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魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません  作者: 石月 和花
本編

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27. 黒龍の詩

「まぁ、殿下にアディルナ様!今日は一体どうされました?!」


 私たちが門のところでやり取りをしていると、この寄宿舎を取り仕切るシスターが慌ててやってきた。


 おそらく先触れもなしに私たちが訪れたことに、相当焦っていたのだろう。彼女の息は上がっていて、ちょっと申し訳ない気持ちになった。


「あぁ、近くまで来たから、ちょっと子供たちの様子を見に来ただけだよ」


 ロキシード様がそう説明し、私も、「えぇ」と頷いて同意した。

 するとシスターは、胸に手を当ててほっとしたように微笑むと、私たちを招き入れたのだった。


「まぁ……そうでしたか。でしたら、どうぞ中へ」


 その言葉に促され、私たちは門をくぐった。

 ……のだけれども、足を踏み入れた瞬間、胸の奥に小さな違和感が生まれる。


(……やけに静かね?)


 普段なら、庭で遊ぶ子供たちの笑い声が真っ先に耳に飛び込んでくるはずなのに、今日は凄く静かなのだ。


 私は思わず周囲を見回した。


(なんか……今日の子供たちは元気がない子が多い気がするわね?)


 私が子供たちの様子を不思議に思ってると、どうやらロキシード様も同じことを考えていたようで、シスターにこの不自然な状況の理由を尋ねられた。


「シスター、子供たちがどこか元気が無いように見えるんだけど、何かあったのかい?」

「それが……先日、慰問に来てくれた吟遊詩人が子供たちに黒龍の歌を披露したんです。それを聞いて、子供たちはみんな怖がってしまって……」


 それを聞いて、私は直ぐに察した。


 黒龍の歌とは、この国の人なら誰もが知っている話を元にした黒龍の恐ろしさを伝承する為の子供向けの歌だ。


 それは今から約三百年前、王家の封印が間に合わず黒龍が目を覚まし、この国が壊滅状態に陥った時の様子を表した詩――


『森はその炎で焼け落ち、その爪は岩肌をも抉り削った。強靭な尻尾は街を薙ぎ払い、人々は住む場所をなくし、幾多の朝と夜を、おびえながら息を潜めて暮らした。黒龍が目覚める時、人の国が終わる。黒龍が目覚めたら、人の国は終わる』


 この国の子は皆、三百年前の大災厄を繰り返さないよう、戒めとして黒龍の恐ろしさをこの歌によって教え込まれるのだ。


 それを聞かされて、子供たちは皆怖くなってしまったのだと、悟った。


(確かに……黒龍の歌を初めて聞いたときは、私も怖くて夜眠れなくなったけれども……)


 私はどうしたら子供たちの不安を取り除くことが出来るのかを考えた。


 すると、私たちの来訪に気づいた、小さな女の子がそろそろと近づいてきたのだった。

 その手はぎゅっと服の裾を握りしめ、目には不安が浮かんでいる。


「……あのね、アディルナさま……」


 震える声に、私は自然と膝を折って目線を合わせた。


「どうしたの?」

「……黒龍が復活したら、みんなのお家、燃やされちゃう?」


 女の子は泣きそうな顔をしていた。

 その小さな不安が胸に刺さり、私はそっと彼女の手を包み込む。


「そんなこと、起こらないわ」


 できるだけ柔らかく、安心させるように微笑む。

 けれど、女の子はまだ信じきれない様子で、私の手をギュッと握ったのだった。


「でも……歌で言ってたもん……黒龍が起きたら、全部……」


 私はゆっくり、彼女の不安を吸い取るように言葉を重ねた。


「大丈夫よ、黒龍は復活しないわ。王族が国民を守ってくれるのよ」

「本当に?」

「えぇ、本当よ。……ねぇ、ロキシード様」


 そう言いながら、私はロキシード様へ視線を向けた。

 彼は静かにこちらを見守っていて、私の視線に気づくとゆっくりと歩み寄り、女の子の前で膝を折った。


「あぁ、大丈夫だよ。黒龍は私が絶対に復活させないから、安心するといいよ」


 ロキシード様は優しく微笑み、女の子の頭を軽く撫でる。


「君のお家も、君の大切な人も、誰一人として失わせたりしない。約束するよ」


 その言葉に、女の子は少しはにかみながら、小さくコクンと頷いた。


 すると――


「本当に?!本当に黒龍はやって来ない??」「ほんとに?!」


 周囲で聞いていた子供たちが一斉に駆け寄ってきてロキシード様を取り囲んだのだった。

 殿下は突然の子供たちの包囲にも動じず、優しく微笑み近くの子の頭を撫でる。


「本当だよ。黒龍は絶対に復活しないと約束するよ」


 その言葉に、子供たちはぱあっと顔を輝かせた。子供たちは安心すると、小さな手を伸ばして、ロキシード様に飛びついた。


「絶対、絶対だよ!」「みんなを守ってね!!」


 私は、そんなロキシード様と子供たちの様子を複雑な気持ちで見守った。

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