-10 交渉
な、なんとか今日中に投稿完了…………。
うぅ、頭痛があああああああああああああああああ!
前回までのあらすじ。
週末のボクシングの親善試合に関する事で生徒会長に要求をしに来た俺こと橘希我。
決してクーラーの素晴らしさに身も心も虜にされてなどいません。もしそんな事があっても「という夢を見たのさ!」って感じで編集してくれてあるはずです……。
「で、何しに来たんだっけ、希我君?」
「ほぇ……」
「あらら……」
嘘です。今もなお冷房をガンガン顔やら手やらに浴びています。駄目だ、俺、ここから動きたくない……。
完全に堕落した俺。このままじゃいけないなー…うーむ、喉が渇いたな。だれかー、俺の好物メロンソーダフロートを持って来てくれー……。
「はいはーい♪ただいまお持ち致しましたー♪」
「お、気がきくな。サンキュサンキュ……。…………何してやがる、いを」
「ん?メイドさんごっこ♪」
「……………………」
本日2度目のご登場のいをだった。格好は定番な赤と青のラインのセーラー服。試合の時も同じ格好だった……って事はコイツ学校ずっとサボってんのか?!
「おまっ、学校ちゃんと1回戻ったか?!つかサボっちゃダメだ!」
「う、ごめんなさい……。でも学校にはちゃんと帰ったよ。希我くんと一緒に帰ろうと思って校門まで来たら、下校してた秋山せんぱいがここにいるって教えてくれたの。なんかトラップがあるって聞いたから、天井裏を通って」
上を指すいを。見上げれば、確かにぽっかり穴が空いていた。はぁ、ツッコむのめんどくさ。
「で、蒸し暑いからついでにそこのロ〇ソンでメロンソーダとバニラバーを買って来たんだけど……迷惑だったみたいだね」
少し拗ねたようにもじもじしながら弁解し、さらには悲しみで顔を歪めるいを。な、何だ?この罪悪感。
……あぁ思い出した。このロリ少女の特技は、『涙目になると相手に後悔の念を押し付けさせる』、だったな。はっはっは。すっかり忘れてたぜ。おかげでなんか俺が悪い事したみたいじゃんか。
ほら、会長も「希我君 サ イ ア ク」と唇だけ動かしていた。
あ、あーあ、終には泣き出しちゃったよこの娘。こんな事をすると、
『希我ちゃんを泣かしたなぁあああああああああああああああああああ』
『いをちゃんファンクラブ』の皆様が黙っちゃいないのだった。
………しかし今日は運が悪かったな、お前達。
なにせここは。
『たのもー……!』
パカッ!
『え……つぎゃああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ………………!』
セキュリティ万全の金持ち生徒会長の生徒会室なんだぜ?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
俺はいをの頭を十分に撫でて彼女をどうにか泣き止ませた。…さっきの騒動のおかげで、クーラーに酔いしれていた過去の自分とようやく決別できた。ありがとな、物凄いスピードで1階に落とされた馬鹿共。
俺は会長に向き直る。彼女は暇そうに爪の手入れをしていた。…やっぱ、ウザいなぁ。
俺はこの豪華絢爛な部屋――――正確には、モナリザの絵が飾ってあったり、シャンデリアがあったりする三十畳はあるだろう部屋――――を侮蔑するように睨んだ後、あえて会長の喉に焦点をあわせながら、話し始める。そろそろ、気を引き締めなきゃな……。
「結構話逸れましたけど……お願いがあります」
「あら、私てっきりクーラーの風を浴びさせて下さいって内容のお願いだと思ってたけど、違うのね」
「うっ。」
と思ったら再び会長のペースへ。く、くそ。また刺みたいに鋭い指摘を……。この会長、割とSか?
しかしここでエアコンの事に心を奪われると話がスムーズに進まないので、さっさと要件だけ言おう。
「えと、お願いと言うのは、今度の試合で勝ったら……」
言うぞ、言うぞ?!この会話をきっかけに東高と西高の陰湿な闘いなんて、俺が根こそぎ一掃してやるぜ?!PTAの話から、親御さんの力で生徒を叩き直すように会長をうまく誘導してやるぜ?!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……………!
あ、クーラー涼しそう。
「ク、クーラーを全教室並びに全部室に設置して下さい」
「え」
「……あ」
………………。
何言ってやがる俺の虫野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお?!
馬鹿か?!俺は?!何でそこでクーラー?!意味不明もほどほどにだぞ?!分かってんのか?!俺のこの脳内発言も意味不明なの、分かってんのか?!
「く、クーラー?な、何で?あんま希我君に利益無いんじゃ?」
ほら!会長にも変な目で見られた!おいおいおいおい!そりゃ無いだろう?!後ろのいをも、完全に俺の行動に理解しかねておられるでありんしゃいでございます!そして遂には丁寧語なんだか尊敬語なんだか謙譲語なんだか、いやもはや全く新しい言葉の種類を作ったぞ、俺の脳内発言!
「いや、今のは、え~と……」
俺は今の出来事というか発言を無かったことにするため迅速に対応するが、しかし相手はどんな状況でもあの馬鹿会長。どんどん話を進めやがる。
「うーん、ま、暑いのも嫌だろうしね……」
机の引き出しから領収書を取り出し、サラサラと自分の名前と適当な金額を書き込み判子を押すと、それを俺に渡した。
「うん。報酬とか、ぶっちゃけめんどくさい。要望なら、理由があれば、ちゃんと聞いてあげるよ?」
やたら真面目な事をぬかしやがる生徒会長。なんだそれ?!めちゃめちゃ正論じゃねぇか!なんか、俺がアホの子みたいじゃんか!
「それを校長に渡せば、多分すぐにでも工事が始まって、明日には全ての部屋にクーラー完備されているはずだよ。……っと、もうこんな時間。わたし、これから家でパーティーがあるから、部屋の電気消してから帰ってねー。鍵はオートロックだから、締めるだけでいいよー」
………………。
しくじった。
ふと視線を感じて斜め横を見ると、隣でいをが、不思議な物を見る目で俺を見ていた。口をぽかんと可愛く開けている。いつもの俺なら頭でも撫でて「さぁ、帰るぞ」とか言うのだが……。
「希我くん、何がしたかったの?」
………………。
一遍、地獄を見てきたほうがいいな、俺。
さよなら現世。
涙が、つつーっと頬を垂れて、床に落ちた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ふーん。お嬢様だったんだ、東高の生徒会長」
生徒会室の鍵がしっかりかかった事を確認した俺達は、帰路をのんびり歩いていた。
「うん……まぁ、そうなりますね……ひぐ、えぐ」
「ほらほら泣かない泣かない……、うふ、この希我くん、ヤバ萌え……!!」
そう、公立水市東高等学校の生徒会長は、物凄い金持ち一家の娘なのだ。
その横暴さ、無理やりさは親譲りの物との事。だから、警察を始めとする日本の機関はだいたいこの人達の物と言っても大袈裟ではない。実際、昨日の公民館前での騒ぎだって、会長が絡んでると分かった時点で踵を返して逃げたらしい。情けない話だがそれは、会長達の権限の強さを裏付けている。
だから、その、あの、ク、クーラーの件も普通だったらあり得ない話だが、あの会長はいとも簡単にその場の常識をねじ曲げ、歪め、自分のやりたいようにする。
俺があの会長を嫌うのは、そんな人知を越えたやり方を、なんの躊躇いも無しに使うからだ。権力に任せた力の酷使は、いずれ無関係な人間の幸せまで奪ってしまう……。
あ、ここまでの俺の独り語りはこの間読んだ本の受け売りなので、あしからず。
「うーん、でも、PTAの力を使うのは、良かったんだけどなー。でも、どうしてあたし達に話さなかったの?」
いをがコクッと首を傾げながら聞いてきた。
「……う?あー…。作戦のことか……。別に話しても良かったんだけどなー、俺が試合に勝って、開場の声援がMAXになったら、最低人数でPTAの声を書き記したビラをそこにいる人に配りまくる作戦でさ、あまり『マウス☆ピース』の人間がいなくても不審だろ?」
「そうでもなくない?だって開場は希我くんの方に目がいってるんでしょ?だったら、多少変な行動してても深く詮索するような輩はいないと思うよ?」
「あ、成る程。………」
その後も作戦について話し合ったが、結局、俺の作戦は穴が多すぎると言う形になった。俺、ダメダメじゃん。
「…………………」
「ほ、ほら、元気出して、希我くん!まだ作戦なんていくらでもあるよ!」
「……ホントに?」
「う、うん!今度はあたしも手伝うからさ!……だからそのテンション止めて?あたしは、いつもの元気でカッコいい希我くんが好きだよ?」
「なんか、その急な告白が俺のやる気を削ぐんだけど、それはまぁ、この際いいや。で、具体的な案はある?」
「えっとねー……」
いをはしばらく目をキョロキョロさせると、俺の手元で眼球を止めた。そして、俺の手元からある物をひったくるように取った。
「ちょっとズルいけど、これを使おうよ」
いをは小悪魔的笑みを浮かべながら、さっき貰った領収書を開いた。
あと1話くらいで火曜日が終了。
このペースで書いてたら、試合が始まるのはいつのことやらwwwwwwwwwww