリンですね?」

「……に・ん・げ・んです!! てか見た目で分かるでしょ!?」

 みんなして人をゴブリンゴブリンいいやがって!! と半泣きの私を前に、審査員は首を傾げる。



「それはあり得ません。使い魔は『人間以外の獣または精霊』と決まっています。よって、あなたの種族が人というのはおかしいのです」

「………」

 ただ説明されただけなのに貶されたように感じるのは何故だろうか。



 だが、残念ながら心当たりが私にはあった。




「じゃあ、種族は龍かも」

「……龍?」

「うん。私、前の世界で契約した時、龍になれるようになったから」

「「……??」」

 訝しる二人に、まず『ティアディーラ』を目の前に顕現してみせる。



「私、前の世界でこの剣と契約を交わしたの。その契約の効果で私は龍化が出来るんだけど……」

 もしかしたら、これが原因で私は使い魔となってしまったのかも知れない。




「……、もしかして、異世界の使い魔、ですか?」

「うん。そうだけど、なに?なんかヤバかった?」

「この世界の龍は知性が無く気性が荒すぎて使い魔になんてなれないんだ」

 なんと……、異世界と言ったらドラゴンだろう。

 前の世界でもドラゴンはたくさんいた。主に魔王の配下にだけど、私の剣は知性もあって力もあった龍から作られた、『時空を越えられる』龍剣だ。




「……珍しい事例ですね……。じゃあ、試しに龍になってみて下さい」

「はい」

 んっ、と私は体に力を入れた。




 芹花がギュッと力を入れた瞬間、ボフンという音と共に辺りが白い煙に包まれた。

 視野が効かない中数秒経って…。いきなりの風圧によりゼノファーの視界は晴れる。

 すぐ近くにいた使い魔の代わりにいたのは、四つ足のがたいの良い大型の龍だった。



 全長は10~15m位だろうか。水色がかった水晶のようなその体は太陽の光でキラキラと輝き、コウモリのような翼が数回羽ばたけば、辺りの煙は霧散してしまった。神々しいまでに輝く体を動かして、龍はこちらを向く。こちらを見つめるその瞳はルビーのような深紅だ。



『どう? びっくりした?』

「……本当に、セリカ……?」

『そうだよ?』

 少しくぐもったような彼女の声が響く。自信満々に胸を張って『どうだ~!!』という声が可愛らしくて、外見とのギャップに困る。

 審査員の男が数度まばたきして、登録書に何かを書き込んだ。




「……えと、能力は、これだけでいいですか?」

『龍人化と、あと天子ってのがあるんだけど、リスクが大きいからやりたくないです』

「……それはどんなものですか?」

『龍人化は、人と龍を合成した感じで、天子は……、なんていうか、捨て身の技。もう戻ってもいい?』

「……はい。いいですよ。これで登録は終了です」

『は~いっ』

 また、ボフンという音と共に、今度は少量の煙が広がる。それはすぐに晴れて中から人型となった芹花が現れた。




「ふふ~ん、どうだった?」

「……綺麗だった」

「でしょ。前の世界の、一番美しい龍の宝玉から作られた剣だからね」

 私もあの龍の姿は好きだ。水色がかった、本当に宝石で作られたかのような荘厳な姿。それを褒められればいい気がしない訳が無い。



「じゃあ、後は首輪ですね」

 書類を書き終えた審査員が呟いた。




「……首輪?」 

「君は一度問題を起こしたんでしょう? そういう危ない使い魔には、暴れ出した時主人が命令すればすぐ本人の意志関係なしに動きを封じられるように首輪をつけるんです」

 おののく私を放っておいて、スラスラと審査員話を続けた。

 ごそごそと出されたのは……、皮で出来た、少し細い赤い首輪。



「えぇ!? やだ首輪なんて!!」

「これは問題を起こした使い魔には必ずつけるものです。この首輪を付けると、魔力と共に主人が命令すれば動きを止められる優れものなんですよ。姿を帰ると見えなくなりますが、しっかりと効力は続きますからね」

 淡々と説明され、その首輪はご主人様であるゼノファーに渡される。



「ぜ、ゼノファー……」

「ごめんね…。これも規則なんだ。君は一回暴力行為を起こしちゃったし……」

 苦笑いをしながら、まるで注射を嫌う子供を諭すように話しかけられた。……ぐぅ。暴力行為は身に覚えがある。しかも罰金を払ったのは自分では無くゼノファーだ。

 いいだろう、私も19年生きた身。チョーカーだと思えばいいと諦めるしか道は無さそうだ。



「分かった。首輪、付けて」

 そう言って芹花はゼノファーの方を向き、首輪を付けやすいように顎を上に向け瞳を閉じた。

 はたから見れば、それはゼノファーからのキスを待っているかのようにも見える。

 そんな姿と、見た目がただの少女と変わらないこの芹花に首輪を付ける……、という、背徳的で下手したら周りからそういうプレイだと見られそうな状況に、ゼノファーは思わず後ろに一歩下がった。




(ダメダメ!! この子は俺の使い魔なんだから、しっかり俺が面倒見てあげないと。その為にこれをつけなくちゃいけないんだ!!)

 グッと息を呑みつつ、赤い、魔力によって作動する首輪を芹花に付けた。外れない、かつ苦しくないように調節して自分の魔力に反応するように設定する。



「はい、付けたよ」

「………」

 芹花は首に付いているそれを軽く引っ張った。




「今思ったんだけどさ、少女に首輪って非道徳的だよね」

「それは言わないでっ!!」

 何気ないその一言はグサリとゼノファーに突き刺さったのだった。




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