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魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません  作者: 石月 和花
本編

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29. 新しいルール

「ロキシード様。今日こそ私を婚約者候補から外しませんか?いい加減、リリエラ様とローゼリア様のお二人に候補を絞るべきですわ」


 あの日以降、私はロキシード様とお会いする度に同じ言葉を繰り返していた。


 もちろん殿下の事は今もお慕いしているし、こうして月に何度かお会いできるのは嬉しかった。許されるのならば、この関係がずっと続いてほしいと願ってしまう自分もいる。


 けれど――私の中のもう一人の私が、それを許さなかった。


 ロキシード様は来週、十八歳の成人の儀を迎えられる。それなのに、未だに婚約者を決めておらず、歴代の王族は十五、六歳までに婚約者が決まる通例の中で、今の状況は異例だった。

 その事実が、黒龍復活の噂や、封印が掛け直されないことと重なって、民衆の間で不安が広がっていると知ってしまったから。


 だから、私個人の想いなんて、蓋をするのは当然だった。


「どうして、アディはそんなに僕の婚約者候補から外れたいの?」


 殿下はにっこりと微笑まれながら、私に尋ねた。

 けれど、その笑顔の奥に苛立ちが滲んでいるのが分かった。七年もの付き合いで、殿下の表情の微妙な変化も覚えてしまっていた。


 私がこの話題を出すたびに、笑って受け流している殿下であったが、日に日に不機嫌になっているのは気付いていた。けれども、私は進言を止めなかった。


「だって、私には魔力がないのですよ!それが分かった以上、他の高魔力の令嬢にその席を明け渡すのがこの国の為ですわ」

「国の為……ね。」


 殿下はぽつりと呟いて、露骨に面白くなさそうな顔をした。

 ここまであからさまに不機嫌を見せるのは珍しく、私は少し怯んだが、それでも言葉を止めなかった。


「えぇ。だってそうでしょう?殿下の配偶者となる人は高魔力者でなくてはなりませんわ。王家が高魔力の血族を後世に引き継ぐ――。それが黒龍からこの国を守る唯一の方法なのだから。」

「唯一の方法か……。本当に古臭いしきたりだよね。」


 私の話に、ロキシード様は随分と投げやりな態度だった。


 殿下には殿下なりの思うところがあって投げやりだったのかもしれない。だけれども……私は殿下のその態度が許せなかった。


 だって、黒龍の恐ろしさを私たちが物語でしか知らないのは、歴代の王族が命を懸けて封印を守ってきたからであって、その王家の慣習を『古臭い』と切り捨てるなんてあんまりだと思った。


 私が、この国の平和を後世に繋ぐために、胸が張り裂けそうな思いで身を引く覚悟をしたというのに、殿下がそんな態度では納得がいかなかった。


「古いしきたりでも大事なお役目です!それで国民が守れるのですから!!もっと真剣に考えてください!!」

「分かってるよ。僕だってちゃんと考えているよ。」


「それなら……」


 “私を候補者から外してください”

 そう続けようとした瞬間、殿下が間髪入れずに遮った。


「それは駄目。君を候補者からは外さないよ」


 まだ何も言っていないのに、何故私の考えが分かったのだろう。そんな風に私が訝しむ間にもロキシード様はしっかりと話を進める


「そもそも、アディは僕とこうして会えなくなるのは良いの?五年前はそれで泣いたじゃないか」

「それは……悲しいです。でも、私も成長しました。覚悟は出来てますわ!!」


 私はロキシード様を真っすぐに見つめた。普段は柔らかく微笑む殿下が、真顔で私を見返してくる。


 いつもなら恥ずかしくて直ぐに逸らしてしまう視線を、今日は逸らさなかった。


 どうしても伝えたい事があったから。


「ロキシード様。私、やりたいことが出来たんです。それで、その夢を叶えるには、殿下の婚約者候補のままだとちょっと都合が悪くって……」

「何だって?!」


 私がやりたいこと――それは、ロキシード様を支える女官になることだった。


 魔力を持たない私が、殿下の国造りに関わるための唯一の道。それが、今の私の夢になっていた。


 もちろん、侯爵家の娘が女官を志すなど前代未聞で、両親からは強く反対されている。けれど、魔力のない私が殿下のお側にいられる方法は、これしかない。


 だから私は、殿下を支えられるようにと、誰にも負けない覚悟で勉強に励んでいた。

 ――殿下には、まだ何も言わずに。


 だって、殿下に話してしまえば、きっと根回しをして私を女官にしてしまう。

それが優しさからだと分かっていても、それでは駄目なのだ。

 自分の力で女官にならなければ、私が本当にその役目を果たせる人間なのかどうか、分からなくなってしまうから。


 しかし、そんな私の事情を全く知らないロキシード様は、わずかに眉を寄せ、苛立ちを隠すような声で子供の頃の約束を問うのだった。


「……僕との約束は、反故にするのかい?」

「いえ、決してそういう訳では……むしろ、約束を守る為ですわ!」

「どういうことだい?」

「それは……まだ内緒ですわ!!」

「それじゃ何も分からないよ」


 殿下は静かに息を吐き、私の事をじっと見つめる。


「今は……今はまだ言えないのです!時期が来たら、ちゃんと話しますから!!」


 普段はにこやかな方だからこそ、真顔のロキシード様は少し怖かった。


 どんどん身を乗り出して顔を近づけてくるし、その圧に負けて全部話してしまいそうになる。


 けれど私は必死に堪え、殿下の追及にも頑なに口を割らなかった。


 すると殿下は、これ以上問い詰めても無駄だと悟ったのか、追及をやめて、代わりに一つの譲歩案を提示したのだった。


「まぁ……何度も言うけど、君を婚約者候補から外さないよ。でも……そうだな。もし君が僕に”参った”と言わせることが出来たら、何でも一つ言うことを聞いてあげるよ。例えば、婚約者候補を辞す事を許す。とかね。」


 殿下はわざとらしく肩をすくめ、挑発するように口元を上げた。

 まるで私の反応を試しているかのようだったが、私はその提案をすんなりと受け入れた。


「なるほど……つまりは勝負に勝たないとお話にならない。と言う事ですわね」

「なんか違う気がするけど、まぁ、それでいいよ」

「分かりました。このアディルナ全力で殿下を叩きのめしてみせますわ!!」


 かなり不敬なことを言っている自覚はある。

 それでも、そんな私をロキシード様はどこか嬉しそうに、柔らかな眼差しで見つめていた。


「殿下は、随分と余裕がありそうですわね」

「どうかな?君が相手だと結構必死だけどね」


 そう言って笑う殿下に、私は釈然としなかった。だって、いつも負けるのは私だったから。今だって、とても余裕そうに笑っているのだ。


 私はにこりと微笑み返して、静かに闘志を燃やした。今日こそは、絶対に勝つと。

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