翘英荘火戦
夜露が翘英荘の青い瓦に細かい玉となって結び、軒先から滴り落ちる時、ちょうど空の靴底の苔に落ちた。彼は腰の片手剣を押さえ、横にいる雲菫をちらりと見た。彼女の戯衣の裾が夜風になびき、刺繍の唐花紋が月光の下で鈍い銀色に浮かぶ。手に持つ改造された長槍はしっかりと地面に突き立てられ、槍先は穀倉外壁の夯土に斜についており、いつでも院内の静けさを突き破れそうだった。
「淳于琼の兵は西倉にいるはずよ」
雲菫の声は小さく押さえられていたが、芝居の時のようにはっきりと響いた。
「先ほど塀を越える時に数えたわ。東倉の提灯は二つ明かりがつき一つ消えているのに、西倉は四つとも点灯している。守兵の足音も濃いわ」
空はうなずき、指先を柄の上で滑らせた。
この荘に足を踏み入れてから、麦の香りと桐油のにおいが混ざった空気が漂っている。前者は山積みの穀倉から、後者は軍械庫の油に浸した矢じりや火薬樽から来るに違いない。西倉からは拳遊びの声が聞こえ、しわがれた笑い声と悪口が酒臭さと共に流れてくる。淳于琼の守兵は、ここを「後方の穀倉」などと軽んじているのが明らかだった。
「火縄紙、用意できた?」
雲菫はふと横を向き、鬢の真珠の花飾りがその動きで小さく揺れた。
彼女の瞳に遠くの灯火が映り、星を隠したように輝いていた。
「すぐにわたしが銅鑼を鳴らすから、君は隙に火をつけて。覚えて、まず軍械庫を焼くの。そこの火薬が穀倉の火をもっと勢いづけるわ」
空が「うん」と答えた直後、西倉の扉が「きい」と隙間を開けた。
甲をまとった兵卒が酒ひょうたんを提げてよろよろと出てきて、壁際で用を足そうとした時、ちょうど壁の影に紛れた衣角を目にした。
酔っ払った目で細め、声を荒げようとした瞬間、雲菫の長槍が稲妻のように刺し出た。
槍杆が彼女の手で美しい弧を描き、槍尾が的確に兵卒の後頸に叩き込まれ、男は一声も発さずにくたりと倒れた。
「手間が省けて助かるわ」
雲菫が槍を収める時、槍先の赤い房が兵卒の甲冑をなでた。
「淳于琼は本気で袁紹の言葉を信じ込んでいるようね。誰もこの穀倉に手を出せないとでも思っているようだ」
二人は腰を落とし、小山のように積まれた麦藁の間を抜けた。
足下の乾草が細かく音を立てる。西倉の門は少し開いたままで、中の騒ぎ声がいっそうはっきり聞こえてくる。
淳于琼のしわがれた声が「もう三杯飲め」とわめき、「将軍が酔いつぶれて、敵に忍び込まれたらどうするんだ」とのどやかし声も混じり、どっと笑い声が起こった。
雲菫は突然足を止め、懐から油紙に包まれたものを取り出した。
開けてみれば、堅く握り固められた紙玉がいくつか。中に硫黄と硝石が詰まっている。
「これ、翘英荘の茶農がこっそりくれたの。火がつくと爆ぜるから、合図代わりになるわ」
彼女は紙玉を半分空に渡し、自分は二つ袖にしまった。
「すぐにあちらの櫓へ行くわ。銅鑼を鳴らしたらこれを投げ落とす。もっと勢いがつくわ」
空は紙玉を握りしめ、指腹で中の粒の角を感じた。
雲菫が長槍を持って櫓の方へ歩く姿を見た。戯衣の水袖が闇の中で弧を描き、一番手軽な忍び服よりも物音ひとつなかった。
彼女の影が櫓の闇に消えた時、空は深く息を吸い、振り返って軍械庫の方へ回った。
軍械庫の扉は鉄板張りで、錠はひどく錆びついていた。
空は剣を抜き、剣脊で鍵穴を二回かき回すと、「カチャ」と軽い音がして錠が開いた。
扉を押し開けた瞬間、強い桐油のにおいが襲ってきた。月光の下で内部を眺めれば、壁際には矢筒が列を成し、中央の木の棚には油布が重ねられ、一番奥の隅には黒い樽が十数個静かに立っていた。
「火」と書かれた札が闇の中で不吉な赤みを帯びて浮かんでいた。
火縄紙を取り出し、息を吹いて明かりをつける。
炎が手のひらで踊り、隣の穀倉の輪郭が映し出された。矢筒の山に投げ込もうとした時、突然外から慌ただしい足音が響き、淳于琼の怒鳴り声が重なった。
「そこの誰だ!」
空は心を締め、火縄紙を矢筒の山に投げ入れ、すぐに扉の外へ飛び出した。
炎が油に浸った矢竿を舐め「ボウ」と大きな火柱が上がる。
扉を出た瞬間、背後からパチパチと破裂音が聞こえた。
あの紙玉だ!雲菫の合図は思ったよりずっと早かった。
櫓の銅鑼が「カーンカーン」と響き、雲菫の声が銅鑼の音に混じって空を裂くように響いた。
「火事だ!敵軍が穀物を奪いに来た――」
淳于琼の兵たちはさながら慌てふためき、刀槍を持って西倉からあふれ出し、火の最も激しい軍械庫へ無秩序に殺到した。
空はたまたま群衆に衝突し、片手剣で太刀筋を描き、真っ先に突っ込んできた二人を払い落とした。
その眼角に、雲菫が櫓から飛び降りる姿が映った。長槍で地面を蹴って穀倉の上に跳び上がり、いつの間にか松明を手にし、穀倉を覆う油布に火をつけていた。
「あの女を捕まえろ!」
淳于琼の大きな声が混乱の中でも耳障りに響く。
大刀を提げて追いかけてきて、酒臭さと汗のにおいが襲ってきた。
「俺の穀倉を焼きやがって、斬り殺すぞ!」
雲菫は穀倉の上で軽やかに跳び回り、戯衣の裾が火の粉に小さく穴があいても気にしない。
振り返った時、ちょうど淳于琼の刀の風を受けたが、慌てず旋回して躱し、長槍を脇の下から刺し出した。
槍先が淳于琼の首筋を掠め、風圧が兜の赤い房を払い落とした。
「淳于将軍こそ、ご自分の身をお守りなさいよ」
彼女の声には笑みが滲みつつも、鋭さが隠されていた。
「この火が消せなければ、袁紹様が弁解を聞いてくださると思う?」
淳于琼は怒りを爆発させ、吼えて刀を振り上げたが、足下の穀倉の縁が既に燃え上がっていることに気づかなかった。
空は隙に背後へ回り、火の光の下で剣刃が冷たい弧を描き、刀の背に叩きつけた。
淳于琼の刀は衝撃で手から飛び出し、拾おうとする間もなく、雲菫の長槍が首元に突きつけられた。
槍先の冷たさが喉元に触れ、酔いが一気に醒めた。
「おのれ……誰の手下だ!」
淳于琼の声は震え、目は勢いを増す炎に釘付けになった。
軍械庫の爆発音は連続し、炎と黒煙が夜空へ巻き上がり、翘英荘の半分を朱色に染めていた。
穀倉の油布が燃え移り、麦藁と穀物がパチパチとはじけ、火の粉が雨のように四方へ飛び散った。
雲菫は答えず、ふと横を向いて空を見た。
空は意を汲み、懐から残りの火縄紙を取り出し、隣の穀倉いくつかに投げ入れた。
炎が地面に落ちた瞬間、風が急に強まり、火勢をさらに煽り上げた。
遠くの厩舎までも火柱が上がり、馬が驚いて嘶き叫ぶ。
「行きましょう」
雲菫は長槍を引き、槍杆で淳于琼の膝裏を叩き、彼がひざまづくのを見てから、空に手を差し伸べた。
「龐統先生が仰ってたわ。火が上がったら東へ撤退。趙将軍たちがそこで待ち構えてくださるはずよ」
空が彼女の手を握った時、指先が少し熱かった。
さっき松明を持っていたせいだろう。
二人は慌てふためく人波を逆に進んで東門へ走り、背後の炎が二人の影を長く地面に引き伸ばした。
淳于琼の怒鳴り声と兵士の叫び声は、やがて炎の轟音に呑み込まれた。
荘口まで走った時、雲菫は突然足を止め、振り返った。
炎の中、翘英荘の軒先がパチパチと音を立て、かつて穀物で満ちていた倉は既に火の海と化していた。
軍械庫の方からは鈍い爆発が断続的に響き、地面まで震えていた。
彼女の戯衣は煙に煤けて灰色になり、顔にも黒い煤がついていた。
だが空の方を振り返った時の笑顔は、見事な芝居を演じきった役者のように輝いていた。
「ほら、『夷陵問』の連営焼き討ちより、ずっと華やかでしょ」
空は彼女の瞳に踊る炎を見て、この夜の煙と炎が、どんな舞台よりも鮮やかに生きていると感じた。
彼は手の剣を握りしめ、雲菫に続いて東の密林へ走り出した。
背後の翘英荘は巨大な火塊と化し、二人の進む道を照らし出していた。




