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魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません  作者: 石月 和花
ロキシード視点

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10. 覚悟と涙

 寄宿学校に寄った帰りの馬車の中で、僕の隣に座るアディルナは、難しい顔で黙り込んでいた。


 恐らく先ほどの子供達とのやり取りを思い出しているのだろうとは思ったが、僕は憂いを帯びた彼女に声をかけた。


「アディルナ、何を考え込んでいる?」


 僕が声をかけると、アディルナはハッとした顔をして、こちらを向くと、どこか遠慮がちに僕に尋ねた。


「……殿下、私ずっと気になってました。そもそも、なぜ王家は黒龍の封印を掛けなおさないのですか?前回の封印から今年で五十年です。通例ならとうに新しい封印を掛けている周期ですわ」


 それは、簡単には答えられない質問だったので、僕はアディルナの言葉に、わずかに固まってしまった。


「……それを、知りたい?」

「えぇ、知りたいですわ」


 僕は困惑しながら、僕の顔をじっと見つめる彼女を見返した。

 いつも恥ずかしいと直ぐに目を逸らす彼女が、強い意志を眼差しに乗せて目を逸らさなかった。


 そんな風に彼女に見つめられては、観念するしか無かった。

 僕は小さく息を吐くと、とても真面目な顔で、重々しくその理由を語った。


「それは……今の王家では、封印の儀式をするのに一人足りないんだ」


 僕がそう言うと、彼女の動きが止まった。


 流石に今の話が、国家機密であると気付いたようだ。

 

 彼女は分かりやすいくらい青ざめて、恐る恐る僕に尋ねた。


「私今、とんでもないことを聞いてしまいましたか?!」

「……聞いたのは君だよ」


 思ってた通りの反応に、僕は少しだけ呆れながら話を続けた。


「この儀式には女神イーオルヴの祝福を受けた王家の血を引く八人が必要だ。けれども、その資格を持つ叔父が出奔してしまって行方知れずで……」

「そんな状況だなんて、私知りませんでした……」

「まぁ、極秘事項だからね。」


 ここまで説明すると、彼女は押し黙った。

 恐らく、事の重大さに気付いたのだろう


 しかし、彼女の反応は予想の斜め上を行くのだった。


「本当にごめんなさい、そんなことになっているとは知らず……。私、もっと早くに身を引くべきでしたよね……」


 (なんでそうなる??!)


 僕は信じられないという気持ちで、目を丸くし、彼女を見遣った。

 

「はぁ?なんでそうなるんだ?!」


 流石の僕も、そんな事を彼女の口から聞きたくなくて、思わず大きな声を出してしまった。


(そう思うのなら、なんでそんな辛そうな顔をするんだよ……)


 唇をかみしめて俯いている彼女の言動と表情はチグハグだった。

 僕は慈しむような目で彼女を見ると、アディルナは伏せ目がちに話を続けた。


「だって……儀式を出来る人間が一人いなくなってしまったのでしょう? ということは、早急にお世継ぎが必要なのではありませんか? 私……その邪魔をしてしまって……」


 あまりのことに、僕は彼女が言い終わる前に言葉を被せた。


「なんで君の考えはそう飛躍するんだ!普通に考えて、居なくなってしまった叔父を探して連れ戻す手を打つだろう?!それに、血と魔力は弱くなってしまうが降嫁した叔母やその子供たちにだって一応は資格があるんだ。王家は、今八人目を誰にするかで揉めているんだよ!!」

「そ……そうなんですね……」


 気づけば僕は、普段付けている王太子の仮面をかなぐり捨てて、感情的に勢いのまま言葉を発していた。

 そんな普段とは違う様子の僕に、彼女はたじろいでいたけれども、それでも、僕から目を逸らすことなく、真っすぐに見つめて、とても受け入れがたい意見を僕に伝ええた。


「それでも……やはり殿下は、早くリリエラ様かローゼリア様を婚約者に選ぶべきですわ。今のお話を聞く限り儀式を出来る人の数が少ないと思いました。なので……お世継ぎは早い方が良いと思います……」


 そう言うと彼女は、柔らかく微笑んでみせたのだった。


(そんなこと、微笑みながら言わないでくれ……!)


 彼女のその笑みを見て、僕の中の深い所にある気持ちが暗く沈んだ。


「あぁ、もう!そんなに言うんだったら君が――」


 君が産めばいいじゃないか!!

 思わず口走りそうになって、言葉を押し止めた。


 彼女の顔を見たら、何も言えなくなってしまったのだ。


「私が……なんですの?」


 彼女は、涙を流しながら、静かに微笑んでこちらを見ている。


 その表情に僕は息を呑んだ。

 そして、それと同時に泣いている彼女を見ていられなくて、僕は少し気まずく顔を逸らした。


「君が……なんで泣くんだ……」

「……泣いてません。見間違えです」


 僕が指摘すると、彼女は慌てて顔を隠した。

 どうやら、泣いている自覚がなかったらしい。


(泣くほどの事を、どうして彼女は口にするんだ……)


 そんな疑問が頭を過ぎったが、理由は分かり切っている。

 黒龍のせいだ。


 七年も一緒に居るんだ。彼女の性格は嫌と言うほど分かっている。

 彼女は、この国に暮らす人の事を本当に大切に思っていて、その為に自分の気持ちを犠牲に出来る人なのだ。


 重苦しい沈黙が馬車の中に落ちる。


 彼女に掛ける言葉を探したが、上手く見つからない。


 僕は、視線を外しながら淡々と事務的な言葉を伝えることしか出来なかった。


「……とにかく、今の会話はなかったことにする。僕が話した事も、君が言ったことも全部忘れるんだ。いいね?」

「……分かりましたわ」


 それ以降、彼女は侯爵邸に着くまで口を開かなかった。


(……もう少しだから。だからアディルナ泣かないでくれ……)


 次の赤い月の夜は三ヶ月後。僕はその日に黒龍を討つと今ここで決めた。


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