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魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません  作者: 石月 和花
本編

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23/60

23. 何も変わらない

「どうして殿下がいらっしゃるの?!」

「どうしてって……?先日の訪問の振り替えだよ。日を改めるって伝えたよね?先触れも出してあったし」


 応接室に入るなり不躾な質問を投げた私に、ロキシード様はいつものように平然と受け答えた。この二年で殿下は大分私の扱い方を心得たようだった。


 対して私は、ずっと混乱したままだった。だって、魔力の無い私に殿下が会いに来る必要はもう無いはずだから、この訪問の真意が分からないのだ。


 けれども、ふと一つの可能性が頭に思い浮かんだ。


(そうか……殿下は自ら私に婚約者候補を外すと告げに来たのね……)


 それに気づくと、胸がぎゅっと締め付けられたように苦しくなり、私は視線を床に落とした。 


「まさか、殿下自らがお越しになるなんて、思っても見ませんでしたわ……」

「なんで??僕が来なかったら意味が無いじゃないか」

「そんな……通告だけなら伝達の者を遣わせば良かったでは無いですか!殿下はひどいです!!」

「酷い?一体何が??あと、通告って何??」

 

 会話が進むにつれて、何故かロキシード様は”まるで何も分からない”といった感じの変な顔をして私の話に都度質問をするので、一向に話が進まなかった。

 私は、中々核心を言ってくれない殿下に痺れを切らして、ついに自分から踏み込んだ。


「ただでさえ殿下のお隣に立つ事が叶わなくなって悲しいのに、殿下自らに婚約者失格の引導を渡されるなんて、私……耐えられませんわ!!」


 私は悲痛な声を上げながらも、毅然とロキシード様の目を見て言った。最後は凛とした侯爵令嬢で終わらせたかったから。でないと泣いてしまうから。


 だから私は、泣くのをぐっと我慢して、ロキシード様をじっと見つめた。


 しかし――ロキシード様は私の言葉を聞くと、何故か両手で顔を覆い、項垂れてしまったのだった。


「……分かった。どうやら僕たちさっきから話噛み合って無いね」

(……え、そうなの??)


 その指摘に、私は呆気にとられて固まってしまった。


 ロキシード様は、そんな私の様子を見て深いため息を吐くと、何事もなかったかのように仕切りなおした。


「アディルナ。僕が今日ここへ来たのは君の誕生日を祝うためだよ。改めて誕生日おめでとう。花束は侍女に預けておいたから、後で部屋に飾って貰って」

「あ……ありがとうございます」

「で、アディルナ。さっき変な事を言っていたけど、僕は君を婚約者候補から外さないよ」


 殿下はニッコリ笑って、そう告げられた。

 あ……この笑顔、怒ってる時の奴だ……


 だけど、私は怯まずに言い返した。


「何故です?!そんなのダメですわ!!」

「なんで?!君いま、婚約者候補から外れるの悲しいって言ってたのに?!」


 ロキシード様は面食らった顔をしていたが、私は構わずに続けた


「ロキシード様はこの国の王になられるお方、その伴侶は魔力が高くないと、黒龍が復活して国が滅びますわ!だから、魔力が無い私では駄目なんです……」


 我慢していた涙が、ひとすじ溢れてしまった。


 ロキシード様は、いつものように微笑んでおらず、真面目な顔で私をじっと見つめた。


「そんな古いしきたり、今の時代にそぐわないよ」

「王族がそんな事言っちゃダメです!!」


 私はポロポロと溢れてしまう涙を拭いながら、必死で訴えた。

 それなのに……


 見るとロキシード様は、口元を手で押さえて、笑っていたのだった。


「な……私が泣いているのになんでロキシード様は笑ってるんですか?!」

「いや、ごめん。つい思い出してしまって。僕たちが初めて会った時も似たようなやり取りをしたなと思って」


 殿下の言われた事は、私たちの顔合わせの時のことだった。あの時も私は泣いてしまって、王族が簡単に謝っては駄目だと叱ったのだった。


 思い出すと、私の涙はますます勢いを増してしまった。


「な……何で益々泣くんだ?君の泣くタイミングは本当に分からないな」

「ごめんなさい……殿下と出会ってからの事を思い出したら悲しくなって……」

「思い出すと悲しい?どうして?」

「だって、こうして殿下と気軽に会えなくなるから。殿下との思い出は楽しい物ばかりです。その楽しかった事が、もう二度と味わえないと思うと……」


 やっとの思いで泣き止むと、私は落ち着いて殿下と向きあった。殿下の方は、また少し、怒ったような顔をしていた。


「だからどうしてそうなるんだ。僕は君を婚約者候補から外さないって言ってるじゃないか!」

「だからそれじゃあ、黒龍を封印出来ないじゃないですか!!」


 お互いが譲らないので話は平行線だった。

 このまま時間切れになる――そう思いかけていた所、殿下深く息を吐き、言い方を変えたのだった。


「分かった。じゃあ問うけど、君は僕に嘘をついたのかい?」

「そんな、嘘などついてませんわ!!」


「では、僕に”参った”と言わせてくれるんだよね?。それから、国を一緒に造るとも約束したよね?まさか、忘れたのかい?」

「忘れる訳ないですわ!!」


「なら君は、これからも僕に勝負を挑んでくるし、僕がやる施策も手伝ってくれるよね?嘘をついていないというなら、約束を破らないよね?」

「え……えぇ。もちろんですわ」


 私がそう言うと、ロキシード様はニッコリと笑った。これは、よく見る笑顔……彼の企み事が上手くいった時の顔だった。


「ほら、アディ。何も変わらない。今まで通りだろう。」

「そう……ですわね?」


 まんまと言いくるめられたような気もしたが、私は認めざるを得なかった。


「でも殿下、私、一度は覚悟を決めた身です。必要であればいつでも候補者を辞しますわ。だって……私、この国が大好きなんです。だから、この国が壊れてほしくないんです……」

「分かった……。国を護りたい気持ちは僕も一緒だよ」


 こうして私は、いつでもロキシード様の婚約者候補を降りる覚悟を持って、そのお役目を続けることになった。


(きっと殿下には何かお考えがあるのだわ。今がその時じゃないだけで、時期が来たらきっと、私のお役目は終わるわ……)


 そう思いながら、一年が過ぎ、二年が過ぎ……

 そして気付いたら五年が経ってしまった。

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