7. 大変特殊な御令嬢
お茶会の席で突然泣き出した令嬢、アディルナ・ハルスタイン。
こんな令嬢は、初めてだった。
普通の令嬢ならば、上辺だけの会話をして微笑んで見せるだけで上機嫌で喜んでくれるのに、彼女はどんどんと機嫌が悪くなり、終いには僕に意見までした。
あまりに新鮮な体験に、僕は思わず口から声が漏れてしまった。
「まぁ、こういうのも悪くはないね。」
それは純粋に僕の感想だった。
他意は無い。
ただ単に、今日のこの体験が珍しく得難い物だと思ったのだ。
けれども、僕の漏らした言葉は、どうやら彼女には悪い意味で捉えられてしまったようだった。
「……はい?」
彼女は、とても戸惑ったような顔で、僕が呟いた言葉を聞き返してきた。
この時の僕は、まだアディルナという令嬢の性質を理解していなかったから、何も考えずに、そのまま思ったことを口にしてしまった。
「私が思っていた通りに事が進まなかったのは初めてだよ。たまには予想外なことが起きるのも悪くはないね。面白かったよ。」
僕はなんの気無しに、本当の事を言った。
しかし、これがいけなかった。
彼女は一瞬きょとんとした顔をした後、一呼吸置いてから、また、感情的に声を上げたのだった。
「なんですって……?それではまるで、私が泣いたのが面白かったと仰っていますわ!」
「まぁ……結果的には、そうだね」
「そんなの、あんまりですわ!!」
大きな声を出した彼女に僕は驚いてしまった。
(えっ?僕そんなに酷いこと言ったか??)
僕はまたしても、全く彼女の考えている事が分からなかった。
誹謗するような言葉も、攻撃的な言葉も使っていないのに、何故僕は怒られているのだろうか。全くもって分からなかったが、しかし目の前の彼女が僕の言動によって傷付いたのは確かなようだった。
何故なら、気が付くと彼女はまた、涙をポロポロと零していたのだ。
「……殿下は、謝罪の言葉も弁明の言葉も掛けてはくださらないのですね……」
僕は思わず言葉を失い、彼女の涙にどう向き合うべきか迷った。
「悪かったよ、泣かないでアディルナ嬢。ほら、泣くと可愛い顔が台無しだよ」
すると彼女は間髪入れず顔を上げ、勢いよく言葉を返してきたのだった。
「心が籠っておりませんわ!」
「君は中々鋭いねぇ」
僕は彼女の反応に、内心軽くたじろいだ。
(これは……ちゃんと謝罪しないとこの場は収まらないな……)
仕方がないので、僕は目をつむって気持ちを集中させた。
そして僕は一瞬で真面目な表情になると、膝をつき、アディルナ嬢の手を取り目をじっと見つめて、誠意を持っているかのように、優しく語りかける調子で、謝罪の言葉を口にした。
「アディルナ嬢、悲しい想いをさせてしまって、ごめんね」
すると、またしても彼女は間髪入れずに僕の謝罪を否定したのだった。
「あっ……謝らないでください!貴方は王族なのですから!」
この反応には流石の僕も声を上げてしまった。
「謝って欲しいのか、欲しくないのか、一体どっちなんだい?!」
さっきから言動が全く読めない彼女に、僕は振り回されっぱなしだった。
僕はもう何が正解なのか分からなくなっていて、呆れた顔で、アディルナ嬢の顔をじっと見つめた。
「君みたいな、言動が読めない人は本当に初めてだよ……」
「それは光栄なことなのでしょうか?」
「そうだね、私を翻弄したんだ。誇っていいよ。」
「それは褒められているのでしょうか?」
「受け取り方次第だね。」
僕はこの大変特殊な御令嬢を、興味深く見つめた。
彼女はどこか不服そうな顔をしていたが、僕にそんな顔を向ける令嬢なんてこの国には彼女くらいしか居ないだろう。
(本当に、次は何を言うのか、全く予想が出来ないな)
僕は気付くと、彼女を見ながら自然と笑みが零れていた。
(婚約者候補のご令嬢と顔合わせなんて、退屈な時間を、これからずっと繰り返さないといけないかと思うと憂鬱だったが、彼女が居るならば楽しい時間になりそうだ)
そんな風に思っている自分に、少しだけ驚きながらも悪い気はしなかった。




