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CHANGE〜近くて遠い幼馴染の距離〜  作者: RIKA


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4.もう側にはいられない

家に帰ってからもずっと、私はベッドの上で泣いていた。

日が暮れて薄暗くなっても、灯りをつける気力すらない。

瞼の裏に、原田さんを見つめる篤志の眼差しがちらついて仕方がなかった。


(――あんな顔するなんて、知らなかった)


十数年一緒にいるのに、あんな優しそうな篤志、見たことない。

きっとあれが特別な子にだけ見せる顔なんだ。

つまり、その顔を知らなかった私は…。


「可愛い人だったな…」


その存在を知ってほんの数日しか経っていないのに、もはや私にとって彼女は圧倒的な存在だった。

女の私でさえ胸をときめかせたぐらいだ。男の篤志が彼女に惹かれたって何の不思議もない。

しかも、彼女は私に微笑みかけた。彼女と言葉を交わしただけで、優しい人だって分かってしまった。

それが私の劣等感を刺激して一層傷つくのだ。


「あんな人に、敵うわけないじゃんかぁ…」


呟いたら、また涙が出てきた。

前途多難どころじゃない、絶望的なな片思い。

僅かな突破口すら見つからない。

一体私はどうしたらいい?彼女を超えることが果たしてできるのだろうか?

それともこのまま篤志と彼女の絆が深まっていくのを見ているしかできないの?

でもそんなの辛すぎる。ねぇ、辛すぎるよ…。


「篤志のバカ!壁が高すぎるっつーの!」


行き場のない想いは篤志への不満に変わって、ついに私は大声を上げた。

手もとのクッションを床に投げつけたけど、そんなことをしても却って虚しいだけ。

ひがんでばかりの自分が情けなくなって、また鼻をすすった、そのとき。


「――俺が何だって?」


突然背後から篤志の声が聞こえて、心臓が跳ねあがった。

振り返ると、部屋の入り口にいつの間にか篤志がいて、私は驚きのあまりベッドから転げ落ちてしまった。


「ノ、ノックぐらいしなさいよっ!!」

「したけど。聞こえてなかったのかよ。ていうか暗い部屋で何してんの?電気つけるぞ」

「え、な、ちょっと待…っ――!」


止める暇もなく一瞬にして部屋が明るくなって、私は赤く腫れた目で篤志と視線を合わせることになってしまった。

篤志はそんな私に驚いて目を見張っている。

だから待ってって言ったのに…。


「泣いてたのか?」

「べ、別にカンケーないでしょっ!本読んでたら感動しちゃってっ」

「…暗いのに?」

「そーゆー気分だったのよっ」


我ながら滅茶苦茶な言い訳。だけど本当のことなんて言えるわけない。

篤志が好きになった子が素敵過ぎて打ちのめされたなんて、口が裂けても。


「な、何の用事!?」

「…いや、用事っていうか。お前、今日の昼間何も言わずに帰っただろ。気付いたら姿見えなくなったから」


言いにくそうな篤志に、単純な私の心臓が小さく鳴った。

まさか、心配してくれたのだろうか。私がいなくなったから気にかけて、それで来てくれたの?

つまり、ほんの少しでも私のこと、気にしてくれてるってこと…?


――だけど。


「あのな、一言ぐらい言ってから帰れよ。突然いなくなったから紗妃が心配してたぞ」

「…え?」

「俺に迷惑かけんのはいいけど、紗妃には二度とかけるな」


冗談なんてひとつもない、真剣な声音で放たれた一言に、私は今度こそ言葉を失った。


(なんだ…そういう、こと…)


視線を落とし、私は脱力する。

…私だって、さすがにそこまで馬鹿じゃない。今の一言で全て分かってしまった。


つまり、篤志がここに来たのはあの人のため。

私を心配してくれたのは彼女であって、篤志じゃない。

言い換えれば、彼女が気にしてなかったらここには来なかったということ。

篤志はただ、彼女の気持ちを守りたかっただけなのだ。


…あーあ、もうほんと、嫌になっちゃうなぁ。

彼女はどうやらこんなところでも私を打ち負かすらしい。


「…別に、関係ないでしょ」


もう、どうでもいいと思った。

だって、どうしようもなく惨めだったから。

どれほど頑張ったところでお前に勝ち目なんかない――そう篤志に言われた気がしたから。


胸の奥で、悔しさと悲しみがぐちゃぐちゃに混ざって感情を黒く染めていく。

気付けば、私は自分のものとは思えないくらい冷たい言葉を吐き出していた。


「…ほっといてよ。別にあの子が何を思おうと私の知ったことじゃない。大体、苦手なんだよね、ああいう裏がありそうなタイプ」

「…は?」


篤志の声音が少し低くなる。だけどそれを私はいい気味だと思った。

だって私ばかり塞ぎこむなんてフェアじゃない。

篤志もムカつけばいい。今日という日を最悪だと思えばいい。――私と同じように。


「だってあの子、一見すごい優しいけど、本当は腹黒そうじゃない?ほら、綺麗な花には棘があるって言うもんね」

「お前、何言ってんだよ」

「気をつけなよー、くれぐれも騙されないようにね」


言いながら、自分で自分に嫌気がさした。

…本当は、そんなこと微塵も思ってなんかない。

あの子がそんなことするようには全然見えないし、偽りない人なんだろうってことも分かってる。

だけどそれでも私の口は止まらなかった。

彼女への羨望と、私の想いにちっとも気付いてくれない篤志に、何もかもを崩してしまいたくなった。


好きになってもらえないなら、いっそ憎んでよ。

どうせ、ただの幼馴染のままでなんていられない。

それなら私を恨んで。その心に何かを残せるなら、それでいい。


「人の良さそうな顔してさ、裏ではすごく遊んでたりして。あんな可愛いけりゃ、寄ってくる男なんてわんさかいるだろうし」

「…やめろ」


ますます篤志の声音が低くなった。だけど私だってもう、後には引けない。


「付き合えたところで、乗り換えも早そう。なんなら二股だってなんの罪悪感もなくかけ…」

「――やめろ!!」


部屋中に怒声が響いて、びくりと体が跳ねた。見上げると、篤志は今までになく怖い顔をしていた。

全身で怒っている。好きな子を侮辱されたのだ、それも当然だろう。

でも、知らないでしょ?

昼間、篤志が彼女を見つめるその側で私がどれだけ惨めな気分だったか。

十数年も側にいるのに振り向いてもらえない私の辛さなんて――微塵も。


「…何よ。冗談じゃん、そんな怒んないでよ。意味分かんない」

「意味わかんねーのはお前の方だろ。紗妃がお前に何したっていうんだよ」

「別に、何も。思ったことをそのまま口にしただけ」


そう言って顔を背け、窓の外を見た。これ以上、篤志の視線を受け止めることができなかった。

…泣き出しそうな自分を、篤志にだけは見せたくなかった。


「マジでがっかりだわ。頭冷やせ」


篤志はそう言い捨てると、バタン、と大きな音を立ててドアを閉めて出て行った。

階段を下りていく足音は乱暴で、篤志の怒りを表している。

――今ならまだ間に合う。

このドアを開けて追いかけて、全部嘘だって言えたなら。


だけどそんな勇気も資格も、私は持ち合せていなかった。

もうこれ以上、そばに居てはいけない。傷つきたくも、傷つけたくもないから。

篤志との決別が私の願いであり罰なのだと、自分に何度も言い聞かせていた。



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