楓丹廷奪還戦
フォンテーヌ宮廷、戦火の中:茨姫と赤兎の反撃
フォンテーヌ宮廷に秋の気配が深まり、運河両岸のプラタナスの葉は金と紅に染まり、さざ波の光に映えていた。水の都にとって本来、最も心地よい季節のはずだ。しかし今、都市全体は抑えつけられた緊張に包まれていた。城門は固く閉ざされ、城壁には「袁」の字が染め抜かれた大旗が翻り、甲冑をまとった兵たちが街道を練り歩き、民は戸や窓を堅く閉ざし、空気にさえ不安のにおいが充満していた。
袁紹の大軍が数日にわたり城を包囯して以来、フォンテーヌ宮廷内部の抵抗は日を追うごとに弱まっていた。守備軍の弾薬は底をつき、食糧もわずかとなった。城内の複雑な水路と堅固な建築工事で辛うじて持ちこたえているだけで、とっくに陥落していてもおかしくない状況だ。一方、袁紹軍はなかなか攻め落とせないものの、城外の食糧と糧草が潤沢なことを頼りに、攻めずに囲み込んで城内を餓死させる構えを見せていた。これを見て、地下の避難所に潜む茨姫会の首領・ナヴィアは心を焦がしていた。
茨姫会の地下拠点は四方に通じ、フォンテーヌ宮廷の各所の隠された隅々につながっている。ナヴィアは動きやすい皮甲をまとい、先祖伝来の剣を手に強く握りしめ、地上から漏れ聞こえる微かな喧騒に眉をひそめていた。彼女の身辺の用心棒たちは皆、面持ちが険しかった。茨姫会に忠義する勇士たちはすでに堪えきれず、首領の一声があれば飛び出して敵軍と斬り合う覚悟だった。
「首領!上の者から連絡が入りました。袁紹軍の糧草大営に……何か異変があるようです!」
全身に土埃をまとった斥候が転げるように拠点に飛び込み、興奮で声を震わせた。
ナヴィアは猛然と頭を上げた。
「詳しく言え!」
「火です!沈玉谷の穀倉の方角から、天を冲く炎が上がっています!しかも殺陣の声、どうやら……内紛か?それとも誰かの奇襲か?とにかくひどく混乱しています!」
ナヴィアの瞳に鋭い光が宿った。フォンテーヌ宮廷が包囲され、外部の援軍が袁紹軍の防線を突破することはほぼ不可能。穀倉の火災はきっと敵軍内部の変事か、あるいは……思いがけない変数だった。いずれにせよ、これはフォンテーヌ宮廷にとっての好機だ!
彼女は即断即決、剣を抜いた。剣身は薄暗い地下拠点の中で冷たい閃光をはなった。
「諸君、好機が来た!袁紹軍は糧草を焼かれ、必ずや軍心が乱れる。これこそ我々がフォンテーヌ宮廷を奪還する絶好の機会だ!我が命を伝えよ。戦える者は全員直ちに集合し、三号ルートを通って城中心広場へ一気に襲いかかれ。あそこは袁紹軍の指揮中枢の一つだ!さらに城内の残存守備軍に連絡を取り、茨姫会が反撃に出ることを告げ、我々と協力して内外から挟み撃て!」
「へぇっ!」
用心棒たちは力強く応え、長らく抑え込まれていた士気が一気に爆発し、次々と武器を取ってナヴィアに従い、地上へ潜行していった。
地下通路の先は廃墟となったワインセラーだった。重い石板を押し開けると、そこはちょうど城中心広場の縁だった。広場は予想通りひどく混乱しており、袁紹軍の兵たちが三々五々集まって穀倉焼失の知らせを噂し合い、多くの者が青ざめていた。糧草を頼りとする大軍にとって、糧切れは死刑宣告に等しい。数人の士官が秩序を立て直そうとするが、兵士たちの不満の声に呑み込まれていた。
「仕掛けろ!」
ナヴィアが低く喝破し、真っ先に影から飛び出した。剣は稲妻のように鋭く、呆然としていた敵兵一人の喉元を一瞬で貫いた。
茨姫会の用心棒たちはその後に続き、抜き身の刃のように敵陣に斬り込んでいった。彼らはフォンテーヌ宮廷のすべての道、曲がり角を熟知しており、地形を利用して奇襲を仕掛けた。屋根から飛び降りたり、路地裏から襲いかかったりし、もともと動揺していた袁紹軍をさらに狼狽させた。残存するフォンテーヌ守備軍も連絡を受け、各建物から飛び出して茨姫会の者たちと合流し、殺陣の声が瞬く間に広場全体に響き渡った。
「落ち着け!みな落ち着け!たかが糧草が焼けただけだ、何を慌てる!」
屈強な武将が怒鳴り、隊列を立て直そうとしていた。彼こそ袁紹麾下の部将・蒋奇だ。彼は大刀を振り回して襲いかかるフォンテーヌ兵二人を斬り倒そうとしたが、俊敏な影に行く手を阻まれた。
「蒋奇、相手は俺だ!」
ナヴィアは剣先を蒋奇に突きつけ、瞳に復讐の炎を燃やしていた。この男こそ、部下を率いて茨姫会の拠点を襲撃し、数人の仲間を殺害した張本人だ。
蒋奇は相手が女と見て、瞳に軽蔑の色を浮かべた。
「黄毛の娘め、我が行く手を阻むとは?」
大刀を横に払い、風切り音を立ててナヴィアに斬りかかる。
しかしナヴィアは力でぶつからず、蝶のように身を軽やかに動かし、広場に散らぶ貨物箱を縫って身をかわし、手中の剣で隙ばかりを突いた。蒋奇は腕力だけが頼りで、狭い地形では実力を発揮できず、数合わせする間に息切らし、体には数か所の傷が増えていた。ナヴィアは隙を見て手首を翻し、剣を彼の脇下から刺し入れ、心臓まで貫いた。蒋奇は信じられないように目を見開き、がくんと地面に倒れた。
蒋奇を討ち取ったことでフォンテーヌ側の士気は大いに高まった。一方、袁紹のもう一人の部将・韓猛が一隊の兵を率いて逃げ出そうとしていた。糧草焼失の意味をよく知る彼は、一刻も早くフォンテーヌ宮廷を脱出して袁紹に報告したかった。しかし城門にさしかかったところで、茨姫会の精鋭用心棒数人に行く手を阻まれた。
「韓将軍、逃げるとは?まず我々の剣が承知しない!」
先頭の用心棒は冷ややかに笑い、刀を振り上げて韓猛に斬りかかった。韓猛は必死に抵抗したが、配下の兵たちはすでに戦う気力を失って次々と敗走し、孤立無援となった末、城門の下で乱刀に斬り殺された。
城中心の戦いは熾烈を極め、フォンテーヌ宮廷の反対側でも同じく息をのむような殺陣が繰り広げられていた。
関羽は青龍偃月刀を手に、赤兎馬にまたがり、眼光は電光のように鋭かった。彼は一時的にフォンテーヌ宮廷に滞在していたが、折しも袁紹の包囲と、呂布麾下の徐栄が軍を率いて猛攻してきたため、立ち上がって守備軍を援護していた。徐栄は武術に優れ、長槍を手に関羽と戦い、槍の影は梨花のように咲き乱れるが、関羽の山のように重厚な刀勢を破ることはできなかった。
「匹夫よ、我が軍の行く手を阻むとは!」
徐栎は長らく勝負がつかず焦り、槍さばきはますます苛烈になった。
関羽は冷たく鼻で笑い、偃月刀を猛然と沈めて徐栎の槍を払いのけ、続いて手首を翻し、刀身は空気を切り裂く音を立てて横に払った。徐栎は身をかわすことができず、肩に一撃を受け、悲鳴を上げて馬から墜ちた。関羽は馬を駆って近づき、一撃で首を刎ね、厳しく喝破した。
「徐栄は討ち取った!降参せぬ者はないか!」
徐栎の配下は主将の討死を見てたちまち敗走し、関羽は守備軍を率いて勢いに乗って追撃し、あっという間にこの一帯の敵軍を一掃した。
この報が呂布に伝わった時、彼は臨時に接収した城主府に立ち、顔色は青く凍っていた。糧草焼失、蒋奇・韓猛の戦死、徐栄の消息不明——一連の打撃に、彼はほとんど我を失っていた。猛然と拳を机に打ちつけ、怒鳴った。
「能無し!みな能無し!命を伝えよ、全軍反撃。このフォンテーヌ宮廷を蹂躙してやる!」
彼が甲冑をまとおうと振り返った時、背後から柔らかな足音が聞こえてきた。思わず振り返ると、日頃から身の回りの世話をしていた召使——青い髪にオッドアイの女・アレキノが、酒を入れた杯を持って立っており、唇に不思議な笑みを浮かべていた。
「将軍、怒るには及びません。一杯召し上がって休まれては?」
アレキノの声は柔らかだが、呂布の心に底知れぬ寒さを覚えさせた。
「お前……」
呂布が言葉を発するか否かの瞬間、突然、胸に激痛が走った。見下ろすと、小さな短剣がアレキノの手から彼の脇腹に刺さっていた。この短剣は非常に鋭く、しかも麻薬が塗られており、激痛と共に痺れる感覚が全身に急速に広がった。
「お前は……茨姫会の者か?」
呂布は驚きと怒りに身を震わせた。何ということか、無害に見える召使に奇襲を受けるとは思いもよらなかった。
アレキノは短剣を抜き、優しく上の血痕を拭いながら微笑んだ。
「将軍、フォンテーヌ宮廷は招かれざる客を歓迎しません。命を落とさぬよう、早くお去りください。」
呂布は驚愕と憤りに駆られたが、麻薬の効果で急速に力が抜け、戟を持ち上げる気力さえなくなりつつあった。アレキノの穏やかな瞳を見て、我が身はもはや万事休すだと悟った。このまま逃げなければ、本当にここで命を落としかねない。
「好……良くも茨姫会め!」
呂布は歯を食いしばり、無理をしてアレキノを押しのけ、よろよろと城主府を飛び出し、外の親衛に怒鳴った。
「逃げろ!全軍撤退だ!」
親衛たちは呂布の負傷を見て、問いただす余裕もなく、慌てて彼を守り城外へと撤退した。主将が負傷し撤退を命じたことで、もともと人心が動揺していた袁紹軍はたちまち潮水のように引き、我先にフォンテーヌ宮廷から逃げ出した。
城門の前、ナヴィアは敵軍が狼狽して逃げる背中を見て、ほっと息をついた。関羽が馬を進めて彼女のそばに来て、長い髯をなで、賞賛のように頷いた。
「ナヴィア首領、見事な采配だ。」
ナヴィアは穏やかに笑い、顔の血痕を拭った。
「関将軍、お言葉に甘えます。将軍の助力がなく、また……内応の者の尽力がなければ、ここまで順調にはいかなかったでしょう。」
彼女は「内応」の二文字を意図的に強調し、遠くの城主府の方角に視線をやった。
朝日が昇り、金色の陽光がフォンテーヌ宮廷の城壁に降り注ぎ、幾日もの陰鬱を払い散らした。民たちは戸や窓を開け、街道で戦場を整理する兵たちと茨姫会の面々を見て、生き残った喜びの笑顔を浮かべた。城門は再び開かれ、運河の船は再び帆を上げ、水の都はいつもの活気を取り戻した。
ナヴィアは城壁の上に立ち、遠方を眺めた。手中の剣は陽の光を受けて輝いていた。この戦いに勝利したものの、彼女は知っていた。フォンテーヌ宮廷の安寧は、より多くの者によって守られねばならない。茨姫会の旗は城主府の上空に再び翻り、この水の都の物語は、これからも書き継がれていく。




