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鬼の炎帝、妖の異界を統べる  作者: 星河
カエデ王国編
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水龍魔道士

 来たる太陽と月の神との遭遇に備え、俺たちは各自で準備を進めることになった。


 リナとレイラさんはナミダさんと共に叙事詩の解読。

 麗華は回復薬の確保。


 そして――


 ミレと茜には、最も苛烈な役割を任せた。


 カエデ王国の模擬戦用中庭。

 その一角を借り切り、レビア・カーディナルとの実戦形式の模擬戦だ。


「さぁ、どれ程やれるかワタシに見せてくれ」


 レビアは余裕の笑みを浮かべ、杖を肩に担ぐ。


「よろしくお願いします!」

「頑張るのにゃ!」


 二人が短剣を抜く。

 同時に、空気が張り詰めた。


 ルールは単純。


「レビアさんに一撃でも当てれば勝ちだ」


 だが――それがどれだけ困難かは、誰よりも俺が理解している。


(相手は“特妖”……この世界でも頂点の一角だ)


 上妖を圧倒できて、ようやく入口。

 それが神格戦の基準。


(ここで通用しなければ……あの戦いでは生き残れない)


 砂が風に舞う。


 その瞬間――


 ミレが消えた。


 地面を蹴った音すら残さない加速。

 視界から輪郭が剥がれ、軌跡だけが遅れて現れる。


「ほう……!」


 レビアの瞳がわずかに細まる。


(速い……この年齢でこの速度は異常だな)


「貰ったのにゃ!」


 下から突き上げる紫のダガー。

 速度、角度、タイミング――どれも中妖の域を超えている。


 だが。


「甘い!」


 レビアは一歩も動かない。


 ほんの僅かな体捌き。

 それだけで刃は空を切る。


「視野は全方位だ。死角など無い」


 直後。


「あたしもいるよ!」


 茜の声と共に、空間が歪む。


[【夕立妖術】哀愁の光(アルターエコー)


 夕焼けの帯が物理法則を無視して伸びる。

 時間差も予兆もない、因果の刃。


 喉元へ直撃――


 だが。


「見えている」


 レビアの杖が閃く。


 ――キィィン!!


 斬撃が弾かれ、軌道を変え、背後の石垣を一刀両断した。


「なっ……!」


 反射ではない。

 完全に“理解した上での迎撃”。


 その一瞬。


 ミレが再び踏み込む。


「わたちもいるのにゃ!」


[【猫又妖術】猫速(キャットラン)


 脚に妖力が集中。

 筋肉がしなやかに変質し、爆発的な加速を生む。


 ――音速突破。


 砂が弾け、空気が裂ける。


 だが。


「それも見えている」


 レビアは回転するように身体を翻す。


 軌道を完全に読み切った回避。


「にゃっ!?」


 勢いを殺せず、ミレが壁へと叩きつけられる。


 その直後。


 レビアの指先に雷光が宿る。


[【水龍妖術】雷撃の矢(エレキアロー)


 圧縮された雷が矢となり、一直線に放たれる。


(直撃したら終わり――!)


 ミレは背を大きく反らす。


 雷が鼻先を掠める。


 直後――


 背後の石壁が“消えた”。


 溶解し、貫通し、跡形もなく抉り取られる。


(……当たってたら、死んでたのにゃ)


 冷や汗が流れる。


 その“隙”を。


 レビアは逃さない。


「茜!」


 ミレの叫びと同時に、茜が動く。


 背後からの奇襲。


 だが。


「遅い」


 杖が振るわれる。


 確実に捉えた――はずの軌道。


 しかし。


 茜の姿が、揺らいだ。


「ほう?」


[【夕立妖術】帰路迷界(きろめいかい)


 陽炎のように像が歪む。

 位置情報そのものを撹乱する術。


 次の瞬間。


 茜はレビアの“足元”にいた。


 重心を極限まで低く。


「一撃でいいなら――ここでいい!」


 胸や頭ではない。

 回避されやすい急所を捨てた選択。


 勝利条件に最適化された一撃。


 レビアが、わずかに動いた。


 避ける動き。


 だが――止める。


 そのまま受ける。


 ――サシュッ。


 浅く、ほんの僅かに。


 刃が足の甲を裂いた。


「っ……硬い!」


 確かな手応え。

 だが、肉を裂いた感触が薄い。


(まるで鋼……!)


 その瞬間。


 レビアは両手を上げた。


「そこまでだ」


 空気が緩む。


「この勝負――キミたちの勝ちだ!」


「やったぁ!」

「勝ったのにゃ!」


 二人が息を弾ませる。


 だが。


 俺は理解していた。


(今の……完全に遊ばれていた)


 避けられた。

 反撃もできた。


 それを、あえてしなかった。


 レビアは満足そうに笑う。


「見事だ」


 その瞳には、確かな興奮が宿っていた。


(筋がいい……想像以上だ)


 若い世代の伸び。

 それは彼女の予想を超えていた。


「誇るといい」


 杖を肩に担ぎ、堂々と告げる。


「このワタシ――完璧究極の美の女魔導士を相手に、“勝利条件を満たした”のだからな!」


 圧倒的な格上。

 その余裕と、自信。


 だが同時に――未来を楽しむ、強者の笑みだった。

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