19. 誕生日の朝
月日は流れて、私は十二歳になった。
二年前より背も伸びて、周囲からは『黙っていれば美少女』と評されるほどに成長していた。
……でも、黙っていようがいまいが、私の見た目は同じなのだから、この評価には少しだけ納得がいかなかった。
しかし、今日の私はそんな細かいことはどうでもよかった。
だって、今日は私の誕生日なのだから。
(今日は、きっと最高の一日になるわ……!)
そんな期待で胸がいっぱいたった。
既に、朝一番に侍女たちから笑顔でお祝いの言葉を貰っていたし、朝食の席ではお父様とお母さま、それとお兄様が揃って『おめでとう』と声をかけて祝ってくれていた。
ここまででも十分に、私の胸は温かく満ち足りていたが、今日は更に、ロキシード様がわざわざ我が家まで祝いに来てくださる予定なのだ。
私は嬉しくて、朝からずっと上機嫌だった。
「それにしても、今日はやけにみんな忙しそうですわね」
朝食を終え、お兄様と廊下を歩いていると、普段は気にも留めない使用人たちの慌ただしい動きが目に入った。
なんか、みんな物凄く忙しそうなのだ。
「そりゃ、王太子殿下をお迎えするんだからね。いつもより入念に掃除しているんだろうよ」
お兄様は、気だるげに周囲を見渡しながら、私との会話を続けた。
「いつもはお前が王宮に出向いてるけど、まぁ十二歳の誕生日は特別だからな。わざわざ我が家に出向いてくださるなんて、律儀な方だね、殿下は」
「そうですよ、お兄様。ロキシード様は律儀で誠実なんです。それに本当に聡明で、立派で……それで、お兄様。どうしたら殿下を倒せると思います?」
話の流れで、私はお兄様に真剣に相談をした。だって、あれから二年経つのに、私は一度も殿下に勝てないままなのだ。
しかしお兄様は、私の問いに答える代わりに、盛大な溜め息を吐いたかと思うと、憐れむような目で私を見つめたのだった。
「今の話の流れで出てくる会話じゃ無いね。お前、まだ諦めてなかったのか……」
「当たり前ですわ!殿下との約束ですもの!」
あの日以降もずっと、私はロキシード様とのお茶会の度に勝負を仕掛けているが、未だに勝てた試しが無かった。
一時はこんな子供じみた事を止めようと考えた時もあったが、ここまで来ると意地でも負かしたい気持ちの方が強く、だから私は事ある毎にお兄様に助言を求めていたのだった。
「そうだなぁ……お前は女の子で、殿下は男だ。それに年齢も一歳違う。何事においても殿下の方が秀でるのは当たり前だ。それでも、勝負事に勝ちたいというのなら、ハンデを付けるべきじゃないかなぁ」
「そんなのダメですわ!対等じゃ無いわ!」
私は思わずお兄様の案に、意を唱えてしまった。だってハンデを要求して勝っても、真に殿下を負かしたことにならないから。
するとお兄様は、呆れたような顔でこちらをみると、この話題を投げ出してしまった。
「……お前のそういう真っ直ぐな所は凄く良いと思うけど、そうなると、僕から言える事はもう、何も無いかな」
「そんな!お兄様、諦めないでください!」
「お前はそろそろ諦めてくれないか?!」
思えばお兄様とも、何年も同じような会話をしているが、それでも一向に殿下攻略の糸口は見つからなかった。
***
ひとまず勝負のことは忘れ、私は自室に戻ると外出の支度を始めた。
この国では十二歳の誕生日に、神殿で魔力測定の儀式を受ける必要があるのだ。
だから私は、外出用の新しい青いドレスに袖を通し、侍女に髪をレースのリボンで結って貰って、神殿に行くために最高に可愛く身支度を整えた。
(やっぱり、今日の私最高だわ!)
私は鏡の前でくるりと一回転をし、新しいドレスを身に纏った自分の姿を見て満足していた。すると、扉がノックされ、お父様が顔をのぞかせたのだった。
「アディルナ、そろそろ出掛けるよ」
「はい、お父様!」
私は待ってましたとばかりに元気よく返事をした。すると、お父様は優しく目を細めて私を見つめた。
「私の可愛いアディルナ。もうすっかり立派な淑女だね」
「当然です。だってもう、十二歳なんですから!」
「元気が良いけど、少し落ち着きが無いかな。……緊張しているかい?」
「す、少しだけ……でも大丈夫ですわ!お父様とお母様の娘ですもの。お兄様がそうであるように、私もお父様たちと同じ高魔力保持者ですわ!」
この時の私は、本気で自分には高い魔力があると思っていた。
まさか自分に魔力が無いなんて、夢にも思っていなかった。
だからまだ何も知らない私は、期待を胸に、お父様と手を繋いで意気揚々と神殿へと出かけたのだった。




