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-8 番付

バトルを組み込んでみました。


戦闘描写は、周りの事についての文章も吟味してテンポ良く進めないといけないのが難しいですよね。

 試合が始まり5分以上過ぎたあたりだろうか。俺の軽快なフットワークに、なかなか竹がはぜる音がしないまま空振りしてしまう竹刀に苛立ったのか、今井が両手で竹刀を持つのを止めて、片手で柄を握りしめた。竹刀を居合いの形までゆっくりとスライドさせ、目を瞑る。


 何をしかける……?


 無闇に近づいても反撃を喰らうだけなので、俺は体を今井に向けたままバックステップ。安全な位置まで下がる。


 およそ10mの距離。近づかなければ危険な居合い斬りなら、これほど距離があれば問題ないはず……。もし居合い以外の攻撃をしてきたとしても対応できるだろう。


 今井はなおも目を瞑り続け、さらに深呼吸ひとつ。


 そして、今井の目が再び開かれたと思った時には。



 彼の顔が、目の前にあった。



「っつ?!」



 俺は反射的かつ直感的に、体を逸らすだけでは意味が無いと判断し、体を後ろに倒す。体育館のバスケットゴール下辺りの床に両手をつけ、ブリッジの体勢を作る。


 天井を見上げる姿勢の俺の体の上では、逆光で真っ黒に見える棒状の物が、すごい勢いで通過していた。棒の速度が落ちたので首を向けてみると、やはりそれは彼の竹刀だった。


 ……おいおい。間近で見て分かったが、あれ、いなせるとか、弾けるとかのレベルじゃないスピードだったぞ……。当たったら確実に病院送りじゃねぇか……。


 ……ん?


 良く見ると、彼の剣道具である胴の部分が完全にがら空きだ。竹刀は右腕側に落ち、何も持っていない左腕はさっき彼の攻撃のカウンター時に拳を当てたので麻痺しているようだ。……チャンス。


 俺は腕に力を溜めて、横に跳ぶ。跳ね起きの応用で、今井にドロップキックをかます。


 当たれ……当たれ…………!


「当たった!」


「ぐふっ……!」


 当然のように吹っ飛んでいく今井。手から離れていく竹刀。二つの物体が床につくのはほぼ同時だった。オラオラ、これからもっとぼっこぼこにして……。


 グキッ!


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!」


 右の足首を捻った。胴部の頑丈な守りに足をやっちまったらしい。つか、当たり前だ!こっちは真っ黒な鉄だかなんだかを素足(動きやすくするため)で蹴っ飛ばしてんだから!そりゃ足の一つくらい捻るわ!むしろ片足だけって言うのが奇跡だわ!アホー!


 と、心の内面で叫んでみるも、何しろ若干赤く腫れてきた足首が痛すぎて言葉にならない。足を抱えたまま声を振り絞ってみるも、


「……その防具は、無し、だろ……」


 負け惜しみのセリフしか出てこない。向こうでは、その言葉に反応して今井がムクリと立ち上がる気配。ダメージはあったらしく、のろのろとした様子で、落とした自分の得物を取りに行く。


 右手で拾い、竹刀に問題がないか確認しながら、彼は笑った。


「その分、スピードが無くなる……。プラマイゼロだよ……」


「……あの一瞬で近づくやつは、何だったんだよ……。思わず口づけしてしまいそうだったぜ」


 お互いに、息を頻繁に吐きながら喋る。フットワークの鍵である足をやられた俺としてはさっきの両足蹴りは失敗だった気がするが、ヤツには今の吹っ飛んだ衝撃と、先の左手の麻痺が残っている。受けた痛みは同じくらいだろう。その証拠に、今井は右手で竹刀を持ちながら自分の左腕を押さえている。


「……アレは、お前が瞬きをした瞬間に床を蹴り飛ばしただけさ……」


「……サラリととんでもない事言いのけやがったな、こいつ……よっと」


 俺も立ち上がる。普通に歩く分には問題ないだろうが、大きな動きは避けたほうがいい。つまり、これからはあの剣戟を身体に浴びながら殴りに行くのを覚悟しなければならない。……死ぬかな、俺。


「さて、あと十分か……。逃げきれそうも無いし、早々にしとめなきゃだなぁ……」


「………それにしてもお前、意外にいつもこの授業本気だよな。こういう中二臭いのは、嫌いって言ってなかったか?」


「…特典目当てだよ、俺の狙いは。校内ランキング2位さん♪」


「ふ、現金なヤツめ…………ハッ!」


 先ほどと同じように居合いの姿勢で近づいてくる今井。今度は瞼を落とすことなく、避けることもなく、臨戦体勢で迎え撃つ。


 全ては、賞品……じゃなかった、勝利のため。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「あー、あんなに腫れてるよ……大丈夫かなぁ、希我」


 確実に面を狙った攻撃を、希我がギリギリの所で避ける。その様子を見ているのはこのボク、秋山旬です。


 他のみんなほど戦闘狂じゃないボクは、野球部のボウズ君の投球を鳩尾に喰らい、サクッと降参してきた。今は、体育座りしていたエアルちゃんを誘って、希我の試合を見ている。


 しかし、相変わらず危険な闘い方だ。試合に夢中になると反復横とび78回の記録を持つ足を全く生かさずに、ただ相手を殴るマシーンになるのが彼の本当の意味で悪い癖だ。週末にボクシングの試合が控えている人間とはとても思えない。あれでは体を傷つけているだけじゃないか。


「ねぇエアルちゃん、今度希我に言ってやってよ。いつかマジで大怪我するって……」


「どよよ~ん」


「………………」


 話しかけてみるも、希我から聞いた朝の事件のことを完全に引きずっているらしい。そ、そんなにショックなんだ……。そして、自分が他人を無視するのはいいんだ……。


 ボクはもっとよく希我の試合を観察することにした。所属は卓球部のボクだが、一応ボクシングの経験はあるので何かしらアドバイスはできるはずだ。そうぼんやりと思っていると、隣で誰かが希我の試合を見ているのに気がついた。


「あ~あ。希我くんたら、あんなに怪我しちゃって……。後でこれでもかって言うくらいボディータッチしながら手当てして上げなきゃ……。うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


「その壊れた笑い方とボディータッチはいいとして、よろしく頼むよいをちゃ……いをちゃん?!!!!」


 ふと振り向くと灰髪小学生サイズ中学生の前田いをが、東中のセーラー服を着て腕を組んだ立っていた。彼女はこちらを見て笑うと、急に顔を引き締め、額の斜め30cmほどずらしたところに右手を掲示。警察とかでよく見かける、敬礼の姿勢だ。


「こんにちわであります、秋山せんぱい♪」


「何で……はもう分かりきったことだけど、」


 この子が希我のことを大好きで大好きで大好きでしょうがないのは、この学校、いやこの街中が知っている事実だ。ちなみに、希我が彼女を相手にしていないため、ひそかに結成された「いをちゃんファンクラブ」の皆様が、希我に殺意を持っている。こないだもファンクラブの30人が廊下で希我に奇襲を掛けていた。まぁ当然のように屋上から足を紐で吊るされていたが。


「……いつからいたの……?」


「ん~と~。せんぱいがエアルを誘ってここに座りに行ったあたりですかねー」


「ほぼ最初からじゃん!」


 エアルちゃんも侮れないが、この子もなかなか(というか相当)に侮れない。希我は、言葉を選ばなければこんなにおてんばな女の子を雇っているのか、そう再確認した。



「ずっと気になってたんですけど……」


 五時間目の授業が自習になったので堂々と学校から抜け出してきたらしいいをちゃんが希我の応援をしながら、ある質問をしてきた。


「希我くん、何であんなに頑張っているんですか?希我くんに聞いても、ウチの高校に来れば分かる、って教えてくれなくて……。他のみんなに聞いても、同じように首を横に振るだけで……」


「それは……」


 うーん。教えていいものか……。


 悩んでいると、エアルちゃんが助け舟を出してくれた。


「いいわよ、教えても。別にそこまでして隠すほどじゃないし」


 両足の膝小僧の間に頭を埋めながらの発言。奇怪過ぎるが、ツッコんでいるといをちゃんが置いてけぼりにされちゃうので、そちらの方を優先させる事にする。


「じゃあ、話すよ。……先に言っておくけど、希我は、いをちゃんに悪気があってこの話題を避けてた訳じゃない事を承知していてね」


「わかりました」


「結論から言うと、生徒会長が悪いんだけど……」


 春、生徒会長が掲げた公約には、もう一つめちゃくちゃな内容の物があった。それは、この特別授業、『ケンカバトル』に関してのものだった。


『2つ目は、『ケンカバトル』をランキング制にします!』


 なんでも本人曰く、ただ闘うだけではやる気の無い生徒(例えば俺)が出てきてしまうそうな。みんなを本気にさせるためにはそれぞれの熱き闘争心が必要、だからランキング制にしてまずクラスで競争する。そして期末試験の3日後に、クラス内での1位同士が総当たりで闘う。この時、学年別ではなく校内の計18のクラスのトップが闘う。校内1位を認められた生徒には賞品が与えられる。なお、最初のランキングは生徒会が能力値を見て決める。


 ここまでは素晴らしい提案だった。あの頭のネジがはずれて脳ミソがはみ出てるほど頭が悪いと評判の会長にしては、完璧な公約だったと言えよう。


「問題だったのは、その……」


 ばしーーーーーーん!


 唐突に、竹刀のいい音が、体育館を駆け巡った。一瞬の静寂。その静かな空間を切り裂いたのは、いをちゃんの……、


「希我くん!!!!!!!!」


 悲痛な、叫び声だった。

いをちゃんはストーカーwww



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