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-1 開店

なんかめちゃくちゃ長くなりました。プロローグの時の短さは一体……?

「いい加減その暑苦しいの、脱げば?今年は地球温暖化のせいでメチャクチャ気温が上がるって話だぜ?」


「あほ!これ脱いだらあの恥ずかしい服着なきゃいけないでしょ!……、もうこのバイト辞めたい……」


生粋のツンデレ、甘味エアルは顔を真っ赤にしながら反論してきた。ちょっと可愛い。店内(まだ準備中だが)なのにも関わらず、俺はエアルの頭を撫で……ようとして、左手で払いのけられる。


 ちょっと傷ついたが、気を取り直し、再びエアルに話しかける。


「今どき、メイド服が恥ずかしい奴なんてお前くらいだぞ?それにそのカッコも十分目立つっていうか恥ずかしいと思うが……」

俺は顔だけ出ているぬいぐるみ生物を一瞥する。周りのメイド服+ネズミ耳の女の子達の中に、ぽつんとシミのように浮いているこの灰色ネズミがいる様子は、いつ見てもシュールである。


「この格好は護られてる感っていうか……、なんて言うか、落ち着くのよ」


相変わらずモジモジしながらエアルは補足説明をする。こいつの恥じらいだけで、価電の奴は、ご飯10杯はいけるんだろうな、と思った。


 それでも蒸し暑い6月に毛がモコモコしている服を着ていれば、汗でスレンダーな体がさらに痩せこけてしまう。俺はやんわりと思いついた事を口にしてみた。

「じゃ、俺が価電の奴にお前専用の仕事服作ってもらうように電話してやろうか?」


この提案に、エアルは予想以上に食い付いてきた。

「ま、まぢで?!やった!約束だからね!」


満面の笑みを俺に向けるエアル。その表情に、自然と俺の顔もほころぶ。


「はいはい」


珍しくケンカをしない俺達。今日はずっとこんなカンジで何事も無く時が進んでいくといい……。


そう思えたのは一瞬だった。


「希我くん……、あたしを差し置いてエアルとイチャイチャと……。希我くんがイチャイチャしていいのはあたしだけなのに……!」

殺気を感じて、エアルと二人、恐る恐る首を回して後ろを見ると、そこにはドス黒いオーラを醸しだしていた いを が、こっちを睨み付けていた。


「……希我くん……」


「……はい」


「……昔、言ったよね?」


「……何を?」


「……あたしと結婚するって!」

「いや言ってねぇよ!」


そろそろ爆発されると思ったが、まさか有りもしない約束を持ち出されるとは!マズイ!一度大声で自分の意見に反対されると、この少女はスイッチが入ってしまう!


「なのに、仲良くエアルと新婚旅行でハワイで水着で夕日で愛で……、 いを の事なんか忘れて希我くんはハネムーンにレッツゴーなんだね?!」


「まったくもって意味がわからない?!」


「こうなったら……!」


 すると いを はどこからかナイフを右手に出現させる。……いや、いつも思うがどこから出した?


「希我くんを殺してエアルを殺して、ここにいるみんなを殺して、そしてあたしも殺して!みんなで天国行ってやる!」


 はいは……いぇぇぇぇええええ?!


 そんな声が真面目にテーブルを並べたり、窓を拭いたりしていた愛礎と架奈の口から漏れていた。まさか自分達に矢が飛んでくるとは思わなかったのだろう。……ざまぁ見さらせ、お前らも道連れだ……じゃなくて!


「落ち着け、いを!早まるな!」


「さようならこの世界……そしてこんにちはヘブンワールド!」


「だから話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 いをが右腕を真上に持ち上げた、つまり一直線上の俺をロックオンした。あとはその刃物を振り下ろすだけだ。ああ、明日の新聞の見出しは、『コスプレ喫茶で起きた心中殺人事件』に大決定だな。いつか殺されると思ってはいたが、まさかこんなに早くとは……。


 まぁ、でもなんとかなるだろ、そう思い、俺は回避の為の行動をとらない。なぜなら……。


 この人がいるからだ。


「はい、ストップね、いをちゃん」


 がしっ。


 いをのナイフを持っていた方の手首を握ってくれたのは、千沙さんだった。


「離してお姉様!みんな殺さなきゃ明るい未来は来ないの!」


 いをはあくまで抵抗していた。千沙さんが手首を掴んでいなかったら、いをはナイフを投げてでも俺を殺しただろう。さすが千沙さん。


 しかも千沙さんは いを を止める言葉すら持っていた!


「……『みんな』って、私も入っているのかしら……?」


「……っ?!」


 いをの顔がどんどん青ざめていく。頑張れ、千沙さん。ゴールは後少しだ……!


「ま、いをに限ってそれは無いわよねぇ……。私の事、だぁーーーいすきだもんねぇ……?」


「…………………………」

 もはや、いをの顔は言葉で言い表わし難い色になっていた。……あそこまでいくと、なんかかわいそうだ……。千沙さん、怖すぎ。笑顔が黒いです。


 そして。


「ご、ごめんなさい、お姉様……」


 いをが折れた。当然っちゃ当然だが。


 しかし、


「……でも!」


いをはこれで終わらなかった!


「悪いのは、エアルなんです!」


「はぁぁぁぁ?!」


 いきなりの責任転嫁にエアルはすっとんきょうな声を上げてしまった。あまりの意味不明さに、俺も驚きを隠せない。


「あたしの前で見せつけるかのように希我くんとイチャイチャイチャイチャと……!あたしが希我くんの事好きなの知っておきながらこれは酷いと思いません?!」


「エアル、謝りなさい」


「ちょ、ちさ姉?!」


 しかも何故か、千沙さんが いを 側についてしまった。


「人の恋路をジャマするなんて……ふざけるのもいい加減にしなさい!」


「え、何?真面目に言ってるの?」


「当たり前じゃない!」


 千沙さんが大変憤慨してらっしゃる。……少し価値観がずれているらしい。そして得意気な顔の いを。千沙さんの怒りの矛先をエアルに向けられて、大変満足のようだ。……全てはコイツが悪いのだが。


 そしていつの間にかヒートアップしている二人の言い争い。このカオスな状況をさらに混沌とさせるべく、さっきまで静かだった女も動きだした!


「寺岡!さっきから聞いてりゃ、的外れな事言ってんじゃねぇよ!」


「……なんですって?!」


 珍しく架奈の挑発に乗る千沙さん。三人の言葉がどんどん悪くなっていく中、もうひとりのバイトは……。


「うぅ、ボケるタイミングを失ってしまいました……」


 ……無視しよう。面倒くさい。


 店内がどんどん騒がしくなっていく中、俺の肩にぽん、と大きな手が置かれた。


「長谷川さん……」


「希我……」


 俺は大柄な料理長の顔を見る。彼はなにもかも任せろ的な笑顔を俺に向け、言った。


「大変だな、お前の店」


「いやあんたが働いている店なんだけど?!!!!!!!」


 馬鹿しかいねぇのかこの店は?!


 そう思ったところで、ドアの鈴がちりりんと鳴った。来客だ。


「こんちはー……ってあれ?まだ準備中だった?」


 若い男性の客だった。俺は急いで言葉を返す。


「いえ、そんな事無いですよ」


 いつの間にか、店内はBGMの音楽だけが聞こえていた。……良かった。仕事は本気でやるのがモットーな俺の思いは、しっかり届いている。とても嬉しい事だ。


 店長代理としては。


『いらっしゃいませ!』


 さて、皆さんお待たせしました。


 ここが。


『ネズミコスプレ喫茶』


 俺達の家。


『『マウス☆ピース』です!』


ごゆっくりどうぞ。

っていうか、むしろこの話がプロローグな気が………。気のせいですねうん。

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