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CHANGE〜近くて遠い幼馴染の距離〜  作者: RIKA


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8/8

8.想いよ、届け

原田さんには体育館のギャラリー席で待つように薦められたけど、悪戯に篤志の邪魔をしたくなかった。

だから私は篤志に気付かれないように体育館の裏口からこっそり覗きこむようにして、部活が終わるのを待つことにした。

篤志は私に気付くことなく、練習に集中している。バスケをしている篤志はとても楽しそうで、とても眩しく見えた。


(あーあ。ほんっと、私って単純)


我ながら呆れてしまう。だってこの二ヶ月、篤志を見ないように、忘れるようにって努めてきたのに。

こうして篤志を見ただけで、愛しい想いが堰を切ったように溢れてくる。


結局、気持ちに嘘はつけなかった。

感情をコントロールできるわけもないのに、何とか抑えつけようとしてた。

そんなことしたって無駄なのにね。だって念じるくらいで忘れられるような、安い恋じゃない。


(――好きだよ、篤志)


心の中でなら、もう数え切れないくらい叫んだ気持ち。

ねぇ、好きだよ。ずっとずっと、好きだったの。もう自分でも訳わかんないくらい。

バスケットボールでなく、私を追いかけてほしい。ゴールだけでなく、私を見つめてほしい。

そんなこと、口にしたら篤志は何て言うかな。らしくないって笑う?それとも気持ち悪いって顔をしかめる?

でも、私だって一人の女の子だよ。…幼馴染である前に、ただの女の子だよ。



それから1時間程経って、練習は終わりを迎えた。

片付けの後、顧問の先生に一言二言の言葉をもらって部員達が解散していく。

久しぶりの再会だったし、どう話しかけたらいいか悩んでいると、原田さんと一瞬目が合ってふわりと彼女が微笑んだ。

そして彼女は篤志に何やら一言声をかけ、ちらりと私の方へ篤志の視線を促してくれた。

自然、篤志と目が合って、篤志の顔が強張る。

その複雑な表情に胸が痛んだけど、私は努めて笑顔で手を挙げて応えた。

篤志は困惑した様子を隠すことなく、こちらの方へ近づいてくる。

なんてことない場面なのに、私の心臓は今までになく緊張していた。


「おすっ!元気してた?」


まるで何もなかったかのように、いつもどおりに茶化した挨拶をした。

だけど篤志は突然の状況を上手く呑みこめていないのか――それとも原田さんに誤解されることを恐れているのか、険しい顔のままだ。

でも、私は挫けないよ。だって、彼女に勝負できるものは結局、この想いしかないんだもの。


「…どうしたんだよ、急に」

「ん~、何か篤志の顔を見たくなって。あ、プレゼント、ありがとう。覚えててくれたんだね」

「…ああ」


ぶっきらぼうに視線を逸らす篤志。照れくさいのだろう。

そんなこと、隠さなくたって分かるよ。どれだけ長い間見てきたと思ってるの?


「部活終わったんならさ、一緒に帰ろうよ。ね、今日は私の誕生日だからいいでしょう?」


戸惑う篤志が拒絶しないように、そう言って押し切った。

誕生日を武器にするなんてやっぱり面倒くさいって思われてるかな。

でも、私だって必死なの。会えなかった時間の隙間を埋めて、そうして、やっぱり篤志の側にいさせてほしい。


篤志は探るように私を暫し見つめると、「着替えてくるから、校門で待ってて」と言った。

部室に向かうその後ろ姿を見つめながら、私は静かにほっと息をはく。

…とりあえず、第一関門はクリア。この後一緒に帰りながら、あの日のことをまず謝ろう。

そうして他愛もない話をして、篤志に笑ってもらいたい。

ねぇ、どんな豪華なプレゼントより、それが欲しいよ。


「…よしっ」


一つ深呼吸をして、私は校門に向かって歩き出した。

もうくよくよしたりしない。自分にネガティブにもならない。

だって私は私のままでいいって、原田さんが言ってくれたから。


ちらりと体育館の中の彼女を見やると、まだ最後の後片付けが残っているのか、原田さんは忙しそうにしている。そんな中、彼女は顧問の先生に声をかけられると嬉しそうに振り返った。

その瞬間、胸をよぎる妙な違和感。

だってその笑顔はあまりに、さっき彼女が見せた特別な笑顔に似ていたから。


(…まさか?)


彼女が好きな人って、顧問の先生のことだろうか――そこまで思って、私はそれ以上の詮索を止めた。

だって、今は誰かの恋のことを考えてるような余裕はない。

私は自分の恋を追いかけなければならないのだから。


「ありがとう、原田さん」


小さな声で彼女に感謝を告げた。もちろん、こんなとこからじゃ彼女に届くわけもないこと分かってる。

でも彼女は、間違いなく私に大きな影響を与えた人。

どんな恋をしているかは知らないけど、彼女にだって悩みはあるんだろう。

そう。幸せそうに見える人にも、悩みはある。すべてが順風満帆な人なんてきっといない――そう分かったから、もう自分を否定したりはしないよ。


私は部活動生に紛れて、体育館を後にした。

髪を撫でる微風(そよかぜ)、頭上に広がる蒼い空、眩しく輝く太陽。その全てが、まるで私を応援してくれているようだ。

そうやって、色んな偶然や出来事が今、私の背中を押している。

――今日こそは素直になれそう。

確信めいた予感を抱きながら、私は校門へと速足で向かった。



***



校門で待つこと約10分。

相変わらず微妙な表情を浮かべた篤志がやってきた。

上はTシャツ、下はジャージ。愛用のスポーツバッグを背負って、いかにも部活男子って感じがする。


「お疲れ様。汗だくじゃん。今日も練習ハードだったの?」


なるべく気まずくならないように、いつもの調子で話しかけた。


「まあな。あの鬼顧問、酷いメニューを平気で言うんだ」


ぎこちなさはあるけどいつも通りに答えてくれた篤志に、内心ほっと息をつく。


「へぇ、すごく優しそうなのに意外。人当たり良くてかっこいいし、モテそう」

「は?どこが?俺の方がモテるし、若いし」


個人的印象を言っただけなのに、篤志に即行で否定された。

うーむ、どうやら本気で顧問の先生のことを好きでないと思われる。…ていうか!


「若いって、そこ比べるところ?そりゃ確かに篤志の方が若いけど、あの人だってきっとまだ二十代でしょ?むしろ大人の余裕感じたよ?」

「顧問のことよく知らないからそう言えるんだよ」


ムキになって毒づく篤志は珍しい。もしかしたら部活以外にでも何か先生の気に入らないことがあるのだろうか。

とはいえ、この話題で気まずくなっては元も子もない。

顧問の先生の話はこの辺にして、私は話題を変えることにした。


「それはそうと、久しぶりに篤志のバスケ見たら、なんか懐かしくなっちゃった。中学の頃、しょっちゅう見に行ってたからさ」

「…そういえば、そうだったな」

「中学の頃より上手くなってるって一目で分かったよ。さすがエースって感じ。ああ、見て篤志、あんなところにアイスクリーム屋さんが!」

「俺を(おだ)ててアイス奢らせるつもりだな?」


呆れたように篤志が笑って、その笑顔に私もふふっと笑った。

久しぶりに見た篤志の素の笑顔。

ねえ、たったそれだけで、すごく幸せなんだよ。


「でもまあ、今日は誕生日だし」

言いながら、篤志が私を見下ろす。以前のように、穏やかな眼差しで。

「せっかくだから、買ってやるよ」

「うっそ、マジ!?さっすが篤志!」


図らずしも冗談が本当になって、私は手を叩いて喜ぶ。

でも本当は、アイスが嬉しいんじゃない。もちろん、それもあるけどさ。

9割ぐらいは、篤志の気持ちが嬉しいから。

篤志が笑ってくれたこと、篤志が私のためにと言ってくれたその気持ちが嬉しいんだ。

ねぇ篤志は、そのことちゃんと分かってるのかな?


「…ありがとね」


並んで歩きながら、ぽろりと本音をこぼした。

足元を見ながら、私は続ける。


「私、最低なこと言ったのに、ありがとう。誕生日覚えててくれて嬉しかった」


おどけるのは得意なのに、こういう本気ムードはとても苦手だ。

隣の篤志も、慣れない雰囲気に若干戸惑っている様子なのは否めない。

だけど、伝えなきゃと思ったから。こんな時でなきゃ、素直になるってとても難しいことだから。


「原田さんのことも…ごめん。本当はすごく素敵な人だって分かってるのに。私、悔しくて」

「……?」


説明を求めて、篤志の視線が私に向いたのが分かった。

いつもなら喜んで篤志を見返すけど、今はできない。

それは多分、原田さんに対する懺悔を含んでいたからだ。


「原田さんが羨ましかった。可愛くて、凛として…こんな私にも優しくて。だって彼女がいると自分が霞んじゃうんだもん」

「霞むって」

「そうでしょ。だって篤志、彼女のことばかり見てた。篤志見てたら、彼女のこと好きなんだなってすぐ分かった。だから、嫉妬したの」

「嫉妬?」

「そう、嫉妬」


醜い感情は、認めてしまえば楽になる。

私は、ずっと彼女を妬んでいた。だけど結局憎むことはできなかった。彼女の手が、あまりに温かかったから。


「なんでお前が紗妃に嫉妬するんだよ?俺が紗妃を好きなことと何の関係があるわけ?」


篤志が理解できないと言わんばかりにそう尋ねた。

あまりにとんちんかん過ぎて、今度は私の方が呆れ果ててしまう。


…まったく、もう。本当に鈍感だよね、篤志って。

フツーここまで言ったら気付かないもんかな?

でも、いいよ。今日は私の誕生日だし?ラッキーなことに私は上機嫌なの。

――全部、打ち明けてあげるよ。


赤信号で二人の歩みが止まる。

私は「ん~」ともったいぶって、それから真直ぐ前を見据えたまま言った。


「だって私、篤志のこと好きだから」

「……え?」


さらりと口から飛びだした言葉。

あまりのあっけなさに、私自身が驚いたくらいだ。

ましてや隣の篤志なんてそれ以上で、いつまで待っても聞こえてこない返事に、篤志がそこにいるか疑ってしまった。

ちらりと篤志の方を見上げると、完全に呆けた顔をしている。

その表情があまりに間抜けだったから、私は思わず声をあげて笑ってしまった。


「なんて顔してんのよ」


からかうように、篤志の顔を指さして笑う。

そうしているうちに信号が青になって、私は歩きだす。

篤志の足音が聞こえてこないのを見ると、その戸惑いぶりたるや半端じゃないらしい。

ふふん、いい気味だ。思う存分戸惑えばいい。


「…愛美」


数秒遅れてついてきた足音。

久しぶりに私の名前を呼んだ声音すら、愛しい。

ねぇ、もっと呼んでよ。私の名前、呼んでほしい。

その度に私は自分の名前が好きになる。…だから、今は立ち止まらないから。


「――愛美!」


駆け足で追いついた篤志が、横断歩道を渡り切ったところでぎゅっと私の腕を掴んだ。

反射的に歩みを止めて篤志を見上げると、篤志は今までに見たことのないくらい、困惑した表情を浮かべていた。

そのあまりの真剣さに、今度は私の胸が締め付けられる。

…止めてよ。そんな顔が見たくて、想いを告げたわけじゃない。


「愛美、俺は…」

「あれ、あそこに新しい焼き肉屋さんできたんだね!美味しそ~!今度行こうよ」


その先を聞きたくなくて私は咄嗟に目に入った飲食店を指さした。

だけど篤志はそれを許してはくれなくて、私の腕を強く引いて立ち止まった。


「もしそれが、恋愛的な意味なんだとしたら。…俺は、紗妃が好きなんだよ」


その台詞に、一瞬時間が止まったようだった。

――分かっていても、そう口にされるとさすがに痛むものがある。


「恋愛的、に決まってるでしょ。そんでもって、篤志が原田さんを好きなのも知ってるってば。さっきそう言わなかった?」


篤志が彼女を好きだなんて、知ってるよ。そんなの、分かりすぎるくらいに知ってる。

初めて彼女の存在を知った時から予感がしてた。

あぁ、この子が好きなんだって。だから嫉妬したんだもん。

でも、ね。


「…いいよ、誰を好きでも。私が勝手に好きなだけだから。今までどおり、ただの幼馴染でいい。側にいられたら、それで」

「愛美、でもそれじゃお前が…」

「いーの!私がいいって言ってるんだから。…好きでいるくらい、自由でしょ?」


言いながら、声が涙で震えた。

答えはやっぱり思った通りだったけれど、後悔はしていない。

私は、私を認めてくれた彼女に嫉妬するのではなく、いつか彼女に届けるように頑張りたいと思う。時間はかかるかもしれないけど、きっといつか彼女を超えて見せる。

その決意だけは誰にも、篤志ですら、止めることはできない。


ねぇ、篤志のために、私きっといい女になるから。

だから答えはそのときに聞かせてよね。

もっとも、断られてもしつこくアタックし続けるけど?なんせ十数年の年季が入ってますから。


「でも早くしないと、篤志よりかっこいい男の人を好きになっちゃうかもしれないから、調子に乗んないでよねっ!」


鼻をすすり、赤くなった目で、それでも必死に茶化しながら見上げたけど、篤志は笑いもせず、複雑な瞳で私を見下ろしている。

篤志は何かを言いかけたけど、私は無言でそれを制した。

根は真面目な篤志だ。私に対していい加減な答えを出せるわけないことも、自惚れじゃなく分かっている。

でも、言わないでよ。ネガティブな言葉は、望んでいないの。

好きでいさせてくれるならそれでいい。

だって明日何が起きるかなんて、誰にも分からないでしょう?


暫し、沈黙の会話が続く。恐らく、私の言いたいことを分かってくれたのだろう。

篤志は私の腕を放し、そして一度視線を外すと、それからいつもの口調で、こう言った。


「…乗らねーよ」


多分、それは篤志の精一杯の優しさ。

それが分かるから、とても嬉しいよ。


「ありがとう、篤志」


好きでいさせてくれてありがとう。

その言葉は呑みこんだ。言わなくても、篤志には届いているだろうから。


「待ってるうちにババアになっても知らねーぞ」

「そのまえに篤志を落として見せるし!あと3年もすれば色気むんむんの予定だから楽しみにしてて!」

「想像したくねー」

「なんだとー!?」


きゃははとはしゃぎながら、無邪気な顔をして私たちは歩いていく。

しばらくはまだ、幼馴染のまま。だけど本当は、今までと同じじゃいられないことも解ってる。

踏み出したこの一歩はささやかだけど、確かな変化だ。

そして運命はいつだって、そんな一歩から始まる。


明日二人がどうなるかなんて分からないけど、私は期待したい。

そして、いつか篤志を振り向かせることができたなら、その時は強気にこう言ってやろう。

きっと今より大人びた瞳を覗き込み、「ほらね。篤志のことなら、運命でも何でも分かるんだから」って。

そうして唇に贈ったキスに篤志が優しく笑ってくれるの。ねぇ、そんな日を私は鮮明に想像できるよ。


――もっとも。

それが現実になるにはあと10年くらい待つことになるんだけど、ね。


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