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-7 特別授業

  あ!暑いなコンチクショー!


 と、久々に我が家に来た友達と絶賛発叫中だった作者は、じめじめするこの季節が大っっっっっっっっっっっ嫌いなのです。


 じめじめするわ、洗濯物は外に干せないわ、天パは萎れるはで最悪なわけなのです。


 あーーーーーいらいらするぅぅぅ……。

 一夜明けて、東の空が明るくなるが、今日も昨日に引き続き雲が空を覆っているため、日の出を見ることはできない。それでも昨日の夜よりは、幾分か薄い乱層雲になったようだ。


 雨も降っていないようなので、俺は飲みかけのコーヒーを店のテーブルに放置し、マイパジャマであるジャージのまま外に出る。


 屈伸等のストレッチで十分に体をほぐし、首を鳴らしてこれから足で踏み越えて行くコンクリの道を真っ直ぐ見据える。今日のノルマは、10㎞くらいでいいか。


 さぁ、孤独な一人ジョギング早朝の部へ、れっつごー。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 家に帰ると、店の入り口の前に、およそ5時間ぶりに会う赤茶髪の幼馴染がいた。


 近づきながら様子を見ていると、顔を真っ赤にして、見られたくない物を隠すように両手を背中に隠している。まぁ、布がはみ出してるし、自販機でしょっちゅう見かけるあの青い偉大なペットボトルのラベルが見えているため、答えは一目瞭然なのである。


 ……ここで無視したら面白いかも……。いつものいろいろ言われてるし……。


 脳内小アクマが、俺に魅力的……ご、ごほん。失礼な提案を囁いてきた。どんだけいぢわるなんだ、俺の小アクマ。


 も、もちろん、俺は女性に対して無礼千万なことをするつもりは毛頭も無い。ましてや、(まだ予測の域に過ぎないが)自分のために朝早くからいろいろ尽くしてくれただろう女の子に、小学生レベルのイヤガラセなんて、俺がするはずが無い……。ほら、俺の頭の中でも、アクマを倒そうとちっこい可愛らしい天使が……。


 そして通り過ぎる際。


「……………お……、おはよ」


「………………………………………………………」


 ……………。


 脳内では、アクマが天使の顎にフライングキックを見事ぶちかましていた。


 …………無視しちゃった。


 やっべー。やっちゃった事はもうしょうがない、後で謝るとして。後ろから感じるツンデレ少女特有の気配は何だろう?彼女がわなわな震えている気がする。


「…………う」


 あぁ、完全に逆鱗に触れてしまったようだ。もう怖くて後ろを向けない。先に言っておくが、彼女の戦闘能力は、怒りに身を任せればサ○ヤ人のそれを遥かに凌駕するだろう。なんて事をしてしまったんだ。


 人間、ほんの好奇心で行動しちゃいけないな。これからは自粛することを心に決め、とりあえず背中に力を入れて、ガードを固める。これで、大きな怪我はしないはずだ。


「う、う…………!」


 く、くるぞ。俺は覚悟を決める。今回に関しては、完全に自分が悪いんだ。学校に遅刻しないような時間までに、彼女の攻撃が治まるのを願おう……。


「う・うあああああああああああああああああああああああああんんんんんんん!」


 ……って泣いた?!


 俺は高速回れ右、後ろにいるはずの口うるさくてたまらない同級生、甘味エアルを見る。確かに、ぼたぼたと涙を落として大号泣していた。


 俺が唖然としていると、その場にへたり込んで道路にうずくまった。丸くなっている背中が、嗚咽で何度も上下する。


「どおおおおして、むしするのおおおおおおおおおお?!あぁあああああああああああああんんん!」


 わ、忘れていた……。こいつはツンデレで、しょっちゅう悪口を言うし素直じゃないが、無視だけは心から嫌い、相手がどんなに謝ってもなかなか泣き止まない変なヤツだった……。その証拠に、俺が土下座して謝っても、ひたすら奇声を発するだけ。


 その馬鹿でかい泣き声に、商店街の皆様もわらわらと集まってきやがった。俺達の様子を見た彼らは、「あ、またエアルちゃん泣かしたな希我!」「この落とし前、どうつけてくれるんだ!」「今度無償でウチでバイトして貰うわよ!」と思い思いに罵詈雑言を俺に浴びせてくれやがる。


 うーん、と俺はすっかり小さくなってしまった少女を宥めながら唸る。


 本当に今回は俺が悪なのは分かっているつもりなのだが、何故みんな俺が悪いと決め付ける?そんなに俺、信用ないんか。店長を辞めたほうが絶対いいと、確信してしまいそうになるではないか。


 エアルがなんとか泣き止んだ後、何でか本当に全く理解できないが、俺は商店街の皆さん全員に頭を下げまくった。うう。首痛い……。


 そして学校が始まる10分前、エアルが車で送られていったのに、俺は80キロのウェイトを体中に装着させられ、「そのカッコでガッコ行け。ずっと見ててやるから」と脅された。


 俺が汗だくになって学校に着くのは、始業のチャイムが鳴り響いてから30分後のことだった。


 うん。悪いことをすると倍どころか、百倍になって返ってくるんだね、俺達の街では。いい勉強になったよ。


 体に傷は一つも付かなかったが、心にとてつもなく大きい傷を負ってしまった俺は、生活指導の先生に怒られながら、深く深く思うのだった。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「って、訳だ」


「そりゃあ……ご愁傷様だね……」


 学校の体育館。クラスの女子と男子とイケメン体育講師が体育着を着て入り混じって話す中、クラスメイトの秋山は、どう反応したらいいか分からないと言った、微妙な顔をしてらっしゃった。そりゃそうだ。俺だってそんな話聞かされたら、何をしたらいいか分からず、癖である髪の毛いじりを始めてしまうだろう。


 隅で座っているエアルは、未だどよよーんとしたオーラを出したまま俯いている。今日のこの授業は見学にさせて貰うらしい。どんだけショックだったんだよ。まぁ、何度も言うが俺が悪かったのだが。


 午前中の授業は終わり、今は五時限目の体育。今日は火曜日なので、我が高校毎週恒例の特別内容だ。詳しいことは、これから体で証明するので、ここでは省く事にしよう。


「……気になってたんだけど、田中はどうしたの?今日一日中見なかったけど」


「さぁ?どうせサボってるんだろ?気にしなくて良くね?」


「それもそうだね」


 我らが3馬鹿トリオの一角は、俺が遅れてクラスに入ったときからいなかった。まぁ、「バンジーだ!」とか言って平気で屋上からダイブするような変態だから、心配する必要は無い……もとい、全く無いだろう。


 そうこうしているうちに、イケメン講師が点呼をとりだしていた。


「さ、行こうよ」


「うぃー」


 やる気なく、俺は腰を上げる。めんどくさいが、やるからには本気を出さなければ。


「んじゃ、いつもどおり上のランクから2人ずつペアになれー」


 はーい、と元気な声が上がる。しかしまぁ、この授業になると、みんな異様なテンションになる。何故だ、何故そんなに。



 戦闘が好きなんだ、お前達は。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 この水市立水市東高校と、西高校では、ある特別なカリキュラムが設置されている。


 その名を、『ケンカバトル』。


 いったい誰なんでしょうねぇ、こんなひどい名前をつけて、さらには採用してしまったのは。まんまじゃねぇか。一言聞いただけで何をするのかが分かるのが唯一の長所だな。


 ルールはいたってシンプル。20分以内に、自分の部活の道具を使うか、もしくは装備なしで、相手が降伏するか気絶するまでケンカする。ちなみに道具は金属だけは無し。行動範囲はそのつど決定。服装自由。


 そう、要はケンカなのである。


 もちろん、PTAの批判はすごい。地区会を開く度にこの授業の話題でもちきりになるほど。


 校長が「ケンカをすることで世の中の厳しさを知り、非行に走らなくなるのだ!」と言って生徒手帳に書き加えられたこのシステム。だが、俺はこのシステム、割と利にかなっていると大変遺憾ながら思っている。


 まず、こうやって体をぶつけ合うことは決して悪いことではない。部活やスポーツと似た一生懸命やって成果を出せたときの達成感は、普通の授業なら味わえないだろう。


 次に、人間はケンカが潜在的に大好きであると俺は考えている。いや、この場合はケンカという表現は間違っているな。強いて言うなら戦闘。少し話を変えるが、どんな人間も、子供の頃はジ○ンプなどのバトル漫画で男女問わず誰しも心をときめかせ、「自分もこんな主人公になってみたい」と思っていたはずだ。そうやって、出ないと分かっていてもかめ○め波を夢中になって練習し、ゴムゴム○ピストルに日が暮れるまで挑戦した俺達。そんな心をついこの前まで持っていたイマドキの高校生が、「ランキング」や「バトル」等のワードでワクワクしないわけが無い。


 俺はそんな少年心を小さいときに置いてきてしまったので、今ではあまりそういう気持ちは湧かないが、理解はできる。事実、俺だって当時はそういうことが大好きだったのだから。


 そんなわけで、最初はイヤイヤ言っていたあそこにいるか弱そうな女の子も、今では嬉々としてテニスラケットをサッカー部の男子に振り上げようとしている。そこにあるは、楽しい物を楽しいと思う純粋な表情だ。


 危険が無いわけではもちろん無いし、社会に出て役に立つのかと反感を買ったら俺達は何も言えないが、こうしてみんなが何かに熱中するのはとてもいいことだと思う。こんなめちゃくちゃなシステムが無ければ、こんな光景は今の腐敗した日本では見られないだろう。


 この、腐った国では。


「橘、何ボーっとしてんだ?俺達も始めるぞ」


 剣道部の今井が、早く戦いたくてしょうがないと言ったように竹刀を携えている。俺達以外のペアはとっくに準備を終えてしまったらしい。好きだなほんとお前ら。


 周りの空気に流されるように俺も今井と向かい合うと、イケメン講師は大声で叫んだ。


「じゃあ、今日も早速始めるぞ、いいな?!」


『はーい!』


「そんじゃあ……、レディー……!」




『ケンカバトル!!!!!』




 ………………………………………。


 どうでもいいが、去年の春、この学校に入学してこの授業を受けてから、俺は一度もこのアホみたいな合言葉は叫んでいない。

 ポケモンの新作が待ち遠しくてたまらなく、部屋の床をごろごろ這いずりながら悶えている作者。


 それにしても、最初の一体であるミジュマルのそばかすは残念だと思いますwwww

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