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魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません  作者: 石月 和花
本編

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39. 再会

 私は立ち去ろうとするリオルという青年を急いで追った。彼にちゃんと、確かめたいことがあるのだ。


「ねぇ!ねぇ貴方!!」


 私が呼び止めると、リオルは気だるそうに振り返った。


「……何か用か?」

「貴方、さっきの話、詳しく聞かせて欲しいの。殿下に恩があるってところ」

「はぁ?!なんでだよ」


 粗暴な物言いは、確かにあの子にそっくりだった。私は少し嬉しくなって、物怖じせずに話を続ける。


「私、昔貴方に会ったことあるかもしれなくて。それで気になったの」

「お前もしかして……あの時の女の子か?」


 私の言葉に、リオルは大きく目を見開いて私を見た。

 その反応で確信した。リオルはやっぱり、あの時私たちを睨んだあの子だった。


「まぁ、やっぱり!貴方、私の巾着を盗んだ子供ね!!」

「ば……馬鹿っ!!何てこと大声で言うんだ!!」


 リオルは顔を真っ赤にして周囲を見回し、慌てて私の口を塞ぎそうな勢いで近づいてきた。

 その狼狽ぶりさえも微笑ましくて、私は思わず頬が緩んだ。


「嬉しいわ。あの時の子がこんなに立派になって」

「あの……その……あの時は悪かったな……」


 リオルはバツが悪そうに視線を逸らし、後頭部を搔きながらぽつりと言った。


 本当に、あの時睨んできた子供がこうも変わるものかと感激し、私は胸がいっぱいだった。


「許しますわ」

 

 私は穏やかに頷き、彼の懺悔を受け入れた。


 するとリオルは、少し気恥ずかしそうにしながらも、自分のことを話してくれた。


「……あの後暫くしてさ、俺みたいな親のいなくて大人にこき使われている子供がみんな、宿舎に入れることになって。そこでは勿論仕事もするんだけど、合間に読み書きや算術、武芸や針仕事……いろんなことを教えてもらえるんだよ。そのお陰で俺も妹も立派に独り立ち出来たわけで……本当にありがたいと思ってるんだ」


 リオルは言葉を選ぶようにゆっくりと語り、その声には確かな感謝が滲んでいた。


「後から聞いたんだけど、あの宿舎は殿下と、どこかのご令嬢が尽力されて出来た物だって。……それってあんたの事か?」


 様子を窺うようにこちらを見るリオルに、私は目を細めて答えた。


「いいのよ。金持ちの自己満足ですから」

「あの時俺が言ったこと、根に持ってるのか?!」

「いいえ」


 私は笑いながら、清々しい気持ちで言い切った。あの時リオルに言われた言葉は、私の胸に酷く突き刺さり衝撃だったけれども、あの経験があったからこそロキシード様と共に様々な施策を試し、それがこうして実を結んだのだ。本当に、こんなに嬉しいことはなかった。


「しっかし驚いたな。あの時の子供、王太子殿下は姿絵で直ぐに分かったけど、一緒に居た女の子がまさか平民だとは思わなかったな。てっきり貴族のご令嬢かと」


 急な話題の転換に、私はどきりとしてしまった。

 謎の剣士として参加している手前、正体を明かすわけにはいかないのだ。


「え……えぇ。私は商家の娘ですわ。」

「まぁ、金持ちのお嬢様には違いないか。いや、金持ちのお嬢様がこんな強いのか?」

「わ、私の事は、ただのアルナと思ってください!!」

「そうか、アルナって言うのか。改めてよろしくな。俺はリオルだ」


 私について深く追求する様子もなく、リオルは右手を差し出してきた。

私は一瞬だけ戸惑ったものの、その手に込められた真っ直ぐな好意を感じ取り、そっと手を伸ばした。


「こちらこそ、よろしくね」


 握手を交わしたその手は、思っていたよりも温かく、力強かった。


 かつて巾着を盗んで逃げていった小さな子供の面影はもうどこにもなく、そこにいるのは自分の力で未来を掴もうとしている一人の青年だった。


 出会いこそ最悪な形だったが、彼とは共にロキシード様をお守りする仲間として良い関係が築けそうで、私は胸の奥がじんと熱くなった。


「そうだ、どうせならこの後飯食いに行かないか?子供の頃の詫びもあるし、俺がおごるよ」

「えっ……?!」


 突然の申し出に、思わず慌ててしまった。


 まさか食事に誘われるとは思わなかったし、ましてや”奢る”なんていうのだ。本当は侯爵令嬢なのに、平民に奢ってもらうなんて、そんな申し訳ないこと出来なかった。


 とはいえ、リオルに下心なんかなく、純粋に私を誘ってくれているのは分かっていた。だから、彼を傷つけずにどうやって穏便に断ろうか頭を悩ませていると、思いもよらない横やりが入ったのだった。


「君、リオルだっけ。ちょっといいかな?」

「王太子殿下?!」


 なんと、ロキシード様が声を掛けてきたのだ。

 リオルは慌てて背筋を伸ばし、さっきまでの気安さが嘘のように表情を引き締めた。

 私も同じく、緊張してしまった。


「殿下……何か、俺に用ですか?」


 ロキシード様は穏やかな微笑を浮かべていたが、その瞳はどこか探るようにリオルと私を見比べていた。


「少し聞きたいことがあってね。そうだな……少し歩きながら話そうか。一緒に来てくれるかな?」

「え、えぇと……はい!」


 リオルは緊張で声が裏返りそうになりながらも、殿下の方へ歩み寄った。

 ちらりと私を気に掛けるようにこちらに視線を向けたので、私は”どうぞ私に構わず行きなさい”という気持ちを込めて、お暇する旨を伝えた。


「あ、それじゃあ、私はここで失礼しますわ。また、遠征でお会いしましょう」


 殿下が話したいのはリオルだし、私はここに居ても意味が無い。それに長くロキシード様の側にいたら、私の正体がバレてしまうかもしれないのだ。


 私はニコリと微笑むと、優美に礼をしてそそくさとその場を立ち去った。


(……殿下がリオルに聞きたい事ってなんだったのかしら?……私と同じようなこと聞いてたりね)


 そのような事を考えながら、私は家に向かった。


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