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望舒宿屋の戦い

望舒残焔


(ぼうしょくざんえん)


戦火の渦巻くこの大陸にあって、璃月の情勢は既に雨風に晒され揺れ動いていた。張郃の軍は荒れ狂う波のように望舒客栈へ押し寄せ、ここを守る璃月の残軍を狙っていた。その残軍の中に、しょうという戦士がいた。彼は死を覚悟し、この苛烈な戦いに臨もうとしていた。


望舒客栈——山間に佇むこの建物は、かつて行き交う旅人の憩いの場であったが、今や戦線最前線の拠点と化していた。硝は客栈の屋根に立ち、冷ややかな瞳で遠くに立ち昇る猛り立つ煙塵を眺め、張郃軍が来たことを悟った。彼の手は思わず腰の長刀を握りしめた。その刀は幾多の生死を共にし、刀身の欠けは、彼の戦いの勲章そのものであった。


「諸兄、用意せよ! 今日こそ、我々は璃月のために戦う最後の時なのだ!」


硝の低く力強い声が、残軍の士気の中に響き渡った。兵士たちは衣もボロボロで疲弊していたが、瞳には確かな決意の光が宿っていた。彼らは璃月の守り手であり、絶望的な状況にあっても、決して退くことはなかった。


張郃軍の先鋒は間もなく望舒客栈に到着した。先頭の将は高馬にまたがり、手の槍を一振ると、兵士たちは飢えた狼のように客栈へ襲いかかった。硝はこれを見て一声の雄叫びを上げ、真っ先に屋根から飛び降り、黒き稲妻となって敵中へ斬り込んだ。長刀は風を切り、一振るごとに敵の悲鳴と飛沫の血が舞った。


「討て!」


璃月残軍もこぞって斬りかかり、張郃軍と熾烈な白兵戦を繰り広げた。客栈の庭はたちまち刀光剣影に包まれ、哄の声が天を衝いた。硝は敵中を右往左往し、その刀法は凄まじく鋭く、敵は次々と倒れていった。だが張郃軍は数において圧倒的で、波のように幾重にも押し寄せてくる。


戦いが長引くにつれ、璃月残軍の死傷者は増え続けた。硝も体に数々の傷を負い、衣は血に染まったが、彼はそれに一切気付かず、なお狂ったように戦い続けた。瞳には怒りと無念の炎が燃え上がり、璃月がこのまま陥落することも、戦友がこのまま命を落とすことも、どうしても許せなかった。


「諸兄、退くわけにはいかぬ! 璃月の栄光のために!」


硝は声高らかに叫び、身辺の戦友を鼓舞した。その声は混戦の中でも鮮やかに響き、残軍に大きな勇気を与えた。


張郃軍の主将は、なかなか攻め落とせず苛立ち、自ら精鋭を率いて戦いに加わった。彼の槍は毒蛇のように硝を狙って刺してくる。硝は身をかわして致命の一撃を避け、逆に一閃、主将へ斬りかかった。主将は慌てて槍で受け止め、「カーン」という甲高い音と共に火花が散った。


二人は何十合も渡り合った。硝は勇猛ではあったが、既に多くの傷を負い、次第に力尽きかけていた。主将はその隙を見て槍を一気に放ち、硝の胸を狙った。硝は避けきれず槍に貫かれ、身体ごと後方へ吹き飛ばされた。


「硝殿!」


残軍の兵士たちは悲鳴を上げた。


硝は地面に倒れ、口から血を噴き出した。空を仰ぎ、瞳には微かな未練が宿った。璃月の山河の美しさ、かつて共に笑い、共に戦った戦友たちの姿が脳裏をよぎった。彼は、もうすぐ命が尽きることを悟った。


「俺は……倒れる……わけには……」


硝は最後の力を振り絞り、よろめきながら立ち上がった。長刀を掲げ、敵へと斬りかかった。その姿は、夕陽の残照の中で殊更に悲壮に見えた。


主将はこれを見て再び槍を振り上げた。硝は今度は身をかわすことなく、槍に向かって飛び込み、自らの胸でその一撃を受け止めた。それと同時に、手にした長刀は主将の首筋へ勢いよく斬りかかった。


主将は目を見開き、驚きと共に徐々に倒れた。硝もまた倒れ、その手には今もなお長刀がしっかりと握られていた。


硝の戦死を見た璃月残軍は、怒りと悲しみに胸を裂かれた。彼らは我先に敵へ斬りかかり、張郃軍と最後の死闘を繰り広げた。最終的に望舒客栈の残軍は全員戦死したが、その命をもって璃月の抵抗史に、悲壮な一編を刻んだ。


張郃軍は望舒客栈を占領したが、地面に敷き詰まった屍を前に、璃月残軍の潔猛な抵抗に思わず畏敬の念を抱かずにはいられなかった。そして硝の物語はこの地に語り継がれ、璃月の人々の心に、永遠の英雄伝説として生き続けることとなった。

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