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魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません  作者: 石月 和花
本編

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43/60

43. 同行者

「リリエラ嬢……と、カラサリス大臣。わざわざ見送りに来てくれたのかい?」


 声の方を向くと、そこにはこの国の外務大臣であるカラサリス侯爵と、その娘で私と同じ殿下の婚約者候補のご令嬢……リリエラ様が立っていらっしゃった。


「いいえ、見送りではありません。黒龍討伐に向かう殿下に、我がカラサリス家から援軍を送りたく参じました」

「援軍……?」


 侯爵の発言に、ロキシード様は怪訝な顔をした。それもそのはず、援軍という割に、そこにいるのはカラサリス侯爵とリリエラ様の二人だけなのだ。

 側で話を聞いている私も不思議に思っていると、カラサリス侯爵は、どこか押しの強い声音で、目の前に居る”援軍”を殿下に紹介したのだった。


「はい。殿下もご存じの通り我が娘リリエラは、癒しの魔法を使えます。黒龍を討ち倒そうとする殿下の身の安全を憂いて、自ら危険なこの作戦に同行すると申し出たのです。どうか、我が娘リリエラを側にお連れください」


 なんと、カラサリス侯爵は娘であるリリエラ様を殿下の遠征に同行させるよう持ち掛けてきたのだ。あまりの突然の申し出に、周囲の空気がわずかにざわついた。


 そんな中、リリエラ様は一歩前に出ると、揺るぎない決意を宿した瞳で殿下をまっすぐ見つめ、芯のある透き通った声を発した。


「ロキシード様。私、殿下の御身が心配なのです。殿下がそれはお強いのは分かっておりますが、それでも万が一にそのお体に傷を負うようなことが合ったらと思うと、私心配で……どうか、お側に居させてください。私が側に居たら直ぐに癒せますから」


 その姿は、誰の目にも献身的に身を尽くす聖女のように映った。

 

 そんな健気な姿に、周囲の兵士たちは心を討たれたようで、この申し出によって皆の士気が上がったのを感じた。


 しかし、ロキシード様ご本人は、いつものように穏やかな笑みで対応をされているが、とても困っている様子だった。


「ですが、リリエラ嬢。いくら癒しの魔法が使えるといっても、貴女は何も訓練を受けていない女性だ。この作戦に同行させるのは危険過ぎる。」

「ですが……そちらの剣士だって女性ではないですか」

「この人は……特殊過ぎるから一緒に考えてはいけない……」


 咄嗟に引き合いに出されてビックリしたが、殿下の言う通り普通の令嬢であるリリエラ様と私とでは、鍛え方が違う。私も殿下と同じ意見で、リリエラ様にこの旅は無理だと思った。

 

 けれども、リリエラ様と侯爵は引き下がらなかった。


「殿下、我が娘リリエラは確かに魔物との戦闘は出来ません。ですが、怪我をした人を治療するのに必ず役立ちます。それに、殿下のお側に居るのなら、娘に危険が及ぶとは思いません。そうでしょう?殿下。」


 信じられないことに侯爵は、暗に殿下にリリエラ様を守れと言ったのだ。

 なんて不敬で図々しいのだろうと思い、私は思わず声を上げそうになった。

 その時――


「すまない。リリエラ嬢の護衛にさける兵が居ない。貴女の安全が確保できないから、どうか王都で待っていてくれないか」


 にべもなく、殿下はリリエラ様をきっぱりと退けたのだった。


 こうなってしまっては、もう取りつく島もないと思われた。

 だけれども、リリエラ様は諦めなかった。


「待ってください!護衛なら自分で用意しますわ!殿下のお邪魔にはなりませんから!どうか、お側に……私、本当に殿下が心配なんです……」


 リリエラ様の必死な思いに、私は胸がズキンと痛んだ。

 その気持ちは痛い程分かるのだ。


 殿下のお側に居たいから、私は仮面を付けて遠征隊に紛れ込んでいる。

 自分だけ抜け駆けをしているようでリリエラ様に申し訳なく思い、私はつい、助け舟を出してしまった。


「……畏れながら、進言お許しください。リリエラ様の回復魔法はこの討伐において、有益な物と思われます。ですので殿下、今一度ご再考を」


 私の発言に、ロキシード様とリリエラ様は驚いたような顔でこちらを向いた。

 二人とも私の発言が意外だったようで、驚きと困惑が混じられたような表情をされていたが、リリエラ様は直ぐにハッとして、勢いを得たように一歩踏み出して訴えを続けた。


「殿下、ここに集まっている兵たちには帰りを待つ家族がおります。恐ろしい黒龍の討伐に向かう父親が、夫が、息子が――無事に帰ってくることを願っています。もしも誰かが大きな怪我を負って、治療が間に合わないことがあれば、そんな帰りを待っている家族が悲しみますわ。だからどうか、私をお連れください」


 兵の安全を引き合いに出されて、殿下も思わず言葉を失った。

 周囲の兵士たちが完全にリリエラ様に味方する空気の中、ついに殿下は折れたのだった。


「……分かった。リリエラ嬢、貴女の力をお借りする」

「有難うございます。このリリエラ、全身全霊で殿下をお支えいたしますわ」


(……これで良かったんだよね……?)


 こうしてリリエラ様の同行が決まり、私は少しだけ複雑な思いを抱きながら出発の時を静かに待った。

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