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次の異世界 3

前の2つを書き直し、少しだけ設定を変えました



「……僕じゃなくて本人に直接聞けばいいじゃん」

残ったスープをおかわりしながら、フィートは目を眇めた。

それはあまり話せない話があるという訳ではなく、ただ単に面倒くさいだけ、という感じの声だ。

私は汚れた食器を台所へと運びつつ、返事をする。




「客観的視線の話を聞きたいの」

率直に言うと、溜め息をつかれた。『食器は使い魔が洗ってくれるからそのままにしておいて』と言いつつ、彼は言葉を続ける。



「…ゼノファー・クライシス。クライシス家三男で職業は国家騎士。だが本人は今まで一度も使い魔を召喚出来た試しが無かったため、周囲からはコネで入った卑しいやつという考えが広まっている」

「使い魔ってのは誰でも持ってるもんなの?」

「…使い魔を持っていない人間は、ほとんどいない。みんな5歳位には使い魔を召喚出来る。ゼノファーはずっと使い魔を召喚出来なかった。だから落ちこぼれと揶揄される。本人もそう思ってる」

「……ふ~ん」

つまり、私のご主人様は力が無いと虐められていて、本人もそれをしょうがないと諦めているのか。



別に、私からしたら彼は赤の他人である。全く知らない人である。だが、今は彼は私のご主人様なのだ。そんな人に無関心を装って、虐めを見ている訳にはいかない。

そして、『虐められないには』自分が変わる事、これが一番有効である。





「あ、そういえば、使い魔ってのはみんな異世界から召喚するの?」

「…? 異世界? もしかしてセリカは異世界出身の使い魔なのか?」

「まぁ、そうだろうね」

異世界から異世界へと移動してるんだけどこれは異世界出身だよね? すると、分かりやすくフィートの瞳が輝いた。

それはもう宝物を見つけたみたいなキラキラ感。眩しい。なんだか眩しいよフィート。




「…使い魔のほとんどはこの世界の生き物。稀に異世界の生き物も召喚されるけど、本当に珍しいケース。異界人はそこまで珍しくないけど、使い魔は本当に珍しい」

「ほう……。あの、異界人とは何ぞ…?」

「…ちょっと触らせて。どんな能力あるの?」

「ぅわ、何すんだ!!」

人の質問など無視してペタペタと体を弄り始めるフィート。私は問答無用で右ストレートを発射する。

綺麗に頬をクリーンヒットし、フィートが床でもんどり打つ。そのせいで床に置かれた書類の山が崩れて雪崩みたいに床に広がったが気にしない。




「能力は色々。まぁそれは登録の時ということで」

「……分かった」

渋々、といった感じでフィートは頷いた。



「あと、この国の今の状況とか、使い魔はどう生活するのかとか教えてくれないかな?」

「…教えてもいいけど、変わりに僕の昼食も作って」

「はいはい」

どうやら私のご飯がお気に召したご様子だった。フィートは満足げに頷いて、床の上に座り込む。



「…この国の名前は『ツェザール帝国』。一応、ここらへんの国の中では一番大きい。穏やかな気候で住みやすい。戦争は180年前から起こっていない。


次に、使い魔について。

使い魔は僕たちのパートナーであり、奴隷じゃないというのがこの国の定義。大体は主人と同じ部屋で寝泊まりするのが普通。あまりにも図体が大きいのなら、『使い魔宿舎』での寝泊まりが出来る」

ということは、私も人間としての最低限の生活は期待できそうだ。

良かった、首輪を付けられて藁が敷き詰められた豚小屋なんかに収納はされなさそうだ。



「…最近は使い魔にも自由をとか言って運動する人が増えてる。昔は君みたいな人型でも、首輪を付けて全裸で街中を四つん這いで歩かせて、その場で娼婦の真似事させた、なんて時代もあった」

お、恐ろしい。この時代に召喚されて良かった。

少なくとも私がその時代に召喚されたら、全裸にして首輪をつけようとするご主人様を死ぬまで殴り続けて私自身が自ら改革を起こすだろう。この国の歴史に名を残すところだった。




「…まだなんかあるの?」


「…一応は、大丈夫かな。ありがとう。私元いた部屋に戻るわ」

「…ちょっと待って。僕も質問がある」

スープをまたちまちま飲みながらフィートは口を開いた。

何だかその様子が猫みたいでちょっと可愛い。




「……昨日使い魔同士の決闘で、何故使い魔を殺さなかった?」

「……どういうこと?」

冷めた瞳が私を見つめる。それはまるで私の正体がなんであるかを見極めようとしているような目つきだ。



「……使い魔の自由は決められてはいるが、やはり僕たちよりは地位は低い。使い魔を殺めても罪は軽い。

それにあの使い魔同士の決闘ではランクが低ければ低い程使い魔の知能も低くなり死ぬ事が多くなる。が、今回のEランクの決闘で死んだ使い魔は、0」

ちろりとさっきから見え隠れしていたフィートの舌が引っ込んだ。




「なぜ、殺し合いと言っても過言ではないあの場で誰一人として殺さなかった?」





「なんだ、聞きたかったのってそんな事?」

飄々と言ってのけると、フィートの瞳孔が見開かれる。それを視界に入れつつ私は木製の扉を開いた。




「殺す必要なんか、無かったでしょ?」

そう言って、彼女は部屋を出て行った。








フィートは彼女が出て行ったドアを見つめる。殺す必要はない、ね。随分と太っ腹な意見だとフィートは思った。

自分が殺されそうになっているのに、自分はその相手を殺さないように加減する。これは結構難しい事だ。

特に、ただの獣と変わりないEクラスの使い魔の中では。



ストレートの、肩につく位のセミロングの黒髪。小柄な体格でまだ15かそこらにしか見えない彼女は、噂によると自分の背丈程もある剣を作り出して戦ったという。

斬りつけた場所は全て脚や肩。

行動不能となっただけで、致命傷を負った使い魔は0という、前代未聞の結果で終わった。



「……だが、」

フィートが本当に感心があるのはそこじゃない。



あれは、本当に使い魔か?




その問いに答える者などいるはずも無く、フィートはまたスープに口を付けた。








まさか、まさかこんな事になるなんて。

芹花は思わず呟いた。



「ここ、どこ」



思い出せば自分は最初からゼノファーに付いていっただけで、初めてとなるこの広い…、王宮? 兵舎? らしき場所で、どこに何があるかなんて分かる筈もない。

なのに考え無しに歩いていたら、もう食堂にもさっきのフィートの部屋にも戻れなくなってしまった。




「も、もう!! なぜおんなじような壁と扉と柱しかないの!! 設計ミスだなこりゃ。責任者出てこい!!」

などと大変理不尽な事を抜かしつつ、とりあえず脚を進める。確か迷路では右手を壁に当てていればゴールにつくハズだ。ととりあえず道なりに進んだ。




だいぶ歩いて、気づく。

ゴールって、どこがゴールだ。




「ああヤバい。この年になって迷子とか。もうこうなったら空飛んで一度上から誰かを探すしか……」

と考えて道を曲がった先に、何やら物々しい扉が目に入った。しかも二人の兵士がそこを守っているように立っているではないか。

第一村人発見!! とばかりに私は喜んで、扉の横で突っ立っている兵士に走りよった。

やった、これで帰れるぞ~!!




「あの、すみません!!」

道を教えてもらえますか、という言葉は、勢いよく開いた扉の音と、転げるように出てきた一人の男性によって妨げられた。

転げるように出てきて、今なお床に寝そべっている金髪の髪の男性は、ゆっくりと上半身を起きあがらせる。それによって、その彼の顔もよく見えた。



「え、ゼノファー?」

そう、私のご主人様だった。





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