表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/40

魔戦 3



 素直に言おう、迷子である。

 長く続く白亜の廊下を眺めながら、私はゆっくりと腕を組んだ。



 朝、食事を共にしたゼノファーと別れて、私はアレイスター隊長なる人物を探していた。

 が、人物像がどんな人か分からないので、まず先にフィートの所に行ってアレイスター隊長がどんな人物か聞く予定だった。



 事前にフィートの部屋までの道のりは教えてもらっていた。地図まで描いてもらったのだ。




「なのに、迷子かぁ……」

 人っ子一人いないのはどういうことだ。警備が手薄じゃあないか全くけしからんと腹いせにこの国の兵士を批判しつつ、地図まで描いてもらったのに辿り着けない自分の方向音痴さにちょっとしょげる。

 こうなったらまた人に会うまでさ迷うしかない。いや、間取りを覚えた方がいいかも?

 ちらりと均等に並べられた窓の一つに目をやる。少しだけ木々が低くみえる。三階位かな。

 次に室内を見てみるが……、相変わらず全てが均等に並べられていて、見分け方が分からない。何このシンメトリー設計。




「もう、誰だよこの城設計したの!!」

 憤りに任せてズンズンと進む内に、窓に一瞬、影が差し込んだ。



「??」

 結構大きな影の気がして、思わず両開きの窓を開ける。突風が前髪を攫って、窓がガタガタと悲鳴をあげた。が、私は目の前の光景に見入っていた。




 青空に、羽を生やしたライオンが飛んでる。




 体長は龍化した私と同じくらいだろう。金色の翼が羽ばたくと共に突風が舞い上がる。



「きれ~……」

 キラキラとした艶のある毛並みが、太陽の光でますます輝いている。神々しい、という言葉がよく似合っていた。

 その様子をもっと近くで見たくて、思わず窓の外に上半身をせり出した。どうせ落ちた所で芹花が怪我をする訳がない。



 が、芹花がいかに強いとはいえ見た目はただの15の小柄な少女。




「おいお前!! 自殺なんて真似しちゃいかん!!」

 案の定、下から怒号が聞こえてきた。



「ん?」

 ずっと空とライオンを見つめていたから、下に人がいるなんて気が付かなかった。視線を向ければ4、5人の兵士らしき人たちとその人たちの使い魔が、こちらを見つめている。

 と、その中に1人だけ知り合いが混じっていた。ロッシェだ。



「ロッシェ!!」

 はしゃいだ声と共に、私は窓から飛び降りた。






 怒号がますます強くなるが、私はそれに答えず龍化する。彼らを踏みつけないよう注意しつつ、砂埃を巻き上げながら着地した。

 また人の姿に戻って、唖然とした顔でこちらを見るロッシェに駆け寄る。



「ロッシェ!! ロッシェロッシェ!! ちょっと聞きたい事が色々あるんだけど!!」

「奇遇だな。俺もだ」

 ロッシェはあの何を考えているか分からない笑みをして何故か私の頭をアイアンクローしてくる。何故。



「ロッシェ。私は龍だから痛くないけど、何故にアイアンクロー?」

「あのなぁ」

 ロッシェの手が外れる。この場にいたみんなが呆れ顔をしていた。



「誰だって、人が三階から飛び降りたらビビるだろ」

「心配させたのは謝る」

「たく、で? なんの用だ?」

 あ!! そうだった!!

 私がロッシェを見かけて飛び降りたのは他でもない。ロッシェは副隊長なのだからきっとアレイスター隊長の事も分かるだろうと思ったのだ。




「あのさロッシェ。アレイスター隊長ってどこにいるか知ってる?」

「アレイスター? 何でいきなり」

「私二日後に魔戦に出るんだ。背中に誰かを乗せた空中戦はした事ないから、Sクラスの隊長にご教授してもらおうと」

「ふ~ん……」

 ロッシェが相槌を打ちつつ、私をつま先から頭のてっぺんまで見回す。

 私は『キャラメリア』のオーダーメイドではない、真っ白なワイシャツに黒いズボンという至って普通の格好をしていと思うんだけど……、変なのかな?




「まぁいいか。よし、もうちょっと待ってろ」

「ぇ、いいんスか、ロッシェさん」

「いいっていいって」

 外野にいたギャラリーからの言葉を聞き流すロッシェ。

 おお、ロッシェ以外に良い人だ、なんて失礼な事を考えてしまう。

 ロッシェは上を向いて息を大きく吸い、




「アレイスター!! 客だ!!」

 と、空に向かって叫んだ。




「…………」

「そんな痛い人を見るような目で俺を見るな」

 空に向かって叫ぶ人がいたら誰だってこんな目をしてしまうのでは、という意見は、強風によって遮られる。

 空を見上げれば、あの翼の生えたライオンが今にも着地しようとしている所だった。

 ズズン、と腹に響く地鳴りを鳴らし、ライオンは着地する。

 その背から、1人の男が降りてきた。




「あいつがアレイスター。この国最強の騎士だよ」

 と、ロッシェが自慢げに話した。








 硬質そうな、短く刈られた黒髪が着地の時に僅かだけ揺れた。

 同じく黒い瞳は鋭く、鍛えられた体は男らしいの一言に尽きる。

 格好は軍服だが、これぞ騎士、という雰囲気を纏う人だ。

 身長は190位だろうか、近寄った彼を、私は視線をギリギリまで上げないと彼を見れない。首が痛くなりそうだ。




「……客とはお前か。橘 芹花」

 重低音な声が響く。名前を知っている事よりも、日本語の名前を流暢に言える事の方が気になった。



「えと、私、二日後に魔戦に出る事になっていて。隊長に空中戦を教えてもらいたい……、んですけど」

 何故だか敬語になってしまう位、アレイスターの纏う空気は張り詰めたように感じる。

 彼は無言、無表情で私を見下ろし、何を思ったか、私の頭にポム、と手を置いた。

 ポムポム、と数回触れ、わしゃわしゃと撫で回される。




「???」

 頭にハテナを浮かべるのは私だけじゃないらしく、ギャラリーも頭にハテナを浮かべている。

 ただ、ロッシェだけはアレイスターの視界の外で俯き腹を抱えて震えていた。あれ絶対笑いを耐えてる。

 そうやって私を撫で回していたアレイスターは満足したのか、私の頭から手を離した。




「すまない。ゴミがついていた」

 いや、ゴミを取るにしては随分撫で回していたような……、とは言えなかった。

 次にアレイスターは、スッと自分のポケットに手を突っ込み、包装紙に包まれた何かを私の手に落とした。

 それは、私もよく知る、砂糖から作られた菓子。




「お前にやる」

 あめ玉くれた。この国最強の騎士があめ玉くれた。




「……どうも」

 混乱する頭はほっといて、とりあえず口に含む。

 コロコロと口の中であめ玉を転がす私。その様子をじっと無表情で見下ろすアレイスター隊長。一体何をしたいんだこの人。

 ちょっとだけ現れた私の緊張はすっかり霧散してしまった。



 そしてアレイスター隊長の視界の外

で、ロッシェはもう笑いが耐えられないようで地面をバンバンと叩いていた。

 ひぃひぃ言ってるが、このよく分からない状況に陥っている私を助けてはくれないだろうか。




「……あの、戦い方を教えてくれませんか……」

 口の中であめ玉を転がしつつ、何故か場違いな発言と感じてしまう言葉を言う。

 アレイスター隊長は顔の筋肉をぴくりとも動かさずに『ああ、そういえばそんな話をしていたな』と呟いた。いや、最初からその話しかしていないのだが。



「空中戦は、相手が飛ばない種類の時は遠距離の魔法攻撃が主だ。

相手も飛べる時は使い魔同士が体当たりをして主人を落とそうとしたり使い魔を攻撃したり、主人はやはり魔法で攻撃する事が主だ。

いかに敵の背後を取るかが鍵となる」

「それは大丈夫だと思う。それなりに機動力はある」

「あと、主人を落とさないようにするのが難しいかもしれない」

 うん、誰かを背に乗せ慣れてない私には、結構難しい。よく考えれば龍化した私の背中に乗り、ゼノファーが弓で敵を射抜くなど風の影響で不可能じゃないか?




「人を乗せるのには慣れているのか」

「いや……、昨日初めて乗せました」

「だったら、誰かを乗せる練習が先だ。戦いの中、主人を落とすなどすれば負けは確実だ」

 やっぱりそこからだよなぁ。まず先にゼノファーと空を飛ぶことから始めないと。

 私だって誰かを背に乗せて戦った経験は皆無なのだ。少なくとも、乗せる側の私が慣れておかねば。

 後ろから、『昨日見てたけど、あれ初めてだったのか』とか『の割には危ない飛行してたよな?』という声が聞こえてきた。


 初体験など度胸でなんとかなるものだ。と心の中だけで呟いておいた。





「なら、俺を乗せて練習してみるか?」

「え?」

 いきなりの提案に目を瞬かせた。アドバイスだけ貰って帰ろうと思っていたから、アレイスターの提案にちょっと驚いた。



「いいの?」

「今日は飛行練習しているだけだ。飛びながらどんな風に飛べばいいか教えよう」

 アレイスターは無表情で言った。私は目を輝かせてその言葉に頷いた。







携帯で「ポムポム」と書いたら、予測変換に「ポムポムプリン」と出てきた。ポムポムプリン……、一体なにものなんだ……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ