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次の異世界 4



 ゼノファーだ。

 うん、金髪で、垂れ気味の青い瞳、間違いない。確か、彼は授与式に出ている筈で、あれ、なんで私の前に転がってるの。

 混乱ここに極まって、ぴしりと固まりながらも、だが芹花はしっかりとその場の状況を把握しようとした。

 殴られたのか、ゼノファーの口元にうっすらと血が滲んでいる。それだけは見えた。



「ゼノ…「さっさと本当の事吐けよ。嘘つきゼノファー」」

 悪意の言葉がすぐ近くから聞こえて、芹花は開ききったドアの向こう側に目を向けた。

 そこはレッドカーペットが引かれた謁見室らしく、真っ白な大理石の壁と、王の玉座の後ろや横、更に玉座に続く階段の両脇にも飾られた深紅と金色の旗のコントラストが美しい部屋。


 もう授与式は終わったのか、その玉座に王の姿は無い。代わりに、3人の男と1人の女がこちらを睥睨していた。いや、正しくは、ゼノファーを睥睨していた。



 先ほどゼノファーを悪く言った、赤毛の男は真新しい長靴ちょうかを鳴らしつつゼノファーにゆっくりと近づく。



「ちょっと、あなたがゼノファーを殴ったの?」

「っ…、セリカ、駄目だ」

 今朝のように、ゼノファーを庇う為に芹花は赤髪の男の前に立った。後ろから聞こえる、切羽詰まった主人の命令にも背いて。

 一瞬、赤髪の男はきょとんとした顔をするが、次の瞬間にはそれは下卑た笑みへと変わる。




「ああ、誰かと思えばゼノファーが召喚したゴブリンじゃないですか」


 ブチッ




「全く、こんなひ弱そうなゴブリンが試合に勝った? 笑わせる。まだ乳離れもしていなさそうな幼子じゃないか」


 ブチンッ




「何か卑怯な手でも使ったのだろ? 全く、力が無いからって正々堂々と勝負しないのはいけないよなゼノファー? 一体どんな手を使ったんだ? まさかこのゴブリンでお色気作戦じゃあるまいな? はっはっは、こりゃ傑作だぜっ!!」



 ブッチンプリーンッ(怒)




 わなわなと体が震えるのが分かる。ゴブリン? 乳離れしてない子供? 卑怯な手? お色気作戦?



「HAHAHA☆ こいつぁ笑えるジョークだぜぶち殺すっ!!!」

「セリカ待って!!」

 腕まくりして勇ましく前に出るも、またしても後ろから羽交い締めだ。



「私を侮辱したこいつに天誅落とすついでにゼノファーの分もヤってくるから大丈夫!!」

「それが問題なんだよ!! 相手はBランク優勝者だよ!?」

「そんなのカンケーないZE☆ ただ怒りに任せて拳を上下すればいいんだZE☆(相手の股間に)」

「余計駄目だよ!!」

「じゃあゼノファーは言われたままでいいの!?」



 ピタリ、とゼノファーの動きが止まる。

 ググッと私を抱き締める腕に力が加えられ-……、小さな彼の声が、耳元に響いた。




『だって、俺は落ちこぼれ、だし』




 その言葉を聞いた瞬間……、私は思わず彼を背負い投げしてしまった。

 ダァンッ!! と重い音が謁見室に響き渡る。目の前で痛みと驚きに目を瞬かせているご主人様に向かって、私は大声を出した。



「落ちこぼれだからみんなに虐められてもしょうがないの!? んなワケあるかボケナス!! 勝てないからって諦めたらそこで試合終了だと有名な先生も仰ってるだろう!!」

「……せ、先生…?」

 あ、ネタが伝わらない。か、悲しい…。猛烈に異世界のギャップを感じつつ言葉を続ける。




「諦めんな!! ゼノファーは私を召喚出来たでしょうが!! だったら私が協力する、私があんたを強くしてみせる!! おいそこの茶髪!!」

「ぇ、え僕!?」

 一番遠巻きに見ていた、大人しそうな少年を指差す。



「この国で、一番強くて一番格好良くて一番人に尊敬される…、つまり一番兵士たちにとって誉高い地位はなんだ!?」

「え!? ええと……、ぱ、パラディン、ですかね…?」

「じゃあゼノファーをパラディンにしてみせるっ!!」

「「えぇ!?」」

 茶髪の青年とゼノファーの声が重なった。




「いーじゃんパラディン!! 私が協力するからなろう、ね!? こんな馬鹿にしている奴らなんか、見返してやろうよ!!」

「で、でも……、俺…」




「なれるワケねぇだろ」




 冷たい声が響いた。またか、と私はその方向に首を向ける。

 赤髪を逆立たせた、目つきの悪い男がこちらを睨んでいた。




「落ちこぼれのゼノファーがパラディン? 笑わせる。こいつは生まれてからずっと使い魔を召喚出来なかったんだ。生まれつき落ちこぼれなんだよ。そんな奴がいくら努力しようと……「黙れ」」



 低く唸って、地面を蹴る。2、3メートルはあった間合いを一気に詰めて、私は自分の拳を赤髪の顔面へとぶち込んだ。

 ゴッ!! という鈍い音が響き、赤髪が吹き飛ぶ。

 そのまま大理石の壁にぶち当たって、ずるり…、と地面に転がった。

 私はその場に仁王立ちして彼を睥睨した。






「運命なんか、他人が決めるものじゃない」

「そうだな。だがお前はやりすぎだ」




………ん?



 やけに渋い声が聞こえたと思った。振り返る間も無く誰かに腕を掴まれ、カチリ、と鈍色の手錠らしきものが私の手首に付けられた。


 これ、あれ。どうみても、てじょ……、いやいやいや。それはない。うんそれはない。

 混乱する私はカチャカチャと手錠を揺らす。そんな姿を見つめながら手錠をかけた男は落ち着いた口調で私に話しかけた。




「騒ぎが起きていると門兵から伝えられ来てみれば…、使い魔が人間に危害を加えるのは罰金行為だ。ほら、牢に行くぞ」

「えぇぇちょ…、えええ!? 何それ初耳!! 待っ、ええぇぇ!?」

 やっぱり手錠でした!! 悪い人を捕まえる手錠でした!! 振り返ってみると、そこには硬派そうな、がたいの良い男の人が私のもう片方の手にも手錠をつけている最中…ええぇ!? 混乱する私に向かって『だから手を出しちゃいけないって言ったのに…』とゼノファーがため息を吐いた。

 言ってねぇよ!! 全然言ってねぇよ!!




「待って!! 私ただ殴っただけだから!!」

「殴っただけでも駄目だ。だいたい相手気絶してるだろうが…」

「でも、え…、ちょ…!?」

 ひょい、と米俵のように担ぎ上げられた。彼の短く切られた髪がチクチクと肌を刺激する。

 そのまま、手錠を付けられた私は男に担がれて謁見室を後にした。




「ちょ……、えええぇぇぇ!?」






異世界初日。牢屋行きが決定しました。








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