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-16 鉄則

 久しぶりの更新。

 遅れてごめんね…

「おじゃましまーす!」


 ドアを開ける。

 むさ苦しい熱気と蛍光灯の眩しい光が、汚い部屋から滲み出る。

 中にはごつい男共が。

 …どこもかしこも、こんな物なのだろうか?


 ボクシング部って。


「あぁー? いったい誰……! お、お前は!」


 ギロリという鋭い視線は、すぐに動揺へと移ろいでいく。

 慌てふためきながら俺を見る連中の奥には、目的の人物が汗をタオルで拭っているところだった。

 ようやく、彼もみんなの気持ちを察したのか、周りをきょろきょろ見て。


 俺を見つけたようだ。


「………」

「小松翔ー。ちょっと話があるんだけどぉー」


 のんびり、告げる。

 その効果は、ただゴリマッチョ共を荒ぶらせるだけ。


「き、貴様! 何が目的だ!」

「翔を試合前に戦闘不能にさせようってのか!?」

「絶対にさせないぞ、そんな事!」


 ふむ。

 すっげぇめんどくさくなった。

 まぁたぶん、大丈夫だろ。


「…みんな、落ち着いてください」


 だって。


「僕も彼と話がしたい」


 そう。


 あっちも此方と接触したいはずだ。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 時は遡って昨日。

 湯飲みを持ったまま固まった俺の前には、頭を悩ませる鈴木さんの姿。

 エアルの顔は……あぁ、ダメだ。なんとも筆舌し難い…っつーかしちゃいけない物と化している。

 そこから何も言えなくなった俺達に鈴木さんが話したのは、確かこんな感じだったと思う。


「まず俺の一つ目の罪は、半分血の繋がった妹に嘘を教えた事だ。

 あいつの父親。それを偽ったんだ。

 稜の本当の父親は西区でのうのうと暮らしている俺達の母さんと一緒に暮らしてる、あいつだ。

 俺達を見捨てた馬鹿親父は、俺と翔の血族なんだ。

 何で、あいつらが翔を選んで、俺達を…いや、稜を捨てたか。

 単純に、



 能力のある方の子供を自分の配下に置きたかったんだ」



「……?」


 あ、あのー。


「さっぱり意味が分かりませんのでございますありますが…」

「俺は君の日本語が分からんよ」


 へんてこな会話。それほど混乱してんだから、仕方ないだろ!

 ほら、エアルに至ってはもうなんか目ェぐわんぐわん回してるもん! 頭から煙出てるもん!

 とまぁ、一通りボケたところで会話再開。


「まず一つ、何で稜ちゃんに嘘付いたんですか?」

「たぶん、アイツは耐えられないと思うんだ。

 アイツは、まだ子供だよ。

 すぐに感情を表に出すガキんちょなんだ。

 だからこそ、稜には教えられなかった。

 自分がもう一人の兄貴より劣っているから追いやられたなんて、アイツには教えられないよ」


 鈴木さんは茶を啜る。

 うむ、俺にはどうしようもない、事なんだ。

 ここまで関わってきてしまったなのに、ここに来て、知った事を後悔している自分がいた。

 だけど人間は、覚えるより忘れる事の方が難しい生き物だから。

 俺もエアルも、こうして俯くだけになっている。


「で、今回の件だが。

 俺達の母親は、大変自分の息子にお怒りらしい」

「…? それはどちらの息子さんですか?」

「俺……じゃなくて、翔の方だ」


 ……?

 2人して首を傾げていると、鈴木さんは笑って…いや苦笑して、説明した。


「君のトコの部長にボクシングで負けたんだって? アイツ」


 ………。

 いや。


「存じ上げてませんけど」

「ありゃ。……まぁ、あの頃は、新人の新人だったらしいからな」


 ……?

 全く意味が分からん。


「4月のボクシングの試合があったらしいんだが」

「あー。ありましたけど」

「そこで、東高の部長とぶつかって即負けたらしい」


 んー?

 俺は記憶を辿る。

 というか。


「武藤部長は全国一位だから、負けるほうがおかしいんですが…」

「そう。でも、あの家で負けは許されないんだよ、翔にとって。

 でもって。

 稜はこないだ、


 茶道検定で、1級を取った…」


 鈴木さんは俯く。

 見れば、湯飲みを持つ手が震えていた。


「あの家のたった一つにして、最低の鉄則。

 双子を産み、片方は別の男の子供である事実の下であいつらは…」


「能力の高い方を、自分のセガレにする…」


「…そーいう事」

「そんな…」


 エアル絶句。

 俺だって、今一歩頭がついていかない。

 だってそれは……


「成績が良い方が変わったら…」


「当然のように、自分の子供をコロコロ変えるんだ…!」


 ドンッ!


 空いていた左手で、鈴木さんは卓袱台を殴る。

 心配する俺達を見ると、すぐにその手を引っ込めて謝った。

 俺達は首を横に振った。

 しばらくして、エアルが口を開いた。


「…2人に、拒否権は、ないの?」

「翔曰く、無いらしい。何か、されてるのかもしれないけど、あいつは話そうとしないし」

「っていうか、優れた子を選ぶなんて事に何の意味が?」

「さぁ?」

「『さぁ?』って…」

「それを知ったところで2人がバカな大人の手から免れるとは思えないし、もっとひどい事になるのかもしれない。安全が保障できない以上、下手な詮索はできないよ」


 ………。

 ………む?


「鈴木さん」

「何?」


 俺はポケットからあるお守りを取り出す。

 月曜日、鈴木さんから手渡されたソレだ。


「鈴木さんはコレを、俺に怪我をしてほしくないって渡してくれましたよね?」

「うん」

「稜ちゃんは『争いを治める物』って言ってましたけど、どういう事ですか?」

「……その、まんまの、意味だよ」


 鈴木さんは笑った。


「君なら、どうにかしてくれそうで…。ごめん、こんなの、他人に頼むような事じゃないのに…」

「いいんじゃないんですか?」


 えっ、と驚きを顔に出す目の前の青年に、俺も、笑う。


「どうも話に足を突っ込みすぎると、ほっとけなくなる性分なんですよ」


 隣でエアルが、損な性格ね、と笑った。


「俺なりに、分からないなりに、頑張ってみますよ」


「……ありがとう」




 玄関。

 そろそろ帰らなければいけない。

 店をみんなに任せっぱなしで来ちゃったし。


「おじゃましました」

「また来てね」

「……鈴木さん、一ついいですか?」

「何だい?」


「稜ちゃんは、鈴木さんと違う父親との子なんですよね…?」


「…あぁ」

「じゃあ、何で小松翔が…?」

「ごめん、そこら辺の事を翔は教えてくれないんだ。知りたいんだったら…」


 鈴木さんは、すまなそうな顔をした。




「…翔に、会ってくれないか?」

 ややこしいわ!

 今回のお話の内容に対しての感想。

 要は「稜ちゃんか翔くんが人柱(笑)にされちゃう」って分かればおk

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