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スリープ  作者: ぐぃた
6/6

5話 少女

 その少女と目が合う。

 目が合ったままフリーズ。


「オィオィ…なぁにボケッとしてんだよぉ!」


 ガラの悪い声と同時に少女の後ろの床がヒビを増やしながら膨らんでいく。

 

 





 ――――――。 何が起こったかわからなかった。

 

 コレが吹き飛ばされていると判断できるまでしばらくかかった。

 あたりは砂埃すら白い粉塵。

あんなにウジャウジャ居た『影』達はどうやら俺と一緒で吹き飛ばされたのか

あたりにはまったく居ない…。


 俺はどうして良いかわからず周りを見渡すと

スグ横にあの少女が横たわっていた。


 慌てて駆け寄ってみる。

「うっ…。」

 よかった、意識はあるらしい。

しかし、この少女…傷だらけで服もボロボロ…。

 どうやら図らずも少女が盾になり、俺はほとんど無傷で済んだようだった。


「大丈夫か!?」

「!?」

 俺が声をかけるのと同時に、少女は目を見開く。


「お前!なんで――っう…。」

 なにか言いかけているが、痛みでそれ所ではないらしい。

 逡巡していると、またあの声が聞こえた。


「どこだ~い!?まだ死んじゃいないだろー?ドコダーイ。」

 なんだ、あのふざけた声は…。

 まだ粉塵が派手に舞っていて、さっぱりあたりが見えない。

 しかし声がする方向はなんとなくだがわかる。

「おーい。どこだーい?」

 フラフラとしながらもこちらへ確実に歩いてくる。


 俺の美鈴によって開花した危機察知能力が「逃げろ」と警報音を頭の中で響かせる。


「きなさい!」

 

 少女に手を引かれ、声とは反対方向に走る。

 

「おーぃ。どこいくんだーい!」

 少女に手を引かれたまま後ろを垣間見る。

 足音に気付いたのか、こちらにまっすぐ歩いてくるのが遠めに見える。


 撒ける。俺達は全速力で走っているんだ。


 少し走るペースを落とした瞬間、少女が右に飛んだ。

 手を引かれているのだから俺も横に引っ張られる事になる。


 何事かと思えば、その瞬間にその床が爆ぜる。


 割れた床の破片がパラパラと降りかかってくる。


「なんだ?地雷でもあるのか!?」

 喚いた俺を少女は睨む…。

「五月蝿い!わめく暇があるなら走りなさい!!」

 言われながら襟を猫をつまむ様に持たれ、投げ出される。

 文句を言おうとその少女を振り返ると、鬼のような剣幕で「早く行け!」と凄まれる。


 また近くの床がヒビを増しながら盛り上がった。今度はデカイ。

 少女がすばやく俺を背に立ち上がり走り出した。

 目を疑った。

 あろうことか、少女は今にも爆ぜそうな床に向かって走り出す。

 その向こうには未だ粉塵舞う中を歩く男…。


「ちょっ!お前――」

 俺の声は爆風により中断され、さらに木の葉のように宙に飛ばされる。


 地面に体が打ち付けられ、痛みに息が出来なくなる。

 爆発した先を見れば少女は空高く飛んでいた。

 しかし、その飛ばされ方は俺とは違う。

 足元には銀色のサーフボードの様なプレート。

 一体どこからそんなものを出したのか…。

 巧みな姿勢制御をしながら放物線を描き、そのまま粉塵に突っ込む。


 それからしばらく、中からは金属音や小さな爆発音などが聞こえてくる。

 粉塵が小さな爆発により段々晴れてくる。

 男の背は高く長いボサボサの黒い髪に1ヶ月放置したような無精髭、黒いインナーに黒いカーゴパンツ、焦げ茶色のトレンチコートを着崩していた。


「なんだこりゃ…。」

 

 たぶんコレを見た100人中99人はそう思うだろう。

 

 

 粉塵のはれた先は少女と、男が凄まじい攻防戦を見せていた。

 それ自体は想像できていたが…。問題は戦い方だ。

少女の方からは銀色のナイフや、また同じく銀色の長槍、剣、鎌など、さまざまなものが男に向かって飛ばされる。一方男は、そのすべてを爆風によって容易く吹き飛ばしていた。地面が泡立つ様にボコボコと膨れ、いつでも爆ぜる準備が出来ていて、少女の休息の機会を悉く潰していた。遠目から見ていてもどちらが不利かは一目瞭然だった。

 男は一歩も動かず、謎の爆発によって少女の攻撃をすべて吹き飛ばす。

 少女は地面に足が付くたびに爆発から逃れるように跳ねる。姿勢が覚束ない状態で相手に向かって、刃物を投げつけるだけ。


 一方的な消耗戦だ。男は余裕の表情。笑みさえ浮かべている。

 少女は先の床の爆発をモロに食らって、すでに四肢を動かすだけでも苦痛なはずだ。


 ――逃げるべきか、助けるべきか…。

そんな事を考えている間にも少女はどんどんと追い詰められている。


「やっぱり、助けないと…な…。」

 ボソリと呟きながら震える足に力を入れ、立ち上がる。

 

 しかし、ただ突っ込むだけじゃ死体が増えるだけだろう。

 どうすればいい…?


 電車の白い扉はもう閉まっている。

 扉に近寄り窓が割れないか試す。ビクともしない…。あの男の爆発を受けても無傷なんだ。俺のお世辞にも鍛えられているとは言えない貧相な腕じゃこの扉は壊せないだろう。

 まるで閉め出されたようだ。

 

 しかし、扉の窓の向こう…隣のプラットホームに停車している電車は扉が開いている。

 あちらの電車に乗ればもしかすると…。淡い期待が持てた。


 隣のプラットホームへ続く歩道橋の階段は幸いにもスグ後ろにある。そしてその歩道橋は今現在戦っている少女の真上を通っている。


 あれでいけるんじゃないか?


 もうこのままじゃ少女も倒されるだろうし、俺も無事の可能性のほうが圧倒的に少ないのだ。

 悩んでいる暇は無い。少女が動けなくなる前に何とかするしかない。


 男がこちらを横目で見る。三日月のような細い目が俺を見る。

 本能が「逃げろ」と警告すると同時に俺は振り向いて階段を目指す。


「おーぃ。ドコいくんだーい??」

 

 パチン…っと音が聞こえた気がする。


「うあ!?」

 俺の先、踏むはずの床が大きく膨らむ。

 少女の動きを思い出しとっさに右に飛ぶ…と同時の爆発。

 コレは…もう一度直撃すれば確実に死ぬな…。

 そう思いながらも俺はスグに立ち上がり階段をめざし走り出す。

 正直もうやけくそだった。

 

 階段に到達し、急いで昇る。後ろでまた爆発があった。

 男に見つからない角度で歩道橋を進む。


 音と、破片が飛んでくるのを感じ、近くなってきた事を実感する。


 ココからが大事なところだ。


 幸い、あれから爆発は俺の近くでは起こっていない。


 見逃してくれたのだろうか…。

 それとも俺はもう逃げたものと思ってくれているのだろうか…?

 それとももう死んだと…。

 

 あんなふざけた男に殺されてたまるか。

 

「おい!!こっちだ!!」


 歩道橋から少女を呼ぶ。俺の方を一瞥し、先ほどと同じように足元にプレートを出し、爆風に乗って歩道橋まで飛んできた。

 よくもそんな器用な事を狙ってやってのけるものだ。

 そして少女の腕を掴み、わき目も振らず走り出す。


「オイオイ!人の女をとるんじゃねぇよぉ!!」

 

 パチン――。まただ。またこの音。

 この逃げ場の無い歩道橋で爆発させられたら逃げ場が無い…。

 

 しかし爆発が起こったのは的外れも良いとこの遥か前方だった。

 

「大丈夫よあいつは見えているところしか爆破できない。歩道橋の外側しか爆破できないのよ。」


「いや、けど――」

 俺は外側から爆破された部分を見る。

 いくら直撃ではないといっても、やはり相当のダメージがあるらしく、歩道橋は半壊していた。


「大丈夫って言ってるでしょ!?さっさと――」


 ――パチン―― 途端少女の顔が険しくなる。


「さっさと行けぇぇぇえ!」

「え。まて――」

 俺は腕をつかみ返され、反論の余地なく前方に開いた穴に放り込まれる。

 

 瞬間、さっきの爆発とは比べ物にならない爆音と衝撃…。


 落下スピードに加え、爆風と衝撃によってさらに加速した体が地面に打ち付けられる。

 

 息が出来ない上に、頭を強く打ったらしい…。頭がクラクラし、スグに立ち上がる事が出来ない。


 大分吹き飛ばされた。視界に映る歩道橋はもはや原型をとどめていない…。


「あの子は…。」

 立ち上がる事が出来ない体に鞭を打ち、歩道橋へ這いずり出す。

 あの男は…俺達が居ると予想できる範囲をすべて爆破したのか…。

 これは…おそらく俺達を確実に殺そうとした爆破。少女の気転が利かなければすでに俺も死んでいただろう。少女の生存は絶望的だ…。それでもまだ生きている可能性を捨て切れなかった。

  

 歩道橋だった場所から何かが落ちてきた。


 俺はなんとか立ち上がり、その物体のそばまで近寄る…。


「なんだ、これ…。」

 その物体は大きな銀色の球体。しかし所々割れており、中の少女が横たわっている姿が確認できた。どうやらこの殻のような球体で直撃を防いだらしい。

 安堵するものも、このままでは以前危険なままだ。

 幸い目的の隣のプラットホームに逃げる事は達成できた。

 割れた卵のようなその中から少女を助け出し、近くの車両に向かって背負って行く。

 

 俺の体もぼろぼろだったが、少女の体は俺の比ではないほどボロボロだ。


 あと少しで、電車にたどり着く…。


「オイオイ。どこに行くんだよぉ~?」

 俺にとって今一番聞きたくない声が聞こえた。

 振り向けば向かい側のプラットホームに居たはずの男が耳に小指を入れてポリポリと耳掃除をしながらそこに立っていた。


 絶望的だ。

 

 ゆっくりと男がこちらに向けて歩みを始める

 

「人の女掻っ攫ってそのままトンズラだぁ?」


 後ずさりしかする事が出来ない俺に男はドンドン近づいてくる。


「ふざけてんじゃねぇぞ!ゴラァ!!」


 俺の腹に男の右足がめり込む…。男の蹴りがモロに当たり俺は背負っていた少女と共に倒れる。

 

 くそったれ…。ふざけてんのはどっちだ…。

 そんな事を思いつつも、この絶望的状況をどう回避するか必死に頭を回転させる。

 しかし、どこかの優等生みたく、そんな頭がキレるわけが無いし、ましてや武術を習っていたわけでもスポーツをしていたわけでもない。

 

 苦痛に顔が歪む…。

 こんな痛い思いをしたのは何時振りだ…。


 そんな事を考えている時じゃないのもわかっている。

 しかしもう打開策が思いつかないのだ。

 先の歩道橋を使って逃げる作戦だって、賢い作戦とは言いがたい。

 

「とある所にぃ、家族から苛められている王女様が居ましたぁ。」


 男が俺の髪の毛を引っ張り、否応なしに立たされる。


「そこに勇敢にも白馬の王子様が現れ、王女様をつれだします。」

 

 俺の髪の毛を掴みながらも器用にパチパチと「すごいよねぇ?」とさらに言葉を続ける。


「おとぎ話ならこの時点でハッピーエンドだよなぁ?しかしこの話はおとぎ話ではねぇんだよ。王様は怒りました。連れ出されたこと事態はどうでもいい。自分のおもちゃが取られるのがこの上なく我慢が出来ないのです。王様によって放たれたおびただしい数の兵士達…。王子様と王女様は簡単に見つかってしまいましたぁ…。この続きわかるかナァ?」


 苦痛に歪める俺の顔を眺めながら男は続ける。


「王子様は簡単に殺され、王女様は前よりもっと苦しむ事になるんだ。」

 男のふざけた口調がココだけキーが恐ろしく低く、俺の鼓膜を強く響かせた。


 男は俺の髪の毛から乱暴に手を離しざま、俺の顔めがけ拳を放つ。

 当然避けれない俺の顔にその拳は当たる。


 もう殺されるしかない。 


 諦めよう。


 俺は殴られた衝撃で力なく床に大の字で横たわる。



「おやぁ?諦めが早いなぁ。つまんないんだけどぉ。」


 そういいながら男は俺の横腹を強く蹴る。


 いっそ楽に殺してほしかった。しかし、男にそのつもりは無いらしい。


 

 ―――それから何十発、何百発もらったか記憶に無い。


 もう意識を手放したいのに男はソレを許してくれない。


 ふと、視界の端に倒れている少女が見えた。

 さっきと同じ場所、同じ格好で横たわっていたが…目が開いていた。

 その目は涙を浮かべていた。唇を強くかみ締め、何かに絶えているようだった。

 

 俺は不思議に思った。

 もう殺される道しかない…。絶望しか残されていないはずなのに、その少女の瞳は絶望などという沈んだ感情は見えなかった。後は順番待ちで殺されるというこの状況でどうしてそんな強い眼差しが未だにできるのかが俺には理解が出来なかった。


 

「あぁ~。飽きてきたナァ…。もうお前もうイラナイなぁ。」

 それは死の宣告だった。


 男が右手を俺の方に向けて中指と親指を合わせる。あぁ、あのパチンと言う音はコイツのフィンガースナップの音だったのか…。

 


 俺は目を硬く瞑った。




 ――パチン…という音は聞こえなかった。

 代わりに聞こえたのはジリリリリリリリ――と続く、けたたましい音。

 その音と一緒に少女は動き出した。

 

 一瞬の事だ。

 跳ね起きた少女は何かを叫びながら男に飛びつく。俺に集中していた男は不意を突かれたんだろう。簡単に体勢を崩し、その隙を見て少女は俺の腕を掴み引きずるように電車に二人飛び乗る。同時に扉が閉まる。

 外では男があわてた様子で扉まで近寄るが、もうすでにその扉は閉まっている。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!忌々しい小娘め!!!殺してやる!!!殺してやるぅぅぅぅぅぅ!!!あああ×ж☆○△□&%#!!!」

 もう最後はなんて言ってるかわからなかった。


「もう…大丈夫。この中は安全だから…。」

 その言葉を聞いた途端、力が抜けた。

 電車は少しずつ速度を上げて走り出した。

 男の声も段々と遠くなる…。

少女は「ごめんなさい」を繰り返し言ってくる。この少女のおかげで助かったのだ。礼をせびられる覚えはあっても、謝られる覚えは無かった。しかし、それに答える力は俺にはすでに俺には無い。

 電車特有の長い10人用の座席。そこに俺は倒れた。調度良い反発感を感じる。

 体中が軋み、痛む。

 とうに俺の限界を超えているのだ。

 少女が俺の肩を揺すってくる。

 反応でき無い。

 俺はもう半分意識を飛ばしていた。


 まるで夢でも見ている様なフワフワした感覚だった。




 


 そして俺の意識は――










 



 ――した――






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