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次の異世界



「はぁ、はぁっ…!!」

熱い息が、肺を通る。目の前に立っていた魔王は黒い霧となって四方に霧散していった。

彼女は天を仰いで、その手に持っていた聖剣を落とす。




「や、た……」

ついにやったのだ。魔王ルキエラを倒したのだ。

腰を抜かしそうになる彼女は、何とか後ろを振り返る。

そこには、自分と同じようにボロボロになっている仲間たちがいた。武者震いかは定かではないが、体が震えてしょうがない。曖昧な笑みが浮かぶ。




「セリカ、大丈夫か!?」


「…あぁ。ルディ、終わった。終わったんだ」

駆け寄った彼は血まみれで、かく言う彼女も血まみれだ。

だが、そんな事も気にせずに二人はひしと抱き合い、そして他の仲間たちとも抱き合い喜びを分かち合った。




「セリカ、大丈夫か。さっきから辛そうだ」

「大丈夫だよ。ちょっと、なんだか眠、い……」

あぁ、嬉しいからか、気が抜けたんだな。

フワフワとした浮遊感。もう目も開けていられない位、眠い。


少しだけ、と彼女は目を瞑る。



慌てる仲間の声など、睡魔に負けた彼女には届かなかった。










いきなりの浮遊感が終わり、ドサッと地面に何かが落ちる音がした。

いや、何かじゃない。自分だ。

痛む背中や頭、いや、最早全身と言っていいだろう。その痛みに思わず顔をしかめる。


ああ、寝過ぎたからルディ辺りがたたき起こしたのか…? と起きようとした時、辺りから聞き慣れない声の悲鳴が聞こえてきた。

まさか、魔王が生きていたのか!? と思って面を上げる。




そこには、まるで私を珍獣のように見つめる人がいた。




……てかここ、どこ?







◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「あの…?」

声をかけるも、目の前の人は動かない。

何でだ、と思う代わりに自分が纏う血の匂いに気が付いた。

あぁ、こんなに血まみれなら誰だって引くわ。



諦めて辺りを見回す。



石造りらしき部屋に、私の足元には大きな魔法陣が書かれていた。

これは…、なんの魔法陣なのだろう。見たことがない。目の前で立ち尽くす人は騎士のような格好をしているが、見た目がちょっと気弱そうだから何ともいえない。

これ以上は分からないので、話しかけてみた。



「あの、ルディ、ルディエスという人を知ってますか? 私の連れなんですが」

そう、私のパーティーたちはどこへ行ったんだ。まさか私をここに置いてもう城で魔王討伐祝賀会をやってるわけではあるまいな。

この主役の私を忘れるなど、言語道断。美味しい物食ってたら私の女子力(物理)で八つ裂き(文字通り)にしてやる。




話が分かったのか分からなかったのか分からなかったが、騎士(仮)は慌てて動き出した。

「あ、あの!! じゃない!! うぇと、俺の言うことを聞け、使い魔よ!!」

「……はぁ?」

「ひぃ!!」

ヤンキーみたいなドスの利いた声を出せば、目の前の男性は情けない声を発した。

フッ、馬鹿者。四年間勇者やっていて、腹黒い政治家に文字通り血がこびり付いてどす黒く染まったモンスターたちと戦った私にメンチの切り合いで勝とうなど未来永劫不可能なのだよ。


すると近くでバカにしたような声が響く。



「ゼノファーの奴、やっと召喚出来たと思えば、召喚したのはただの女のゴブリンかよ!!」

そう言いながら私を指差す。

……おい、その言い方じゃあ私がゴブリンみたいじゃねぇか。確かに今の私は魔王戦のせいで血塗れだし、服は破れてボロボロだし、髪も血糊のせいでバリバリだ。百歩譲ってモンスターに見えなくもないけど、だからってゴブリンは無い。ゴブリンは無いよ。



「……とりあえず君、ちょっと今どういう状況なのか説明したまえ」

「は、はい!! 今ここでは使い魔による闘技が行われていて、あなたは私が召喚した使い魔となっています!!」


「……使い魔?」


「はい!!」


「私が?」


「はい!!」




なんと!!


私、橘 芹花は異世界に呼ばれ勇者になって魔王を倒した直後、また召喚されて別の異世界に使い魔として来ちゃったって事!?





「ちちちちょっとどういう事よ!!」

「うぐっ!?」

錯乱した私は青年の胸倉を掴んでゆすり倒した。ちょっと首が心配になるけど気にしない。

そんな事ハラヘッター状態の私には小さき事なのだ。私の晩餐会という名の天国はどうなる!?

私の満腹の為に首は犠牲になってもらう。




「ゼノファーの使い魔が攻撃し始めた!!」

さっきまでこっちを見て笑っていた野郎が出て行こうする。逃がすか!!


私はすぐさま野郎の懐に潜り込み、拳を一発お見舞いする。九の字に体が曲がってその場に崩れ落ちた。乙女に対して『ゴブリン』と言ったのだ。まだ軽い罰である。

ちょっとスッキリした。体を動かしたせいだろう。よし落ち着け~と深呼吸を二回。これでも過去に異世界トリップを経験済みなので耐性は出来ている。まずは状況確認だ。これ大事ね。



「…えと、私を使い魔として呼んだって言ってたけど、具体的に何させたいの」

「えぇと、君は出来れば、今から闘技場で他の使い魔と戦って欲しいんだけど…」

ふむ、状況はよく分からんが、戦えばいいのか。なら話は早い。使い魔と言うんだから用事が済めば元の世界に返して貰える筈だ。



「分かった。連れてって」


「は、はい!!」

……こいつ、なんで使い魔に対してこんなに弱気なんだ?

改めて目の前の男性を見る。

金髪の髪は所々跳ねていて、目は確か碧眼の垂れ目だ。私よりも大きいけど、男性にしてみれば小さい方。170あるかないかだ。

優しそうと言えば聞こえがいいが、はっきり言って気弱そう。それが彼に対する印象だ。



暗い廊下を歩いて、何やら怒号が聞こえてくる扉を開ける。

そこはコロシアムのような競技場があった。



「あ、あの、無理だったら、早めに降参してね…?」

それだけ言って、彼は私を閉め出した。




観客席には大勢の男性。そして、地面にはたくさんの異形たち。蠢きひしめく異形、モンスターたちは、ゴングの音と共に殺し合いを始めた。



……あの、言い忘れてたけど、私魔王戦直後で瀕死状態なんだよね。






早速、近くにいたオークみたいのが攻撃してきた。


「うわっ!!」 

慌てて横に避ける。が近くにいたハリネズミみたいな奴も攻撃してきた。

上下左右に避けながらモンスター(多分使い魔)の状態を見てみる。大体、前の異世界の雑魚位だ。イケる。

激しく動いているからか、今更になって魔王戦で受けた傷から血が溢れた。まるで私が通った道筋みたいに赤い鮮血が地面に滴り落ちる。

そして、その血の匂いで興奮した周りからの集中攻撃を受けやすい状況である。



咄嗟に、私はこの中で一番体格がいい奴を探していた。一番体格がいいのは、中央で無双している奴だ。3メートルある巨大の狼みたいで、我が物顔で歩いている。

奴に目を付けた私は駆け出した。すぐさま狼に見つけられるがそのまま正面に疾走する。狼が突っ込む私目掛けて前足を振るのと、私がジャンプするのは同時だった。


狼の攻撃は勿論当たらず、私は顔面に飛び乗って更に真上にジャンプする。

高さにして約5メートル。これだけあれば十分だ。

私は飛び上がった状態のまま、右手を天に突き出した。



「我が声に応えよ!! 全てを断罪せし剣『ティアディーラ』!!!」

その言葉に反応するかのように、右手に光が集約する。

それはやがて一振りの真っ白な大剣になって、私の右手に収まった。


切っ先を真下に向けて、力を込める。瞬間、それは私の足場になってくれた狼の右肩を砕き、貫いた。溢れ出した鮮血を浴びる。また血塗れになってしまった。

体重をかけてその大剣を引っこ抜けば、狼はそのまま横に倒れた。視線が、全てこちらに向けられる。少しばかり静かになった闘技場に、私の声はよく響いた。





「さあ、やろうか」





最後にみね打ちでオークの横っ腹を薙げば、会場に立っている使い魔は私だけとなった。

最初の怒号は嘘のように静まり返り、誰も身じろぎしない。



「『ティアディーラ』ありがと。もう帰っていいよ」

私が大剣に話しかけたら、『ティアディーラ』はまた光の束となって空気に解けて消えていった。静まり返る会場を無視して、私はさっき通ったドアを開け…ようとしたが鍵がかけられていた。



…むぅ、これは致し方ない。しょうがないので蹴破った。と、すぐ近くに先ほどの男性は立っていた。口をぽかんと開けた、何とも間抜けな表情で。



「おい、終わったから早く帰してくれ」


「あ、ああ。うん」

それだけ言って、目の前の男性は私の額に触れた。途端、抗えない睡魔が襲う。

……あぁ、やっと帰って宴だ。と、私は素直に目を閉じた。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



目の前の小柄な使い魔は、意識を手放して俺の方に崩れ落ちた。

鮮血で服が汚れるがしょうがない。彼女を抱きかかえて、ちょっと驚いた。軽いのだ。



身長は150あるかないかのこの細身で、よくあれだけの戦いが出来たものだ。彼女の顔に張り付いている黒髪をどかそうとして、血糊で固まってしまっている事に気づく。これは帰ったらお風呂にいれてあげなくては。

幸いにも授与式は明日である。居心地の悪いこの場から逃げるようにして、彼、第二騎士団隊員のゼノファー・クライシスは出て行った。



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