42. 最終確認
翌日――
今日はいよいよ、ロキシード様が黒龍討伐の遠征に出立される日。
私も謎の仮面女剣士アルナとして殿下の遠征についていく為に指示された集合場所にやって来ていた。
……のだが、出発の準備を兵士たちが忙しなくしているので、私は誰にも声を掛けれず、仕方がないから端の方に、所在なく立っているしかなかった。
(素人がウロウロしたら迷惑ですわよね。こういった準備は慣れている方に任せるのが一番ですわ)
私は積み荷が馬車に積み込まれていく様子を、ぼんやりと眺めた。
そうしていたら、急にポンッと肩を叩かれたのだった。
「よお。お前も逃げずに来たな!」
振り返ると、そこにはリオルが立っていた。
「当たり前ですわ。殿下を裏切るなんて人居る訳ないじゃないですか」
「あー……、一人居たらしいぞ。俺たちと同じで武芸大会で選ばれた奴、やっぱり怖いって賞金置いて逃げたらしいぞ。」
「まぁ、そんなことが……」
この国の人間ならば、子供の頃から黒龍は怖い存在だと散々刷り込まれているから、逃げてしまった気持ちも分からなくはないが、でも、殿下とした約束を反故にするなんて、私には到底考えられなかった。
私とリオルは、二人そろって手持ちぶたさのまま、私たちはなんとなく荷馬車や兵士たちの動きを目で追っていた。
「しかし、王太子殿下の遠征だっていうから、もっと大規模なのを想像していたけど、ずいぶんこじんまりしてるんだな」
リオルは、目の前で準備を続ける部隊を見ながら、そう呟いた。
ロキシード様の遠征の部隊は、お城の騎士から選抜した精鋭六名と、私たち武芸大会で選ばれた者が二名、それから世話役の従騎士二名と王宮魔術師一名、ロキシード様の計十二名の少数精鋭だった。
確かに王太子の魔物討伐の遠征にしては小規模だけれども、それは、ロキシード様のお考えがあってだった。
「殿下が多勢に無勢は不要と大々的な編成を断ったそうよ。不要な経費を使いたくなかったんだと思うわ。隊の人数が増えれば増える程、予算がかさむもの。国民に負担を強いたくないんだと思うわ。だから、本当に必要な人たちが選ばれたのよ」
「それは、たいそう光栄だね」
リオルは少し誇らしげにニヤリと笑い胸を張った。
「姿が見えないと思ったら、こんな端の方に居たのか」
ふと、急に声がかけられた。
私たちが声の方を向くと、そこにはロキシード様が立っておられた。
「王太子殿下?!」
ロキシード様の出現に、リオルは慌てて身なりを直して畏まった。私もつられて頭を下げる。
「あぁ、そんな畏まらないで。これから一緒に行動をするのだから、身分は気にしなくていいよ」
「ですが……」
ロキシード様の言葉に、リオルは恐縮している。それもそうだろう。この男は昔ロキシード様に大暴言を吐いた男である。まともに成長したリオルにとって、あの件は黒歴史であろう。だから、身分を気にしなくてよいと言われてもそれを鵜呑みに出来ないだろうなと察した。
ロキシード様はリオルを宥めると、今度は私の方へ向いた。
至近距離でバッチリと目が合ってしまって、私は正体がバレないか冷や冷やしていたが、どうやらそれは大丈夫なようだった。
「もう直ぐ出発だけど……アルナ、この旅に着いてくるという君の気持ちは変わらないか?」
殿下は、私の事を心配しているような表情でこちらを見つめ、どこか迷いを含んでいるようだった。
(そう言えば……さっきリオルが直前で一人自体したと言っていたわね)
私は即座に、ロキシード様が私までもが遠征を辞退しないか不安に思われているのだと察した。だから私は、殿下を安心させる為に、胸を張って、迷いなど一片もないと示すように力いっぱいに宣言した。
「当たり前ですわ!私は全身全霊で殿下をお守りします。どこまででも着いていきますわ!!」
すると……
私の言葉に、ロキシード様は何故か複雑そうな顔をされたのだった。
「その言葉、もっと別の場面で聞けたら嬉しかったんだけど……」
「?どういう意味で――」
ロキシード様の予期せぬ反応に、私が首をかしげて聞き返そうとしたその時、殿下を呼ぶ大きな声が、私の声に被せられた。
「ロキシード殿下!!」
声の方を向くと、そこにはこちらに近づいて来る二つの人影があった。




