プロローグ ある男の約束
本編より十五年前のお話。ある男の約束とは・・・?これからの話のスタートとなるお話です。
こんなお話をご存知かな?人が書き上げた物語には、時として命が宿ると。いいや、本に足が生えて動き回るというようなことではないよ。
赤い絨毯の敷き詰められた部屋で、一人の男性が本のページをめくっていた。紙の擦れる音が微かに響いている。
「そのようなことをおっしゃるために、僕を呼んだのですか?学園長」
少し幼さの混じった目を男は彼に向け問いかける。
「桃園君、君は先を急ぎすぎる。童話作家はゆっくりと、読者の視点で話を進めねばならないだろう?」
「では、本題をお願いします。」
学園長と呼ばれた男性は、彼に目をやり、にこりと笑った。
「桃園君、物語には命が宿る。これは事実なんだ」
「足が生えて動き回るとでも?」
「だから違うと言っているだろう?文字通り、命が宿るんだ」
「・・・おっしゃる意味が分かりません。」
学園長は彼の困惑した顔を見ると、手を大きく広げ、この部屋を示した。
「この学校は、私が元あった童話博物館の土地を買って建てた。・・・現在三年生の君は知っているはずだね」
「えぇ、入学のときから既に・・・」
「童話博物館というくらいだ。世界各国の童話が集まっていた。童話に宿る命も、たくさん残っていた。もちろんそれらの作品は、学園の童話保管図書館に保存してある。抑えるのに苦労した・・・。何せ相手は狼、鬼、悪女にと、化け物だらけだ。もって何年になるだろうなぁ・・・。」
「が、学園長!?本当に分かりません!僕は何をすれば良いんですか?」
困りきった彼に男はゆっくりと歩み寄り、両肩に手を置き、諭すように言った。
「君の力を借りたい。いや、君の子孫の力を借りたいんだ。」
物語は、未来へと受け継がれる・・・。