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第三章節 見知らぬ歌声

 駅に着く。改札を抜ける。電車に乗る。スマホを開く。家の最寄駅に着く。降りる。いつも通りの日常。

 改札を抜ける。ちょっと歩く。家への道から少しそれる。いつも通りの日常。

 家から駅の間にある大きめの公園。その中にある、山というには少し小さい木々の生い茂る小高い丘。人のいないこの丘であてもなくただぼーっとする。いつも通りの日常。

 今日はどうしよう。どこかに座るか、ふらふら歩くか。花とか見たいな。歩くか。どこかに咲いてないかな。

「——♩———♩」

何か聞こえる……歌?このあたりに人がいるなんて珍しい。ましてや歌っているなんて。人と会うのは嫌だな。

「…………」

会いたくはない、けど。すごく惹かれる歌だなぁ。聞いたことはないのに。どこか懐かしいような、そんな歌。少し。ほんの少しだけなら、近づいても大丈夫だろうか。そんなことを考えながら、私の脚はいつのまにか歌声の聞こえる方へと向かっていた。



 ……おかしい。どれだけ歩いても歌っている人の姿が見えない。声は確かにこのあたりからするのに。この丘はそこまで広くないはず。となると、私の知らない抜け道があるとか?いや、さすがにただの公園にそんなのないか。

「——♩——♩……」

歌声も途切れてしまった。いや、別に残念とかではないけど。この辺で歌ってるのがちょっと物珍しかっただけだし。散々歩き回ったのになにもなかったのが悔しいだけだし。

「……」

自覚すると一気に歩き回った疲れが襲ってきた。どっか座るか。あの木の下とかちょうどいいかな。

「はぁ」

一息ついて、目を閉じる。頭に浮かぶのは、さっきのあの歌。もう少しだけ、聞いていたかった。おかしいな。普段は歌とかあんまり興味ないのに。あの歌だけは、なぜかすごく惹かれる。どんな感じだったっけ、あの歌。たしか——

「—♩———♩」

「いい歌だな!」

「うわぁ!」

突然聞こえた少年と青年とも言い難い声に急いで目を開けてあたりを見渡す、が……

「誰!?どこにいるの?」

「え、いや君の方こそどこにいるんだ?」

どういうこと?私も相手もお互いの姿がみえていない?

「なあなあ。俺がずっと声出しとくからさ、耳澄ましてどこから聞こえるか探してくんない?」

「えっ……まぁ、いいよ」

顔もわからない他人の言う通りにするのは少し怖いけど、今はそれが得策だろう。目を閉じて、音に意識を集中させる。

「じゃ、いくぞー!——♩———♩」

その瞬間、思わず目を開けて立ち尽くす。顔も名前も知らない少年(仮)は、あの歌声の正体だったらしい。いや、冷静に考えれば当然だろう。謎の歌声も謎の少年(仮)の声も、このあたりから聞こえるのだから。でも、印象が違いすぎる。普通に話している彼は元気のいい少年なのに、歌声になると……何と言えばいいのだろう。優しくて、穏やかで。音楽に詳しくない私でも綺麗な歌声だとわかる。

「どうだ?見つかりそうか?」

声をかけられ、はっとする。歌に聞き入るあまり、本来の目的を忘れてしまっていた。

「ごめん。あとちょっとかかりそう」

「おっけー!——♩———♩」

幸い少年(仮)は怪しむことなく歌を続けてくれた。私も今度こそ音に集中する。目を閉じたまま、声の出どころらしき方向に手探りで近づく。何かにぶつかる。声もよく聞こえる。おそらくここだろう。意を決して目を開ける、と……

「えっ」

「ん?見つかったのか?」

「た、ぶん……?」

声は、小さな木の洞から聞こえていた。

どうやら私のいつも通りの日常は、いつまでも続いてはくれないらしい。

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