1. 魔力無し令嬢と王太子
「ですから、魔力のない私がいつまでも殿下の婚約者候補でいるのは、この国のために良くありません!ロキシード様の温情は大変ありがたいのですが……この国の未来のためにも、私に情けは無用ですわ。さぁ、覚悟はできておりますから、いつでも私を候補から外すご決断をしてくださいませ!!」
「うん。まぁ、それについては追い追いね。」
「殿下はいつもそうやってはぐらかします!もっと真剣に聞いてくださいませ!王家には黒龍を封印する責がありますのよ?国を守るためには魔力のある王妃が必要なんです!魔力のない私にいつまでも構っているのは良くないですわ!!」
――このやり取り、何度目だろう。
陽の光が白い石畳に反射し、噴水の水音が静かに響く王宮の中庭で、僕の可愛い婚約者候補の令嬢は、今日も元気に喚いていた。
彼女はハルスタイン侯爵家の令嬢アディルナ。僕が十一歳の時に引き合わされた婚約者候補の一人だった。
そんな彼女は、最近はいつも会う度に自分を婚約者候補から外すようにと迫ってくる。
何故彼女がそのような事を言うのか、理由は分かっているが、正直言って面白くなかった。
だからつい、意地悪したくなってしまう。
僕は彼女のことをじっと見つめて、そして、甘い言葉を囁いた。
「アディは、僕とこうしてお茶を飲むのは嫌かい?僕は毎回楽しみにしてるんだけど」
「い、嫌なわけないですわ!わ、私だって毎回楽しみにしてますわ!!」
「良かった。僕だけが楽しみに思っているんじゃなくて」
こうしてニッコリ笑うと、決まって彼女は赤くなって俯くのだ。
そしてそれを誤魔化すように、ごくりと一口お茶を飲む……
本人は気付いてないみたいだけど、大体いつも同じ仕草をするんだよね。
それが面白く、そして愛おしかった。
ふと、顔を上げた彼女と目が合った。
僕はいつもの通りニッコリと笑いかけたけど、どうやらこの笑顔は彼女のお気に召さなかったようで、作り物の笑顔を返されてしまった。
(うーん、残念。僕もまだまだだな)
そんな風に心の中で彼女の笑顔を引き出さなかったことを反省していると、アディルナは嘘の笑顔を浮かべたまま言葉を続けた。
「殿下の楽しみと、私の楽しみは……恐らく種類が違いますわ」
「そうかな?」
「えぇ、そうですわ」
彼女は自信ありげに断言していたが、その認識は間違っていた。
どうも彼女は、僕は彼女の用意する勝負事が楽しいから彼女に会い続けているのだと思っているのだ。
十一歳から七年の付き合い。彼女の考えは良く分かっていた。
(でもまぁ、もう暫くは誤解してもらってた方が良いかな。アディは直ぐ顔に出るから)
そう、今はまだこの想いを彼女に知られるわけにはいかなかった。
それは、この国の古いしきたりのせいだった。王族の伴侶には高い魔力の保持者じゃないとならないという掟。
この掟のせいで、僕はアディルナを婚約者に指名出来ないでいる。
だから僕は、彼女の思い込み通り”勝負事を楽しんでいる王太子”の姿を演じた。
「それで、アディ。今日はどんな勝負事を用意してきてくれたんだい?」
僕がそう言うと、彼女は少しだけ悲しそうな顔をしたが、直ぐに元気になって、意気揚々と勝負を仕掛けてきた。
「えぇ。私、今日こそは殿下に『参った』って言わせる勝負を用意してきましたわ!覚悟してくださいね!!」
「へぇ、それは楽しみだ」
生き生きと話す彼女の姿を見るのが好きだった。だから僕は、今日こそは絶対に勝つと意気込んでいる彼女を、目を細めて見つめた。
(あぁ、本当に君は、見ていて飽きないな……)
僕がそんな事を考えているなんて露知らず、彼女は得意満面で侍女にクッキーを持って来させたのだった。
(ん??クッキー??)
相変わらず彼女のやる事は読めなくて、僕は内心苦笑しながらも、彼女の次の言動に期待で胸がいっぱいだった。




