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魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません  作者: 石月 和花
ロキシード視点

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3. 辛くて甘い、二人の時間②

「さぁ、ロキシード様。クッキーを選んで下さいませ」


 彼女は勝負に再び集中すると、今度はまた、強気な態度で僕の行動を誘った。


(きっと六分の一なら僕が躊躇するだろうって思ってるんだろうな)


 そんな考えが透けて見えたけど、残念ながら彼女の期待通りには動いてあげない。


 僕は、手前から安全なクッキーを一つ摘まむと、躊躇なく口に頬張った。


「うん、美味しいね。」


 そう言ってにっこりと笑って見せると、彼女はとても悔しそうな顔でこちらを見ていた。

 そして直ぐに、負けるわけにはいかないという勢いで、二枚目のクッキーを掴んだのだった。

 

「あっ」


 その瞬間、僕は思わず声が出てしまった。だってそれが、違和感があるクッキーだったから。


 僕が声を上げた事で、彼女は明らかに動揺してこちらを見ていた。

 だから僕は、一応考え直すチャンスを彼女に与えた。


「アディ、本当にそれでいいの?」

「な、なんですの?!心理戦ですの?揺さぶりですの?そんな初歩的な手には惑わされませんわ!!」

「いや……まぁ君がそれで良いのなら、何も言わないよ」


 僕は一応忠告したけれども、彼女は頑なに自分の選択を変えなかったので、僕は彼女の選択を見守った。


 すると……


「辛いっ!!!!!」


 分かっては居たけど、彼女は悲鳴のよう声を上げて悶絶した。


(……思ってたより大分辛そうだな?!)


 彼女は涙目になりながら、必死で紅茶を飲み干していた。しかし、紅茶を飲み干しても、まだ口の中が辛いままみたいだった。


(……コレを僕に食べさせようとしたのか)


 嬉々として仕掛けた悪戯に自分が引っかかってしまう。

 そんな所が実に彼女らしくて、少し笑ってしまったが、直ぐに侍女を呼んで水差しを持って来させた。


 彼女は追加の水を受取ると、それも一気に飲み干した。しかし、それでもまだ、口の中が辛そうだった。


(……こんなに辛いのに、本当になんで毒味通ったんだ?)


 毒味役は後でじっくりと問い詰める必要がありそうだなと改めて考えながら、僕は涙目な彼女に同情を滲ませた声を掛けた。


「だから、それでいいのって言ったのに」

「なぜ、何故ですの?!何故殿下は分かったのですの?!」

「うーん。匂いとか?なんとなくそのクッキーだけ違和感があって」


 事実だからそう説明したけども、彼女は解せないと言った顔でこちらを見ていた。

 彼女は物凄く悔しそうでは合ったが、潔く自分の負けを認めた。


「く……悔しいですわ。今日も、ロキシード様を負かすことは出来ませんでしたわ……」


 物凄く分かりやすく落ち込んでいる彼女を見て、少し可哀想に思えてきた。

 彼女の百面相は見ていて楽しいが、悲しそうな顔は、あまり見たく無かった。


(今日の勝負に物凄く自信を持ってそうだったけど、それがあっさりと負けて……これは、手を打たないと暫く落ち込んだままだな)


 僕は長年の付き合いから、こうなってしまった彼女は、お茶会終了までずっとしょんぼりしてしまう事を知っていた。


 しかし、それだと実につまらない。


 僕は彼女のコロコロた変わる表情が見たかったし、何より、彼女には悲しい顔をしていて欲しくない。

 

 だから僕は視界に入ったこのクッキーで、彼女を甘やかすことにしたのだった。


「まぁ、僕としては大いに楽しませてもらったけどね。ほら、まだ口の中が辛いだろう?これを食べると良いよ」


 そう言って僕が残っていたクッキーを摘まんで彼女の口元に運ぶと、彼女はこちらを凝視し、顔を真っ赤にして固まった。


(……こういう事をするのは今日が初めてじゃないけど、いつまでも慣れないんだね)

  

 僕の突然の行動に固まってしまった彼女は、目を丸くして真っ赤な顔のまま口をぱくぱくさせていた。


「そ……そんな餌付けされるような真似出来ません!自分で食べれますわ!!」


 そう言って彼女は僕の手を押しのけて、自分でクッキーを摘まもうと手を伸ばしてきた。

 ……しかし、彼女が自分で食べてしまうのでは面白くない。


 だから僕はクッキーの皿をひょいと持ち上げて、彼女の手元から遠ざけたのだった。


「なるほど、餌付けか。ほら、アディ。食べてごらん?」


 先ほどよりも更に良い笑顔で、僕は彼女の口元にクッキーを運んだ。


 すると彼女は、目をギュッと瞑ると観念したかのようについに僕の手から一口クッキーを食べたのだった。

 その行動のあまりの可愛らしさに、僕は思わず頬が緩んでしまった。


「私、諦めませんから。いつか絶対、ロキシード様に『参った』と言わせてみせますわ!」

 クッキーを食べながらどこか恨めしい顔でこちらを見つめる彼女は、すっかり調子を取り戻していた。


 そんな彼女を、僕は目を細めて見つめた。


 愛らしいアディルナ。


 僕には婚約者候補の令嬢が三人いるけども、僕が隣に立って欲しいと願うのは彼女一人だった。


「そうかい、君が僕に勝てる日を楽しみにしているよ」


 僕たちのこの奇妙なお茶会は七年前から続いている。

 それは、僕たちが子供の頃にした特別な約束が理由だった。


(君が、僕に勝負を挑み続けてくれるなら、僕は負けるわけにはいかないね)


 実直な彼女は、きっと僕に『参った』と言わせるまで何度でも勝負を挑んでくるだろう。だから僕は、彼女がいつまでも僕に会いに来るように、絶対に負けないと心に誓っていたのだった。

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