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魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません  作者: 石月 和花
本編

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54. 赤い月の夜に

 その日の夜。


「アディルナ、ちょっといいかな?」

「お兄様?」


 夜も遅く、そろそろ寝ようかと思っていた頃にお兄様が部屋を訪ねてきたのだった。

 こんな夜更けに会いに来るのは、とても珍しかった。

 しかし、お兄様の珍しい行動はそれだけでは無かった。


「フィオネ、悪いけど外してくれるかな。ドアの外には居てよいから、暫くの間アディルナと二人だけにしてくれ」


 私の侍女さえも、部屋から出て行くように命じたのだ。

 私は普段とは違うお兄様の行動に戸惑ってしまった。


「人払いまでして、一体どうされたのですか?」


 部屋に二人きりになると、私は恐る恐るお兄様に尋ねた。

 いつもと違う雰囲気に身構えてしまったが、お兄様は普段と変わらぬ様子で、いつもの優しい眼差しを私に向けていた。


「あのお方から頼まれてね……」


 私の問いにお兄様はそう答えると、ポケットから丸い水晶を取り出した。

 私はそれに、見覚えがあった。


「これは……会話玉ですか?」

「そうだよ。今日のこの時間に使うように頼まれたんだ」


 会話玉――お互いが魔力を込めることで、遠く離れた場所に居ても会話することが出来る魔法道具。

 お兄様が何故それを持っているのか、そして何故私の部屋に来てそれを取り出したのかが、全く持って分からなかった。


 私が不思議そうな顔で首を傾けているのを尻目に、お兄様は会話玉に魔力を込めた。すると……水晶はぼぅっと白く光り、何か温かい波長のような物を感じた。


「こちらの準備は出来ましたよ、殿下」

『あぁ。ご苦労だったね、ウォーグル』


 水晶からは、ロキシード様の声が聞こえた。


『アディルナ、そこに居るかい?』

「は……はい!いますわ!」


 私は突然の事に反射的に返事をしたが。全く理解が追い付いていなかった。


(何故?ロキシード様が何故……??)


 混乱しながらも、殿下の声に自分の胸の鼓動が高鳴るのが分かった。

 私は、お兄様が持つ水晶玉を凝視して、次のお言葉を待った。


『良かった。どうしても君と話したかったんだ。だからウォーグルに頼んだんだ』


 ロキシード様の声を聞くだけで、安堵と恋しさが一気に押し寄せた。

 

「私も、殿下と話したかったです……」


 私は、少しだけ躊躇いながら言葉を返した。


 殿下と話したかったのは、勿論そうなんだけども、私が殿下と話したかった内容は、昼間お父様から聞いたエアムード国からの婚約の打診の件なのだ。

 これから、黒龍を討伐に挑む殿下に、私の話などで余計な負担をかける訳にはいかなくて、私は言葉を飲み込んだ。


 しかし、殿下は私の沈黙の理由を悟ったかのように、落ち着いた声で続けた。


『エアムード国の件だね』

「どうしてそれを?!」


 私は殿下がこの件を知っていたことに驚きを隠せなかった。

 だって、当人である私が、今日の昼間に聞いたばかりの話なのだから。


 改めて殿下の超人ぶりを思い知ると同時に、どこか期待のようなものが入り混じるのを感じた。


『遠征に出てても、城内の情報は逐一報告を受けているから。……悩んでるのかい?』

「はい……」


 殿下の優しい声音に触れて、抑え込んでいた気持ちが一気に揺らいだ。


「私、殿下と離れたくありません。どんな形でも良いからお側に居たいです。あの時も、帰れって言われて凄く悲しかったです」

『それは――』

「でも……私の我儘で我が国の立場を悪くするわけにはいきませんよね。だってロキシード様は国の為にその身を投げうって黒龍を倒そうとしているのに……」

 

 胸の奥が締めつけられるほど苦しかったけれど、それでも私は自分に言い聞かせるように言葉を続けようとした。

 けれども、その言葉は、殿下によって遮られたのだった。


『アディルナ、一人で決断しないで!いいかい?僕が帰るまで絶対にカラサリス大臣に返事をしちゃ駄目だよ。君は良い子で待っていて、僕を出迎えてくれる。そう約束しただろう?』

「そう……でしたわね」


 殿下の真摯な問いかけに、私の揺らいでいた気持ちは静かに落ち着きを取り戻していった。


「……私、殿下より先に”おかえりなさい”って言いますわ。」

『あぁ、楽しみにしてるよ』


(……やっぱり私、どんな形でもロキシード様のお側に居たいわ)


 殿下の一言で、私の不安で張り詰めていた心は温かく満たされて、私は隣国に嫁ぐ覚悟に傾いていた気持ちを一旦白紙に戻した。


「……なんだか、あの劇みたいですわね」

『劇?』

「いえ、なんでもありませんわ」


 今の状況が、あの日一緒に観た歌劇みたいだと思ったが、殿下が気付いてなかったので、私はこの話は自分の胸だけにしまった。


『アディルナ……今夜、黒龍を討つよ。そうしたら直ぐに王都に帰るから。だから絶対に、僕のことを待っていてね』

「はい!待ってます。どうか、ご武運を……」


 水晶の光が弱まり、私の言葉は最後まで届いたか分からなかった。

 私は殿下の無事の帰還を願って、そっと水晶に手を添えた。




 殿下との会話が終わり、私は魔力を供給してくれたお兄様を見上げた。

すると……お兄様は、物凄く変な顔をしていたのだった。


「お兄様、なんて顔してますの」

「お前にこの兄の気持ちが分かるか?お前たちの会話を、案山子になって聞いていなくちゃならない状況がどれほど辛いか」


 お兄様の言っていることは良く分からなかったが、とりあえずお礼を言った。


「お兄様、ありがとうございます。お陰で殿下と話せましたわ」


 私がにっこり笑って、お兄様にお礼を言うと、お兄様は呆れたように眉を下げつつも、どこか安心した表情を浮かべた。


「あの王子様ならきっと上手くやるさ、大丈夫だよ。ちゃんと赤い月の夜まで待ったんだし」

「……赤い月が何か黒龍と関係ありますの?」

「大いにあるだろ。赤い月の日は、三百年前の黒龍を静めた日なんだから。ほら、子供の時のおまじないにもあるだろ『赤い月夜を忘れるな、黒い龍が落ちてくるぞ!』って。赤い月の夜は黒龍の力が弱まるらしいな」

「あれってそういう意味があったのですか?!」


 私はあまりの事実に驚愕してしまった。

 私が呆気に取られていると、お兄様は私の頭をポンポンと優しく叩いた。


「だから大丈夫だよ。殿下はきっと、黒龍を倒すさ」

「当然ですわ。疑う余地もありませんわ!」

 

 私はお兄様の気遣いに対して力強く賛同すると、窓の外を見上げ、空に浮かぶ赤い月に殿下の勝利を祈った。

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