第八章節 いつかのどこかで
——あの夏から三年。私は近所の大学の文学部に通っている。あれから猛勉強して、なんとか現役合格してみせた。葵はそこの教育学部に通っている。どれだけ忙しくなっても水曜日の勉強会は続けようと二人で決めたため、最近の集合場所はもっぱら大学の図書館だ。ちなみにみどりは気まぐれに現れる。一人でいても会いにくることはあるが、大体は勉強会の帰りに二人でいるときにやってくる。今日も二人で帰っていたらひょっこりと現れたので、三人で談笑している。
「そういえば朝顔、最近小説はどんな?」
「うーん、可もなく不可もなくって感じかな。一応週一投稿は続けてるんだけど……」
そう、私は今小説投稿サイトに小説をアップしている。小説家になると決めた頃から興味はあったが、大学入学を機に始めてみたのだ。
「ねぇ、そろそろユーザー名教えてくれてもよくない?作品名でもいいんだけど」
「恥ずかしいからまだダメ」
「えー、けち」
「人の子が綴る物語か。我も興味があるな」
「ほら、みどりも言ってんじゃん」
「ダメなものはだめですー」
こればっかりはいくら二人でも教えられない。
「じゃあさ、せめてどう言う系か教えてよ。ジャンルとかさ」
「ジャンルって言っても色々書いてみてる途中だしなぁ」
それくらいならいいかと思ったが、駆け出しの自分にはむしろそのほうが難しい。何かないか、そう考えてふと思いつく。
「ジャンルとかではないけど、書くときに意識してることならあるよ」
「ほう、なんだ?」
相変わらず偉そうな物言いのみどりに聞かれ、答える。
「読み終わった後に、誰かに優しくしたいと思えるお話」
「へぇー、いいね!」
「ああ、人の子らしい信念だ」
「信念ってほどのものでもないけど」
そんな高尚なものではない。ただ、そんな話を書き続けていればいつかは彼に——ゆうりに会えるような気がしたというだけだ。まだ彼に言えてないことがたくさんあるから。ごめんもありがとうも、それから……大好きも。何一つ言えていないから。彼が生きていたとして、もう二度と命の危険に晒されずに済むために。私にできることは限られているから。だから私は願いを込めて言葉を綴る。
あなたが幸せでありますように、と。
「——♩———♩」
風に乗って、懐かしい歌声が聞こえた気がした。
fine.




