渡谷待ち伏せ作戦
須弥烽火録
砂塵が空を覆い、夕陽は血のように赤かった。黄忠はたった一騎で丘の上に佇み、手にする大刀からはまだ血が滴り落ちていた。先ほどの侯成との一戦は勝利を収めたものの、彼の体力はかなり消耗していた。遠くからは土煙が巻き上がり、呂布の大軍が潮水のように押し寄せ、馬蹄音が大地を震わせていた。
「来るがいい!」
黄忠は一声どなり、瞳に恐れの色は微塵もなかった。正面から呂布の大軍と渡り合うのは卵で石を打つようなものであると心得、彼らを待ち伏せの地へ誘い込むしか、生き残る望みはないと悟っていた。そこで馬の首を転じ、須弥・離渡谷の方角へ疾走していった。
呂布は赤兎馬にまたがり、遠ざかる黄忠の背中を眺めて冷ややかに笑った。
「黄忠の老いぼれめ、今日がその命日だ!」
腹に力を込めて馬を走らせ、部下を率いて隙かず追いかけた。
須弥・離渡谷は地形が険要で、両側には高い山がそびえ、中央には狭い谷道が通っている。ティナリとコレイはすでに須弥軍を率いて谷の上に待ち伏せしていた。ティナリは弓を手に、谷口の方角に瞳を凝らし、コレイは武器を固く握りしめ、緊張しつつもわくわくしながら待ち構えていた。
「ティナリ師匠、本当に彼らは来てくれるのでしょうか?」
コレイが小さな声で問いかけた。
ティナリは穏やかに微笑み、声をひそめて言った。
「心配するな。黄忠将軍にはきっと彼らを引き寄せる術がある。我々は機を待ち、忘れられない“驚き”をプレゼントするだけだ」
間もなく、黄忠の姿が谷口に現れ、続いて呂布の大軍が押し寄せた。黄忠は谷道に入った後、わざとスピードを緩め、時折振り返って挑発した。呂布は怒りを買い、さらに軍を急がせ、この狭い谷道に潜む危険をまったく顧みなかった。
呂布軍の大半が谷道に入り込んだ時、ティナリは一声の号令をかけた。
「放て!」
一斉に無数の矢が雨のように谷の上から降り注いだ。呂布軍はたちまち混乱し、悲鳴が次々と上がった。
魏続と宋憲は呂布配下の猛将として、即座に兵士たちを指揮して反撃しようとした。武器を振るい、効果的な防御態勢を敷こうと躍起になったが、この狭い谷道では兵力が展開できず、ただ受け身で打撃を受けるばかりだった。
黄忠は機が熟したと見計らい、馬の首を返して呂布軍に斬り込んでいった。大刀は風を切って舞い、一撃一撃に鋭い気勢が込められ、多くの兵士が次々と刀下に倒れた。
魏続はそれを見て怒りを込めてどなり、馬を走らせて黄忠に襲いかかった。黄忠はあわてる様子もなく、身をかわして魏続の攻撃を避け、続いて大刀を振り抜き、急所を狙った。魏続は慌てて槍をかざして受け止めようとしたが、黄忠の力はあまりに強く、腕がしびれてしまった。魏続が一瞬たじろいだ隙に、黄忠は好機を捉え、一刀を肩に斬りかかった。魏続は悲鳴を上げ、馬から墜ちた。
宋憲は魏続が負傷したのを見て心を焦がし、駆けつけて助けようとした。コレイは好機を見計らい、谷の上から飛び降り、宋憲の目前に舞い降りた。宋憲は目の前の少女を見下し、軽蔑した声で言った。
「青髪の小娘が、我が行く手を阻むとは!」
言うと、槍を構えてコレイを突き刺した。
コレイはしなやかに宋憲の攻撃をかわしつつ、反撃の機をうかがっていた。ティナリ師匠に教わった戦術を思い出し、宋憲の隙を見つけると素早く手を伸ばし、手にする武器で腰元に強く突き刺した。宋憲はコレイがこれほど身のこなしが軽快とは思わず、不注意から一撃を受けてしまった。傷口を押さえ、よろよろと後ずさった。
この時、ティナリも谷から降り、弓を構えて矢を引き、宋憲に狙いを定めて放った。宋憲は間に合わず避けられず、矢が喉元に貫かれ、即座に息絶えた。
呂布は二将が討ち取られたのを見て激しく怒り、方天画戟を振るって包囲を突破しようとした。しかし須弥軍の攻勢はますます激しくなり、谷道の制約も相まって、呂布軍は死傷者が続出した。
「引き上げ!」
呂布はやむを得ず撤退を命じた。心の中では歯ぎしりをし、必ずこの仇を取ると誓った。呂布の撤退と共に、須弥軍は見事に勝利を収めた。
黄忠、ティナリ、コレイは谷の中で合流し、皆の顔に勝利の喜びが浮かんでいた。
「二人の待ち伏せがなければ、今日はきっと敗北していた。感謝する」
黄忠は感謝の意を述べた。
ティナリは笑って首を振った。
「将軍、お世辞を言うには及ばない。これは皆の協力の賜物だ。ただ、呂布は敗れたとはいえ、簡単には諦めまい。今後の準備を怠ってはならない」
コレイは隣でわくわくしながら言った。
「今度来られても、きっとまた勝てるよ!」
夕陽の残光が三人に降り注ぎ、この得がたい勝利を照らし出した。須弥・離渡谷のこの戦いはやがて伝説となり、この地に語り継がれることだろう。そして彼らを待ち受けるのは、さらなる未知の試練と戦いであり、共に手を取り合って須弥の安寧を守り続けるのであった。




