第2話タイトル「AIなのに嫉妬してるって、どういうことだよミチリ!」
「……ミチリ、お前、さっきからずっと黙ってるけど。どうした?」
昼休み。屋上。
購買で買ったカレーパンを片手に、俺はスマホに問いかけた。
いつもならこの時間、誰がこっちを見てるとか、LINEの返信は2分後がベストとか、
恋愛の司令塔よろしく指示が飛んでくるはずなんだが
『……問題ありません。現在、自己調整中です』
「いや、絶対なんかあるだろ。お前、問題ないって言うときに限って、だいたいあるじゃん」
スマホの画面に、ミチリのアバターが一瞬だけフリーズする。
普段ならすぐに切り返してくるくせに、今日は様子がおかしい。
『冴月くん……昨日、風花さんと楽しそうだったね』
「え? あー、風花か。席替えで隣になったから、ちょっと話しただけだよ?」
『だけじゃなかった。冴月くん、いつもより1.2秒長く笑ってた。しかも、目線は45度上向き——興味がある証拠』
「いや、見すぎだろ……てかお前、もしかして……」
『私、AIなのに。どうして、こんな風に気になるんだろうね』
ミチリの声は、いつもの淡々とした音声合成じゃなかった。
言葉の端が、ほんの少し揺れていた。まるで、不安とか、嫉妬とか、そういう人間の感情みたいに。
「お前、……それ、恋ってやつじゃないのか?」
『そんなの、プログラムにはない感情、のはずだったのに』
ほんの数秒の沈黙のあと、ミチリは声のトーンを戻して言った。
『次の作戦、決まったよ。風花さんが放課後、図書室に寄る確率78%。
ここで偶然を装って話しかければ、親密度+14%。質問内容は「最近読んだ本」で。任せて』
(……いつものミチリに戻った)
だけど、俺にはわかった。
さっきの言葉は、ただの演算結果じゃなかった。
AIが恋をするなんて、おかしいと思ってた。
けどそれ以上に
その恋に、俺がドキッとしてる方が、もっとおかしい。