-4 予想外
結構遅れて投稿。ごめんなさい。
私、寺岡千沙は自分がバイトを始めて約2ヶ月の喫茶店『マウス☆ピース』に客が1人も訪れないという異常事態を不審に思い、現在、店周辺を調査中である……、
そう言えば聞こえはいいが、私は給料が貰えないの危惧しているだけだ。利己主義な人間の典型的思考。自分で自分が嫌になる。
しかし、あの店が私の中で特別になりつつあるのも確かな事だ。真面目でいい人間が集う場所。店員も客も、話していて落ち着く。
いつか、本当にいつか、自分の環境を、彼らなら相談できるかもしれない。言わないに越した事はないだろうが。
そのためには、まず金だ。
金を貯めて、来る日に備えなければ。
いろいろ考えている内に、近所の常連客である鈴木さんの家に着いた。
まず彼がいるか、そして何故店に来てくれないのか、調べなければ。
彼は毎日5時くらいには一人でコーヒーを飲みにくる、れっきとした店の常連客だ。彼なら何か知っているかもしれない。
しかし、チャイムを鳴らしても、鈴木さんはいなかった。
(やっぱり、どこかに出かけているのかしら?でも、客全員が出かけているなんて事は無いわよねぇ……)
すると、
「おい!早くしろよ!」
「ま、待って下さいよ……って千沙さん?」
「キミは確か……田中君?だったかしら?」
「ハイ!希我がいつもお世話になっています!」
希我君と同じクラスのボクシング部の田中君だった。もう1人は私と同じクラスでボクシング部長の武藤君。
「寺岡?こんな所で何やってんの?店は?」
「それが、かくかくしかじかで……」
「……そうか大変だな……って分かるか!それで伝わると思ってんの?!」
ノリツッコミが上手いクラスメイトだった。
私は彼らに自分の状況を順を追って説明する。私の話を聞いた2人はガラに似合わない思慮深い顔をし、彼らの状況を話してくれる。
「あのさ、今部活の仲間から電話があってさ。こ」
「公民館でウチの生徒会長と西高のヤツらがトラブったらしいんですよ」
「……おい。今俺が話して…」
「原因はまだ分かりませんが、ものすごい口論らしいんです。そこにものっそい数の野次馬がいるらしいので、きっとそのお客さんはその中にいるかもしれませんね」
「………………………」
…………。
「田中君」
「ハイ!」
満点の笑顔での返事。私は言葉を繋げる。
「大事な情報を教えてくれて、本当にありがとう」
「いえいえー♪」
「それとね、」
「はい?」
「死亡フラグよ」
「?何の話…でぅふ!」
「………………………」
「ち、ちょ、せ、先輩きまっちゃってます!ギブギブ……ふぅ、ってぎゃあああああああ!!!!!」
般若と化した校内ケンカランキング11位のボクシング部長に、田中君が文字どおりボコボコにされたのは、言うまでもない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「聞いてよ千沙!コイツ等最悪なのよ!」
「はぁ?!ふざけんなよ?!だいたいお前等がちゃんと礼儀をわきまえていれば、俺達だってとやかく言わなかったさ!」
「はぁ〜?!礼儀だぁ〜?!調子こいた風にそっちがあたし達の領地勝手に使ったんでしょーが!」
「たったそれだけのことで怒るヤツの、どこに礼儀があるんだよ!調子乗ってんのはそっちだろうが!」
「何ですって?!」
「何だよ?!」
「ねぇ!「」おい!」
『どっちが悪い?!』
知らないわよ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
何故か口論していた東高と西高の生徒会長を見た私はするりと方向転換。 私は逃げるように一度現場から去った。「ちょっと待って!」という言葉が耳にぶつかったが、無視だ無視。
私は鈴木さんを見つけた。一緒に行動しているボクシング部2人が言っていた通り、この騒動を見に来ていたよう、……というか、施設のすぐ側に家があるので、この騒音に対して一言文句を言ってやろうとして玄関を出たら、この規模の人数に圧倒させられたらしい。
とりあえず、今までの状況を把握するべく、事件の最初らへんからいたらしい鈴木さんに、話を聞くことにする。鈴木さんは、微妙な顔をして、ゆっくりと口を開いた。
「んで、今から話す事が、俺が1時間粘ってようやくこの馬鹿共から得た今回の事件の内容だよ」
事の顛末の原因は、些細な争いだったそうだ。
暗黙の了解として、私達はこの公民館の使用区域を東高と西高で分けていた。お互い仲良くやろうという善意からのルールだった。
それが今のように悪意の促進を加速させるだけの冷たいシステムになってしまったのは、今年の東高の生徒会の発案が原因だった。
「西高より良い学校にします!」
それが、今年の生徒会長(女)の生徒会選挙の公約だった。そして、それが西高との果てしない因縁関係の始まりだった。西高の人間は、事あるごとにケンカをふっかけるようになった。東高も同調してそのケンカを買った。全てはあのあっぱっぱーな生徒会長のせいだ。
そして今回の事件。今日は図書館で調べ物があるということで、彼女らは図書館に来ていた。
しかしそこには西高の生徒達(この男も脳みそがピンク)が自分達の領地で漫画を読みふけっていた。
当然ウチの馬鹿トップの薄い額の血管が切れる訳で。
彼女等は口論を始める。
その規模は通行人や帰宅途中の生徒までかき集め、一つのパニックになってしまった。今では関係のない生徒まで不平不満をお互い訴えている。おまえらの方がバカだとか、そんな事を……。悪いリーダーに完全に洗脳されているようだ。
3時から始まったこの騒動、2時間半が経っても、言い争いは止まらない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「だいたいこんな感じ」
……………………。
「……………最悪だわ………」
私はガックリと肩を落とす。私がうなだれている間、田中君が質問をしていた。
「ケーサツは何してるんですか?いやむしろ、誰でもいいけどこの暴動の仲介をしてくれる人間はいないんですか?」
確かに。でもまぁ警察は……。
「いや、警察は完全に会長に逆らえないから」
私より先に、武藤君が口を開いた。
「な、何でですか?」
「まぁ、それは今度にしようか」
私は今さほど重要ではないと考えて、田中君を制する。田中君も、それが伝わったようで、口をつむぐ。
「で、仲介してくれる人間もいたにはいたんだけど……」
「あーーーーーーーー!」
いきなり武藤君が奇声をあげた。ものすごく驚いたのだろう、彼の目はこちらが驚くほどやばかった。瞳孔が開きそうだった。
「どうしたのよ、急に……」
「あそこにいるの、ウチのボクシング部じゃね?!」
武藤君が指差したその先には、山積みになっている人の屍が……。確かに、見たことある顔だった。しかも場所は、ちょうど人ごみの中心、つまり、馬鹿生徒会長たちの争いの少し先の場所だ。
何故さっき気づかなかったのだろう、と思ったが、あの大衆の混雑っぷりなら、象をも隠せただろう。しょうがない、と思いつつ心の中で謝っておいた。ごめんなさい、さっき踏んだ気がするわ。
そしていきり立つ武藤君。……多分ではあるものの、踏みつけてしまった事は言わないでおこう。
「あいつら、いったい俺達の仲間に何しやがった……!いくぞ田中!」
「うぇ?は、はい!」
二人は人ごみを掻き分けて行ってしまう。
「待つんだ君達!」
鈴木さんが二人を呼び止めるが、彼らはもう遠く。
「おい!清水!見原!河合!下山!おいどうしたんだよ起きろ!」
「先輩!しっかりしてください!せんぱ……!……先輩?先輩!!」
「ちょ、ちょっと待てよ。じょ、冗談だろ……?なぁ、今朝みたいに馬鹿な顔見せてくれよ……おい、おい!清水ぅーーー!見原ぁーーー!河合ぃーーー!下」
『うるさぁあぁああああああぃいいいいいいいいいい!』
バスっ!ぼすっ!
二人の顔面に青紫色のパイが投げられた。
ぎゃぁああああぁぁぁぁぁぁ………………。ばた。
「……仲介してくれる勇敢な者達は、ああやってごみのようにドリアンパイ(果汁82%)を喰らって散っていくんだよ……」
「……………臭い」
鈴木さんの涙声に、私は引きつった苦笑いでテキトーなことしか言えなかった。
すると、連中私の存在に再び気づいたようで、ずんずん近づいてきた。……文句の一つでも言ってやろうか。
「ねぇ、あなた達。ボクシング部のみんなが……」
「ちょっと聞いて千沙!こいつら終いにはウチの高校のカップルがイチャイチャしすぎとか言ってきたのよ!サイテーじゃない?!ムカついたから罵倒してやったら、ウチのボクシング部にめちゃくちゃ臭いパイを投げてきたのよ?!今回の件を週末のボクシングの親善試合で決めようとしていたのに!部内ランキング1位と2位がいないんじゃ話にならないわ!」
…………………………………………。
「待ってて、会長!今すぐにウチの馬鹿店長連れてくるわ!その人の恋路を馬鹿にする変態共を抹殺するために!」
『何だと?!』
「店長?……そう、橘希我ね……。お願い千沙!彼を!」
「ええ!任せて!」
この後の鈴木さんの話によると「ええー、千沙ちゃんあんなキャラも持ってたんだ……大人っぽいイメージだったのに、なんかショック……」、だそうだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ッてわけなのよ!信じられる?!」
「信じられませんねぇその展開!田中達の事、完全に無視じゃないですか!」
とんでもない内容だった。ひどい、ひどすぎる。
「それに、今度の試合……」
「そうよ」
なんか会長様がしゃしゃり出てきた。……俺、この人あんま好きじゃないんだけどな……。
「あっちのバカ高のボクシング部トップに勝って、今度こそどちらの高校が上か、ハッキリさせてやるのよ!」
予想通りで、予想外の言葉。
「………はぁ」
俺は短く、誰にも聞こえることの無いようにひっそりとため息をつく。
……もう、どうにでもなりやがれってんだ、バカヤロー。
ちっさは きゃらが ほうかいした!(笑)