30. 珍しい物勝負
「それでは早速、本日の勝負でロキシード様に”参った”と言わせて見せますわ。いいですか、今回の勝負のお題は前もってお伝えしていた通り、珍しい物勝負です。より珍しい物を用意した方が勝ちですわ」
私は早速、ロキシード様に”参った”と言わせるべく勝負を仕掛けた。
……と言っても、勝負の内容は前もって伝えてあったから、私たちは単に用意した代物を見せ合うだけなのだけれど、この勝負に少しだけ、ロキシード様は苦言を呈した。
「うん。ところでこの勝負だけど、より珍しいかどうかは、どうやって決めるの?明確な基準が欲しいな」
確かに、勝負の形が曖昧では、勝敗もはっきりしないかもしれない。特にこの殿下には、付け入る隙を与えるのは危険なのだ。私は、分かりやすいルールを追加した。
「それは……相手の持ってきたものが何か当てられなかったら負けですわ!」
「わかった。その条件で異論はないよ」
私はそっと頷き、殿下の視線を受け止めた。これで勝負の形は整った――あとは、私が殿下を驚かせるだけだった。
「えぇ。それでは、勝敗の決め方もはっきりしたことですし、始めますわね。フィオネ、例の物をこちらに持ってきて」
先手必勝。私はまずは自分の持参した珍しい物――お父様に取り寄せてもらった隣国のテヴリムで開発された最新魔道具”会話玉”を、ロキシード様に自信満々に披露した。
(ふふっ……この魔道具は我が国にはまだ流通していないし、テヴリム国ですら一部の人間しか持っていない代物ですわ、絶対殿下もご存じないはずよ!)
これならば、絶対にロキシード様でも知らないはず。私はそう確信していた。
しかし……いつものごとく私の期待は即座に打ち砕かれるのだった。
「あぁ、会話玉だね。アディは珍しい物を持ってるんだね」
「ご……ご存じなんですか?!」
「うん。この前テヴリム国の使節が来た時に紹介されたよ。すごい技術だよね。離れた所に居る人と会話できるなんて」
「そ……そうですわね」
私は悔しさを表に出さぬように微笑を整えた。殿下が会話玉を知っていたのは誤算だったけれど、まだ勝負は終わってないのだ。
(いいえ、まだよ。私が殿下の持ってきた物を当てられたら引き分けなんだから)
私は気を取り直して、ロキシード様を迎え撃った。
「それで、殿下は何を持ってきましたの?」
「僕はこれだよ」
そう言って殿下は、胸ポケットから白いハンカチに包まれた大ぶりな青い宝石のネックレスを取り出し、私の前に差し出した。
「まぁ、綺麗ですね」
私は殿下が差し出されたネックレスじっと見つめた。そして頭の中の宝石知識を総動員した。
(珍しい青い宝石といっても、きっとどこかで見ている筈よ。思い出すのよ、私!!)
そうして少しの間、頭を捻って、記憶を掘り起こして必死に考えた結果、
ついに、ある宝石に思い至ったのだった。
「……この深くて濃い色の青はなかなかお目にかかれないですわね……。ずばりこれは、アズールフィアですわね!!」
これでも侯爵令嬢。宝飾品のことだってちゃんと勉強していて並みの鑑定士よりも目利きには自信がある。……まぁ、以前それで勝負してロキシード様には負けたけども。
しかし、この青い輝きはアズールフィアに間違いない。
お母様が持っているので、実物を見たことがあるのだ。
私は自信満々で殿下を見つめた。
けれども……殿下は余裕そうにクスリと笑ったのだった。
「うーん。残念、不正解」
殿下にあっさりと間違っていると告げられて、私は、即座に信じられないといった顔で食い下がった。
「な……なんですって?!この輝きはアズールフィアに間違いありませんわ!!」
「確かにアズールフィアに似てるんだけど、これはもっと希少な物”雨月結晶”って言うんだよ」
「そんなの知りませんわ!!」
――あ。
知らないって言っちゃった。
この勝負、相手の持ってきた物を知らなかったら負け。
つまり私は、またしても殿下に勝てなかったのだ。
私が墓穴を掘ってぐぬぬ……と内心で地団駄を踏んでいると、殿下はいつものように面白がるような目でこちらを眺めながら、さらに詳しい説明を続けた。
「まぁ、雨月結晶はその稀有な性質から王家が厳しく管理しているからね。知らなくて当然だよ。」
「ずるいですわ!そんな秘匿情報を使ってくるなんて!」
「そうかな?珍しい物としかルールを決めなかったのはアディだよ」
「ぐ……」
本日二度目の“ぐぬぬ”で言葉を詰まらせていると、殿下は楽しそうに笑いながら続けた。
「ほら、アディ。見ててごらん。この石はね、水に濡れると光るんだ。それも、とても強い光をね」
そう言って殿下は、空のコップに雨月結晶を入れ、水差しから水を注いだ。
すると――雨月結晶は一瞬で、目が眩むほどのまばゆい光を放ち始めたのだった。
「ま、まぶしいですわ!!」
「ね、すごいだろう」
殿下が水から取り出し、布で水滴を拭き取ると、雨月結晶は何事もなかったかのように、再び静かな深藍の輝きへと戻った。
本当に、不思議な宝石だった。
「……悔しいですが、負けを認めます……」
こんな珍しい物(しかも私の知らない物)を出されてしまっては、素直に負けを認めるしかなかった。
今日こそは絶対に勝てると思っていたのに、またしても殿下に“参った”を言わせられなかった私は、しょんぼりと肩を落とした。
さすがに十七歳にもなって泣きはしなかったけれど、落ち込み具合は隠せてなかっただろう。……なにせ、私分かりやすいらしいから。
そんな私を見ていた殿下が、ふいに予期せぬ提案を持ち掛けたのだった。




