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-14 彼女

 ゴメンナサイ。

 まだバトルじゃなかったです……。


 ごめんp-ww

 俺の頭上を、紫色のパイやケーキ、クッキーがすれすれで飛んでいく。

 テーブルを壁にしているので辛うじてダメージを受けていないが、このままではジリ貧だ。


「アハハハハ。隠れてるだけじゃ、此処からは出られませんヨ?」

「うっせ! それよりお前の目的はなんだ! 何でこんな物作ってやがる!?」

「答えて欲しいんですカ? なら、教えてあげないこともないですケド」


 もったいぶるように彼女はまだ答えない。

 最近忘れ去られている設定だが、一応キレやすい俺はその言葉に苛立ちを隠せない。


「いいから言え! お前の目的は…いや、その前に、お前は誰だ!」

「しがない、家庭科部ですヨ? 橘 希我サン」

「…あ? 何で俺の名前…」

「有名人ですヨ、私たちの学校でハ」


 少し顔を上げて、表情を伺う。

 西高の制服を纏った少女は、帽子に隠れていたその目を顕にした。

 彼女の目は、憎しみに満ち溢れていた。

 俺への、というよりは、大きな何かへの憎悪。

 理由があるのだろうか。


「俺はお前の名前を名乗れって言ったんだ」

「……私は」


 彼女は表情を変えた。

 そこにあるのは憂い。

 悲しみ、だった。




「西高3年2組 家庭科部部長 毒島ぶすじま 可憐かれん。今週末貴方が戦う小松翔の、元カノです」




「アイツの…」

「別に、彼に言われてやったとか、そんなんじゃないので、彼にちょっかい出さないでくださいネ。今回の件は、私の独断なのデ」

「……狙われていたのは、俺の学校でも、ボクシング部でもなくて…」

「何を意味するのか、分かりますネ?」


 俺は今一度、顔を隠して考える。


 倒れていたのは、俺の知り合い。

 ボクシング部。

 怒りは頭に血を昇らせる。

 ここに来るという事の想定。

 つまり…


「狙われていたのは……俺…?」

「貴方を試合で不戦敗にする為、ですネ」


 …マジかよ。

 …その為に…。


「その為に、関係のない俺の仲間を苦しませたのか!? そんなの、間違ってんだろ!!」

「仕方ない事デス。貴方には、一週間は寝込んで貰わなければなりませんからネ。大変だったんですヨー? 部員のみんなにパイ投げてもらったり、クッキーを渡しに行って貰ったり」

「てっ、めぇぇええ!」


 思わず、体を出してしまう。

 しかし、そこに人影はなかった。


「後ろが、がら空きですヨ?」

「ッッ…!」


 背中に、回り込まれていた。

 瞬間的に反応しようと思うが、背中に何かを突きつけられる。


「動かないでくださいネ? 動くと、今すぐに貴方の背中が血まみれになりますヨ?」

「くっ……」


 俺は硬直し、口だけを動かす。


「おい、何でお前はそんなに小松翔を勝たせたいんだ?」

「フフ。いいですヨ、教えてあげマス」


 彼女は笑った。

 表情は見えないが、楽しそうに、ではなかった。

 こうするしかない、みたいな、心の場所がない雰囲気。

 彼女は話し出した。

 彼の、この先待ち受ける苦難を。


「彼は、」




「勝たなきゃ、彼でいられなくなるんデス」




「? どういう…」

「意味、ですカ。そのままデス。彼が、小松という名字では、いられなくなるという事デス」


 …………。

 いやいやいやいや。


「だいたい状況はしってるけど、日本語でおkなんだが…もっと読者に分かるように…」

「馬鹿にしてマス?」


 背中に硬いものが触れる。

 俺は冷や汗を体中に掻いている事をバラさないように、彼女の説明不足を言及していく。


「…アイツの、親が関係しているんだよな…?」

「…よく、分かりましたネ。どうしてその事を……?」

「………とりあえず、この体勢が嫌なんだが…」


 すると彼女は黙った。

 数分。緊張感で、妙な沈黙が永遠に感じられる。


「……いいでショウ」


 背中に風が当たった時、ようやく自分が解放された事を知る。

 と思ったら。


「……あの、腕が動かせないです…」

「当然デス。両手を縄で縛ってあるんデスから」


 腰を回して見た家庭科部部員は、犯罪級の悪事をしれっと言いのけた。





 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「どうぞ。腰をおかけクダサイ」

「……なんか、妙な気分だな。さっきまで自分に襲い掛かってきた奴と、こうやって向かい合って会話だなんて」

「心配しなくていいデスよ。話を聞いた後は、すぐに口の中に毒を流し込むのデ」


 俺は用意された椅子に、毒島と向かい合うように腰掛けた。

 腕を背中で縛られているので、若干座り辛いのだが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 このドシリアスな状況で、どんな事を聞かされるのか。

 そればかりを気にしてしまう。


「……お前は何を……そうじゃないな。どこまで、知っているんだ?」

「貴方から先に答えてクダサイ。断る権利は今の貴方には無いですヨ? 状況的に優位なのは、私なのデスから」

「……変な事に拘るな……」


 壁に掛けられている銀縁の時計を見ると、時刻は6時をまわっていた。

 店のみんな、心配してるだろうな…。

 そう思ったが、同時にまさか監禁されているとは夢にも思っていないだろうなと、心の中で嘆いた。


 俺は彼女に今回の事をおおまかに話した。


 東高と西高のモラルにおける障壁。

 鈴木家と、小松家の蟠り。

 そして俺が試合当日、どのような作戦を企てているか――――


 もちろん、そこに俺の感情論は挟まなかった。

 伝えたのは、事実と思惑。


 毒島は、悲しそうに笑った。


「貴方……大変デスね…」

「そうだな。そう思うならこの縄を解いてやってくれないか?」

「その時には貴方に意識は無い筈デス」


 さて、と彼女は息をつく。

 その仕草になんか心が揺らいだのは、ただ単に俺が男だからなのだろうか。


「話して貰ったので、ちゃんと私も報酬として情報を差し上げマス。世の中、そういうギブ&テイクが重要ですからネ」


 そして彼女は、話し出した。

 まだ全然正体の掴めない男『小松 翔』の抱える問題を。





「彼は秀才デシタ。

 彼は頑張り屋デシタ。

 彼は努力家デシタ。

 少し弱気な性格でしたけど、みんなから慕われていて、とても心の優しい、私の恋人…


 でした。


 彼は実力で、部内随一のボクシング選手になりました。

 まだ1年なのに、部内の男子全員K.O.にしちゃって、私達の学校では噂が流れました。

 そんな彼と付き合えて、とても誇らしかったです。


 ですが、彼は私に言いました。

 別れてほしいって。

 最初は、意味が分かりませんでした。

 今まで、私達の関係にヒビが入るような事は、一度も無かったんですもん。

 私は問い詰めましたが、彼は答えてくれませんでした。

 ただ一言。


 妹の、為、だって。


 それが、今貴方が話した稜ちゃんの事なんですね…。

 なんとなく、彼女を恨んだ時期もありました。

 顔も知らないのに、彼女の顔を想像してひたすら料理に自分の負の感情をぶつけていました。


 そして彼はひたすらボクシングに打ち込みました。

 私は彼の家にこっそり忍び込んで、その資料を見つけました。

 彼の、戸籍と、日記です。

 彼の部屋の机に、置いてありました。

 それは、貴方もさっき話したとおり。



 彼が、彼の両親と血が繋がっていない事、それを裏付けていて、



 そして日記には、



 彼の両親の人非道的な、行為が…」


「…………」


 彼女の語尾の変なイントネーションは、キャラ作りだったんだろうか?

 そのキャラを失うほど、辛かったのだろう。

 彼の事実を。

 彼の偽り・・の両親の非道さを、知る事が。



「『良い成果を残した者を自分の子供とする』」


 彼女は口にした。

 その形は、奇しくも鈴木さんのそれとなんとなく似ていた。


「貴方の話で、私もほとんど状況を飲み込めました。

 稜ちゃんが、茶道文化検定・・・・・・で一級を取ったという事は、彼はそれ以上の結果を残さなければならない。

 そうしなければ、稜ちゃんが……」

「だから、アイツを不戦勝にさせるのか?」

「今回負けなければ、とりあえずは、時間が出来ます。

 彼は全ての物事を丸く治めるために、勉学、運動、検定、立ち振る舞い……全てにおいて、良い結果を残すはずです。

 ですが……貴方のその力は強大だ。

 だから……彼が勝つ為に……彼の行為を無駄にしないために、私は何処までも汚れるのデス」


 理解した。

 今回の事件の事、全てを。

 あとは、アイツの心中を知れば、俺の疑問は解消される。


「だから…お願いだから…、せめて、不戦勝でいいんです…お願いします…」



「負けて、ください」



 彼女は、頭を下げた。

 俺は考えた。

 考えて考えて。

 考えて考えて考えてかんg…


「ふッ――――――――!!」


「……?」



「ざッ!!けんなぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」



 考えた。

 縄を解く方法を。

 でも相当難しい縛り方をされていたので。


 縄を、無理やり引きちぎる。


「な………!」


 縄の切れカスが宙を舞う中、毒島が唖然としていた。

 俺は勢いに任せて言う。否。叫ぶ。


「小松翔がどんな事抱えて生活してるとか、稜ちゃんがあのクソみたいな親達に引き取られるとか、そんな事はどうだっていいんだ! そんなの、俺達が深入りする必要はねぇ!!」

「そ、そんな無責任な! なら、貴方は彼らが不幸のどん底に落ちてもいいんですか!?」

「知るか!!

 だいたい俺は、そんな事話しに来たんじゃない!

 俺は俺の仲間が苦しんでるから、此処に来たんだ!!

 そしてお前が俺の仲間を苦しめた!!

 それは紛れも無い事実で、俺にとっては許しがたい事なんだよ!!

 だから俺はお前をとりあえず殴るし、帰ったら仲間と一緒に週末の試合の為の作戦を練る!! 店の準備もする!! 俺は試合には出る!!!」

「そんなの、人でなしに他ならないです! 何だってそんな事が言えるんですか!」


 それは、お前が彼の特別な何かだからだ。

 俺はアイツの…。


「俺は、ただのアイツの対戦相手だからな」

「だ、だったら……!」


 そして彼女は立ち上がり、フラスコに手を掛ける。


「貴方には、当分病院で、生活して貰いマス……!」

「それもいいさ。我を通すために実力を行使するのも」


 俺も立ち上がる。

 左手の包帯を解く。

 傷なんて、どうでもいい。

 もう壊れたっていい。

 彼女の考え方を叩きなおすなんて言わないけど。


 俺も俺の我を通すだけだ。


 両手を胸に。

 構えを、とる。

 開戦だ。

 これは、お互いの我を通すための戦い。

 つ、次こそはバトルの……はず……!



 あと今回の会話で理解しがたい内容が多かったと思います。


 たぶん遠くないうちに全部繋がるようになります。

 っていうかします。

 ……あんま期待すんなよ?


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