24. 観劇
魔力測定の儀式から五年。私は十七歳になっていた。
あれから私は、いつ婚約者候補から外されても良いように、常に宣告を受け入れる心構えを持って過ごしていた。……のだけれども、その宣告は待てど暮らせど一向に下されなかった。
不思議に思ってロキシード様に何度か尋ねてみても、殿下はいつも巧みに話題を交わしてしまう。
だから、あれから五年経った今も、私とロキシード様との交流は続いていて、今日もまた殿下との定期交流に向かっていた。
ただ、今日の交流会は、いつもとは趣向が違った。
なぜなら、私が向かっている場所は王宮のガボセではなく城下の歌劇場だし、いつも私から会いに行くロキシード様が、今日はハルスタイン家まで馬車で迎えに来てくださったのだ。
つまり私は今、ロキシード様と横並びに座り、馬車で歌劇場へと向かっている。
普段とは勝手が違い、狭い馬車の中で二人きり。私は気恥ずかしさから何か会話をしようと、当たり障りのない話題を振った。
「そ、それにしても観劇だなんて、珍しいですわね」
「まあね。たまには王宮内でお茶を飲むだけじゃなくて、外でも会えって外野に言われてね」
殿下の言う”外野”とは、宰相を始めとしたこの国の重鎮たちのことだ。
王太子の婚約者の選定ともなれば、国を挙げて取り組む重要事項で、殿下の一存で決められるものではない。だから時折、候補者の令嬢との交流に対して外野から注文がつくのだと、以前ロキシード様が教えてくれた。
その辺りの偉い人たちの思惑は良く分からないけれど、私は前から見たかった歌劇をロキシード様と一緒に観られると知って素直に喜び、今日という日をとても楽しみにしていた。
「なんにせよ、進言してくださった方に感謝しますわ。私、この劇を前から観たかったんです」
「それはよかった。君が喜んでくれるなら、たまには外野の言うことも聞くのも良いものだね」
そう言ってロキシード様は、にっこりと笑った。
大人になって殿下は益々格好良くなっていて、その笑顔の破壊力は格段に上がっていた。しかも今は馬車の中で隣に座っているのだ。私は、思わず顔を逸らしてしまった。
「アディ?」
「そ……そうですわね。たまにはこういうのも、良いですわよね。」
私は殿下の顔を見れず、目線を落としたまま答えた。
そんな私の小さな動揺をよそに、馬車は静かに劇場前の石畳へと進んでいった。
劇場に到着すると、私たちは貴賓用のボックス席へ案内された。舞台からは少し距離があるものの、高い位置から遮るものなく見渡せ、音響も素晴らしい良席だった。
私は思わず身を乗り出し、子供のように目を輝かせて舞台を見つめた。
「なんだ、そんなに楽しみだったのかい?」
「えぇ、そんなに楽しみだったんです」
劇自体も楽しみだったけど、ロキシード様と一緒に観劇が出来ることが何よりも嬉しくて、私は子供のようにはしゃいでしまった。
ロキシード様は、そんな私を微笑ましげに見つめていた。
上演されたのは、小国の皇女と彼女に仕える騎士の恋物語。
結婚を誓い合った二人だったが、騎士は国を守るため隣国との戦へ赴き、やがて戦死の報せが届くのだった。
そして悲しみに暮れる皇女には、隣国の王が政略結婚を迫っており……
皇女がすべてを諦めかけた夜、夢に騎士が現れて「必ず帰る」と告げたのだった。
皇女はその言葉を信じ、求婚を拒み続ける。
そしてついに、騎士は生還し隣国の王を討ち取り、二人は祖国で幸せに暮らした――そんな恋物語だった。
物語は、歌や踊りを交えながら、時にコミカルに、時に胸を打つ展開がテンポ良く続いていく。
絢爛な舞台の上で、艶やかな衣装を観に纏った演者達が舞う姿は観客を魅了し、物語の世界に引き込んで最後まで離さなかった。
瞬きすら忘れるくらい、私は舞台に魅入ってしまった。
煌めく時間は、あっという間に時は過ぎていった。




