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スリープ  作者: ぐぃた
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1話 日常




「今日の夢見も悪かったなぁ…。」

朝、7時半すぎ。俺は目覚めた。いつもの夢ならば、あの、だだっ広い白のプラットホームにじっと突っ立っているだけだったのだが…。

今日はさらに刺されると来たもんだ。

「刺された時点で目が覚めろよ…。なんで意識飛ぶまであの子の事見てたんだよ…。」

夢の中の自分に悪態をついてみる。しかし高校生の朝にそんな時間の余裕は無かった。

あと1時間もしないうちに朝のHRが始まるのだ。

遅刻をすればまたあの口うるさいアラサー女に説教される。それだけは避けなければ…。

遅刻の常習犯だった俺は、急いで制服に着替えほとんど何も入っていない鞄を持ち、最寄り駅に向かう。

ちょうどごみを捨てに行く同じ階のおばさんがエレベーターを呼んでくれていた。


「おはよーございまぁす。」

挨拶はちゃんとしないといけない。いつも母さんに言われている。

「あら、おはよう。今から登校?遅れるわよ?ウチの子もう出たわよ。」

あぁ、そうだろう。あいつは本当に成績優秀な学校の自慢の才女だもんな。遅れることなんて滅多に無いだろう。

エレベーターに乗り1階を押す。

「えぇ、ちょっと寝すぎまして。」

「じゃあ走らないといけないわね。あの子冬希君のこと留年しないか心配してたわよ。」

とおばさんは微笑んだ。

「わかりました。」

余計なお世話だ…。と思うけれども一応は相槌を打っておく。

エレベーターが1階に到着し、俺は勢いよく飛び出し、駅まで走る。

急げば、まだ間に合う電車に乗れるのだ。

さっきのおばさんは、俺の幼馴染の高松タカマツ 美鈴ミレイの母親だ。


美鈴の口うるささは遺伝という事が最近になってわかった気がする。

いつもいつも俺のやることなすこと、一挙手一投足に対してすべて文句を言ってくる。

こないだだって、体育の時間の野球で、俺が守備でだらけていると、

隣のテニスコートから

「こらぁぁ!このバカ!さぼんなぁぁぁ!」

っと美鈴が俺に向かって罵声と体感速度200キロオーバーの殺人サーブを打ってきたくらいだ。

なんせ反射的に受けたグローブが俺の手から弾きとんだんだ。あれをまともに食らったら今ここには居ないだろう。

おかげで俺の危機察知能力も随分高くなった。

いつどこで俺のことを監視しているのか、正直怖い。


そんな出来事を思い出している間に駅に付いた。

磁気定期を改札に押し付け、プラットホームへ向かう。

すでに来ていた電車に飛び乗った。

しかし、1分以上待ってもドアが閉まる気配が無い。

「あれ…。おっかしいな…。」

ここで俺はある違和感を感じた。朝ラッシュの割りにどうしてこんなに人が少ないのか…。

ホームには反対側に列を成す多くの人たち。

上の電光掲示板を見ると、そこには「次発」の文字。

「おい…。マジかよ。」

あわてて、電車を降り向かいの列に並ぶものの、この人数…。乗れる気がしない。

このそこそこでかい駅の利用者ランキングはこの路線1位だ。朝の通勤ラッシュなんてそこら辺のローカル線の非ではない。


電車が来た。もうすでに電車の中は大混雑。それにこの人数が入るものか…。

幾度かシュミレーションを脳内でしてみるも、乗るのは厳しそうだった。このくそ暑い9月中ごろ…。

寿司詰めのよう電車にこのホームにいる人間が入るわけが無いのだ。

「はぁ…今日も遅刻決定…か。」

ため息まじりに残酷な通勤ラッシュに捨て台詞を吐いて、俺は次発の電車に乗りなおす…。

予想通り、ほとんどの人が乗れなかったらしく、中には駅員に止められる乗客も居た。

次発の電車に、先程の電車に乗れなかった人が入ってくる。

その中に見慣れた顔が出てきた。


「あれ…。菊池じゃないか。」

同じ中学の俺の親友と言ってもいい友達だ。

「あ、おう冬希じゃん。お前も遅刻組み?」

笑いながら俺の座っている座席の前に立つ。相変らず太い体だ。

「おう、寝坊だよ寝坊。それにお前と同じく電車に乗れなかった一人だ…。」

ため息しか出てこなかった。またあのアラサー女にどやされるのかと思うと、それだけで学校に行く足取りが重くなる。

そんな足とは関係なく電車はダイヤどおりに発進し、6駅先の「学園都市」まで20分とかかる。

遅刻は決定。しかし、菊池のおかげで俺一人で怒られる…という憂鬱な時間は半減されそうだけれど。


結局10分弱の遅刻をして俺たちは教室に入った。

「あんたたち!また遅刻!?学校をなんだと思ってるの!!」

俺たちを視界にいれるやいなや、待ってましたと言わんばかりの説教を始める。

朝のHRはそれと言ってすることは無く。時間も余ることが多い。その余った時間が俺たちの説教に使われるのだ。

「先生!僕は遅刻をしないと死んでしまう病気なんです!」

菊池が先生の話をさえぎるように言った。俺はこいつの言い訳に耳を疑った。

教室中は大爆笑に包まれた。

「じゃあもう死んでしまえぇぇ!」

パシーン!!といい音が鳴った。目に見えないほどの速さで(少し大げさだが)菊池の頭を出席簿で叩くこのアラサー女。

俺たちの担任の、佐藤かなめと言う。菊池の叔母にあたる人だ。

しかしまぁ、いくら親戚だからといって”死ね”は教育上よくないのではないだろうか?

そんなのだから、30代になっても彼氏の一人もできないのだ。

なんて言うと、俺にまで神速の出席簿が飛んできそうなのでやめておく。

「崎本…。先生に喧嘩を売っているのか?いい度胸じゃないか」

思ったことが口に出てしまうのが俺の悪い癖らしい…。


しばらく説教が続き、チャイムが鳴ったと同時に説教の締めがされた。

席に着き、一息入れる間もなく美鈴が近づいてきた。

「また遅刻?そのうち生徒指導食らうわよ?」

そんな事は言われなくても解っている。まったく…また説教は勘弁だ。

「あぁ、わかってるって。そうならないように努力はするようにしますー。」

力の入らない声で流す作戦にした。

「全然そんな努力しそうに無いんだけど…。」

作戦は失敗に終わったようだ。

しかし、次の作戦はすでに考えているのだ。プランBで行こう。

「そういえばさ、あのスリーププログラム美鈴も買ってんの?」

そう、話しを逸らす作戦だ。

「え?あぁ、あのプログラムね。あんなの嘘っぱちでしょ?」

作戦は大成功だ。このままこの話題で行こう。

「けど隣のクラスの山本も成績伸びたって言ってたぞ。いいよなー寝てる間聞いてるだけで、頭がよくなるんだもんなぁ。」


そう、最近世間を賑わしている物がある。とある製薬会社が睡眠療法と称して独自開発した

”寝ている間にその音を聞くだけで体がよくなります!”という俄かには信じがたい代物だ。

その商品、大抵はCD-Rで販売されている。

俺も詳しいことは知らないが、”体がよくなります!”と一概に言っても、色々種類があるらしい。

”頭がよくなる!””新陳代謝がよくなる!””運動神経がよくなる!””発育がよくなる!”etc…

”すべてがよくなる!”と言うのは存在しないらしい。

まぁ流石に”すべてがよくなる!”というのは都合がいいか。

にしたって、夜聞きながら寝るだけでどこかしらが”よくなる!”と言うのも充分都合がいいけれども…。

金額が1つのプログラムに20万…、っと高校生には痛い出費だろう。

しかし、実際に成績が上がった奴、運動オンチだった奴が人並み以上に運動できるようになったところを見ると

胡散臭いながらも、少し試してみたい気もするのだ。


「そんなのただの偶然よ!そんなものに頼らずちゃんと勉強すれば私みたいに頭は自然とよくなるわよ!」

「みんながみんなお前みたいに才能があるわけじゃ無いんだよ。」

諭すように俺は言った。


こいつは中学の頃から必死に勉強して今、全国模試でも上位を常に取るようにまで成績を伸ばした。

勉強しだした理由はよくわからなかったが、頭がいいのはいいことだ。毎度毎度テストで平均以上の点数を取れるのも

テスト前に美鈴に勉強を教えてもらっているからだ。お節介っと言いつつも、それは裏を返せば面倒見がいい事だ。

美鈴の短所でありながら長所にもなるだろう。



 結局、いつものように美鈴に教えられながらこの日も授業は終わった。

美鈴は生徒会に入っており、放課後も色々と忙しそうだった。

何も部活に入っていない帰宅部の俺と菊池は最近発売した人気の高いゲームを買いに行く事になった。

モンスターを狩りながら生活をして狩人になる、あのゲームである。

大人気な事もあり、どこもかしこも売り切れで二人ともなかなか手に入らなかった。

今日こそは!っと町中の電気屋やゲームショップをうろつくことにした。




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